二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

ヴァルハラの乙女 第15話 「ロンドンの休暇Ⅱ」

2015-05-18 07:08:58 | ヴァルハラの乙女


タワー・ブリッジ。

1894年に完成した跳開式の可動橋で、
仕組みは東京の隅田川にある勝どき橋と同じである。
ただ、外観はタワー・ブリッジの方が見栄えがよく現実でもロンドンの名所として知られている。
巨大な橋が持ち上がる光景はなかなか壮観で、周囲の観光客からおお、と声が挙がる。

「わ、わわ、動いてる、動いてるよエリーさん!」
「はい、私も間近で動いているのを見るのは初めてです」

宮藤、そしてエリーも2人で楽しそうにはしゃいでいる。
そんな2人を案内するのがわたしの役割だが、何だが家族サービスをする父親の気分だ。

「む、宮藤は兎も角エリーは始めてなのか?」
「ええ、普段はあまり、その、こうして遊ぶ機会がないので…」

遊ぶ機会がない、ねぇ。
やっぱりこの子は良家の子女なんだろうな。
この時代はそういう層はごく当たり前にいるし。

「そうか、わたしは籠の中から救い出す騎士様でないけど、
 魔女として、今日1日を楽しむ魔法ぐらいは使おうと思う」

「ふふ、素敵な魔法。
 ありがとうございます、魔法使いさん」

エリーはくるりと此方に向きなおすと、
慣れた手つきでスカート(ベルト)の端を両手で掴んで感謝の意を示した。
スカート、あ、いやこの世界ではベルトを掴んでお辞儀をするなんて本当に貴族の娘っぽいなこの子は。

「あ、バルクホルンさん見てください。
 あそこでニュース映画の撮影をしてますよ!」

なんて考えていたけど、
宮藤の言葉に釣られて彼女が指差す方向を見る。
そこには確かにカメラが数台、レフ版、棒マイク。
などなど各種機材を持ったスタッフ達がごそごそと準備をしている。

プロパガンダ映画の撮影だな、あれは。
この時代はネットどころかテレビすらなくて映像で見るニュースといえばニュース映画だしな。
わたし自身、何度か戦意高揚のためのプロパガンダ映画には参加したし懐かしい。

しかしどこか違和感を感じる。
こう、なんて言えばいいのか…そうだ、妙にこっちを見ている気がする。

改めて、周囲を見渡してみた。
前方に老夫婦のペア、老婆が時折こちらに視線を寄越す。
老人が喉元に手を当てて何かを呟いている…たぶん、喉頭式マイクを使っている。

手鏡を取り出して、身づくろいをするふりで後ろの様子を見る。
ベンチで新聞を読んでいる紳士、一見ごく普通の光景である。
だが、ウィッチの強化された視力では紳士の耳元にイヤホンがあるのがわかった。

……試すか。

「失礼」
「きゃ?」
「わっ!?」

2人の手を引っ張り、
左にエリー右に宮藤を抱え魔法力を発現。
そのまま、全速力で駆け抜けた。

周囲はいきなり街中で魔法力を発現させたことに驚き、
両脇に少女を2人を抱えた自分に好奇の視線を送っている。

そして、視線を先の老夫婦の方へ再度見たが…当たりだ。
慌てて立ち上がって、どこかと連絡する素振りを見せていた。
っと、おまけに前方にいかにも、という黒スーツの男がこっちに寄ってきている。

「悪いが2人ともしばらくじってしていてくれ」
「えっ、バルクホルンさん?」

宮藤の疑問に答えるより前に問答無用に纏めて2人を両脇で抱えて駆ける。
このまま車に戻って逃走すべきだが―――ちっ、先回りされている。

ついでに、後ろからも追いかけられているようだ。
だとすれば逃げ道は唯一つ、川だ。

「うぁ!」
「ひゃ!?」

橋の手すりに足を掛けて、魔法力で強化された筋力で一気に川に飛び込んだ。
脇に抱えている2人が悲鳴を上げるがまあ、仕方がない。

いくら下が水とはいえ高さは相応にあるから。
そして、このまま3人で水泳ということには―――ならなかった。

狙い通り橋を通過していた川船に着地。
高所から飛び降りての着地なんて格好が良いものだが、
普通ならば膝を痛める上に、人を2人も抱えてなんて膝を完全に壊す蛮行であるが、
ウィッチとして強化された肉体は何ともなかった。

