





中津競馬場が2001年3月22日の開催を最後に閉鎖されてから今年で13年になる。
伯父さんが中津競馬場で馬を10頭ほど走らせていた関係で、
中津競馬場は中学生の頃から通った競馬場である。
スタンドやパドックだけではなく、厩舎や馬房にもついて行っていた。
そこには未だ見ぬ大人の世界があった。
ボロ ( 馬糞 ) と寝藁の匂いが独特で、
その匂いを嗅ぐたびに 「 競馬場に来たんだな 」 と、思ったものである。
入場ゲートをくぐると、馬券の発売を急かすように曲が流れ、
場内に馬券の締め切りを知らせるベルが鳴り響くと、
大人たちは我れ先にと穴場の小さなアーチの小窓に手を突っ込んで
せわしく馬券を買い求めていた。
馬券の発売が締め切られると、
さっきまで誰もいなかったスタンドに、どこからともなく観客が集まって
あっという間に小さなスタンドを埋め尽くした。
ゲートインが始まると観客は予想紙やスポーツ新聞を片手に
固唾を飲んでスタートを見守った。
ゲートが開いたのを合図にそれまで静かだったスタンドが一斉に賑やかになる。
ある者は立ち上がり、ある者は大声で応援する馬や騎手の名を連呼し、絶叫した。
それは4コーナーを回るとより一そう激しくなり、
あちこちで怒号のように響いていた。
ゴールすると大人たちは歓声を上げたり、ため息をもらしたり、さまざまだった。
そして誰に聞かせるでもない愚痴や推理を呟きながら
蜘蛛の子を散らすようにスタンドから姿を消して行った。
誰もいなくなったスタンドにはパンチで打ち抜かれたハズレ馬券が
白く赤く翻りながら風に踊り、
スタンドの隅の暗がりには煙草の白紫の煙だけが残されていた。
それがボクの中津競馬場の 「 心象風景 」 だった。
そして中津競馬場が 「 ボクの競馬の原点 」 だった。