あはは。
死神は馬鹿で楽しいなぁ。
社会とか世間とかシステムなんて。
最近の子供はシステムなんかとっくに崩壊しているという前提でくたびれているんだよ。
まぁ、それを言っちゃ可哀想か。
あはは。
死神は馬鹿で楽しいなぁ。
社会とか世間とかシステムなんて。
最近の子供はシステムなんかとっくに崩壊しているという前提でくたびれているんだよ。
まぁ、それを言っちゃ可哀想か。
死神が口を開いた。
「とにかく、あんたはマシンガンを受け取ったし、復讐の契約もした。もはや、復讐するしかないのだ!」
「いいよ。もう復讐から逃げられないんだよね。このマシンガンで何を撃てばいいのさ?」
私は復讐するつもりはないけど、あるていどは死神の気のすむようにしてやろうと決心した。そうしなきゃ、死神はいつまでもつきまといそうだ。
「何を撃つ?
いや、もう目標は決めてある。
ねらいは無差別な大量殺戮だ。
1人でも多くの方々に死の慈悲を与えるのだ。
清く、正しく、美しい復讐!
これが、目標である。
私恨めいた復讐は醜い。
堂々と復讐しようではないか、コソコソしながら復讐しても意味はない。
自分は正しいと胸をはって復讐するのだ。
間違っても、死刑にされたいから人殺しをしましたなんて悲しい事を言ってはいけない。世間への復讐だと考えて人殺しを手段にするならば自分の復讐の正しさを疑ってはいけない。殺した方々にとっても失礼だ。
自分の復讐は正しいと胸をはれる復讐!
死刑にされたいから殺しましたなんて最も下劣な行為だ。死にたい奴は勝手に死ねばいい。自殺できなくても少し辛抱してれば人間は100%必ずいつか死ぬ!
権威を憎みながら、権威を利用する。そいつにしてみりゃ、権威に自分の人生を歪まされたとでも言いたいのだろう。だから、権威を利用して死刑にして下さいと言う。
馬鹿だ。
結局はシステムに飲み込まれてワガママ言っているだけの馬鹿に過ぎないのだ。馬鹿のくせに取り返しのつかない人殺しなんかするな。
システム全体と比べた時に、お前の人生の矮小さを知れ。
お前なんかシステムにとって踏みにじられて当然の人間なのだという事実を知るなら、システムに死刑にして下さいとおねだりする自分の醜さが分かるはずだ。
はじめっから、社会のレールに乗れない人間なんてシステムに切り捨てられてんだよ!その事が気に食わなくて、世間の注目を浴びたくての人殺しかぁ!
馬鹿ぁ!
真性の馬鹿がぁ!
その点、サカキバラくんの方がよっぽど立派だ。
サカキバラくんは逮捕の瞬間まで、自分はシステムなんかに捕まらないぞという自信があったのだろう。若さ故にシステムを甘く見すぎていたが、彼こそ本当の復讐者だ!」
言うだけ言ったら死神は黙り込んでしまった。
死神の顔を見ると汗ビッショリでなんだか呆然としている。死神はかなり感情の起伏が激しいタイプらしく、ものすごい勢いで話し出したかと思えば、いきなり沈黙する。
まくしたてるか、沈黙か。二つに一つしかない。
たぶん、激流みたいに激しい感情と、氷みたいに冷たい憎悪が、行ったり来たりしながら心に対流を起こしているのだろう。
例えるなら「あったかーい」と「つめたーい」が同棲している心だな。どっちにもまとまらずに結局「なまぬるーい」心。
死神が「普通の大人」と違うのは、自分が言った言葉の威力をまったく信じていない事だ。学校の先生なんかは、あたまっから自分は素晴らしい事を言っていると信じきっているので、自分が何か言葉を言えば、子供達に「知性」や「知識」を与えられると信じきり、自分の言葉を聞いた子供が何かに目覚めるのを笑顔で待っていたりする。これは、少々ウザイのだ。自分の語る言葉が「決めゼリフ」だと思い込んでいる大人の言葉は重くのしかかる。
その点、やや死神に好感を持てるのは、自分の言う言葉を死神自身まったく信じきれていないところだ。
ほとんどノリで話し、話し終わってから失敗したと落ち込み、それでもなんとか次の言葉で説得できるかもと、自分をふるいたたせてまたノリで話して、失敗したと落ち込む。
やれやれ。
死神が話している間にリモコンを見つけたので今はクーラー全開。かなり涼しくなった。私は立ち上がり部屋のカーテンを開けた。
日の光のもとで見る死神は普通の人間だった。