そんな重大な時に、衆院選に際し
ボクは入院病棟のベッドに居た。
四年間痛みに苦しんだ、腰痛の原因。
脊柱管狭窄の部分を手術してもらうため。
インターネットで尋ね当てた、
黄金の腕を持つ外科医のお一人に
人口透析も出来る病院に応援に来て頂き、
ボクはオペ室に運ばれた。
名医の腕は確かで、麻酔医が予想したより
はるかに短時間でボクの手術は終了した。
麻酔が効き過ぎてボクは覚醒しない。
夜間人口呼吸器を装着され、決まりの酸素量
がボクの昏睡を助けていた。
ボクは不思議な世界に行っていた。
大勢の家臣を引き連れて近江の国に出陣。
ふと気付くと廻りに誰も居なくなって、
たちこめた霧の中に一人。笹の葉がさわぐ。
いちじんの風が吹いて、目の前が瞬時晴れた。
そこに見えた一筋の川。
うむ、姉川か?
いや違う。姉川はもっと川幅が広い。
はは~ん、これは藤古川だな。
とすると時代は十六世紀から七世紀に飛んで。
オカシイナ。なぜ壬申の乱にボクが居る。
川を渡る用意をしていた。
そこへ向こう岸に現れた一角の武将の姿。
ひざまずいて、恭しく言った。
あいや、お待ち下され、この辺り一帯に
もはや敵の姿は見えませぬ。
すべて我が前田の手の者が掃討してございます。
御自らこちらに御渡りになることはございませぬ。
その時がオペの翌朝の四時ごろだった。
夜勤のナースがボクの名を呼んでいた。
あらっ、お気づきになりました?
なんとか言った、例の川を渡り損ねた。
迎えの者は誰もいなく、代わりに味方の部将が、
こっちへ来るなと言った。
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