だが見ていた側には衝撃的なシーンだったらしく、降りた先の船員たちはわたしをガン見している。
まあ、空から両脇に少女2人を抱えたウィッチが降ってくればそうなるか。

「訳があって逃げている、手伝ってくれないか?」

意味ありげに片目をつぶり、
脇に抱えた2人を持ち上げると船員たちが笑いながら口笛吹いて挨拶を返してくれた。

…あー勘違いしているが、細かい所は気にしないで置こう。
見ず知らずの自分に協力してくれるのだし。

「まあ、これはもしかして愛の逃亡というものでしょうか?」
「へ?」

続けて殿方でないのが残念と呟くがまったくそうだ。
愛の逃亡かロマンだけど今のわたしは女なんだよなぁ…。
改めて頬を赤らめるエリーと頭に?を浮かべる宮藤。

そして再度10代の少女を両脇に抱える自分を見る。
うん、愛の逃亡よりも誘拐という単語の方が強く連想できる。

ぐきゅう。

なんて考えていたら唐突に腹の虫が鳴る音が聞こえた。
思わず、宮藤の方を見るが顔を横に振っている。
もしやと思いエリーを見れば顔を背けた。あ……。

「…お昼にするか」
「はい……」

彼女の名誉のために深く突っ込んではいけない。
その後、船を市内に進めてもらい、ロンドン名物の2階建てバスで適当に移動。
適当な料理屋に入って昼食を頂くことになる…鰻があると聞いて宮藤が頼んだ鰻がアレだったが。



※  ※  ※



「な、なんで鰻をあんな風に料理しちゃうんですか!!!」

昼食を終えて店を出てから鬱憤を晴らすように宮藤が叫んだ。
骨ごと鰻をぶつ切りにして煮込んだ鰻と煮る檀家で煮こごりとともに食べさせる代物だが、
煮込む際に醤油のような濃い味付けをしないせいで淡白すぎる味となってしまう。

鰻の蒲焼に慣れた人間にはカルチャーショックが強いようで、
始めはちょっと贅沢しちゃおう、なんて顔を輝かせて宮藤の表情が出された料理に戸惑い。
食べ初めてからは徐々に瞳からハイライトが消えていったのは、ああ同情するよ。

「あの…すみません巻き込んでしまって。それにお昼まで奢ってもらって」
「何、この程度は大丈夫さ」

エリーが頭を下げるがこの程度はたいしたことはない。
何せ普段基地で生活している間はお金を消費しないものだから貯まる一方だし。

「バルクホルンさん、この後どうしますか?」
「ああ、そうなぁ……」

宮藤の言葉にチラリとエリーを見る。
彼女は次はどこに行くか顔を輝かせスカートを握り締めている。
そんな表情をされたらすることなんて決まっている。

「よし、このままロンドン物見遊山を続行しよう」
「はい!ありがとうございます!!」

エリーがわたしの手を握り感激の感情を握った手を振ることで示した。

「けど、私達といられるのは夕方まで。
 それからはエリーは1人になるが、それでいいのか?」

人から感謝されるのは嬉しいものだ。
だけど、これだけはハッキリしなくてはならない。
まさか基地までエリーを連れて行くわけには行けないのだから。

「分かっています。
 元々私が家を飛び出したのだから私が悪いのです。
 けど、バルクホルンさん安心してください。父とは今晩もう一度話し合ってみます」

こっちの杞憂を他所にエリーは決意を表明した。
よし、だったら決まりだ。

「ではロンドン観光第2弾と行こう」
「はい!」
「はーい」



世界的に有名な探偵小説「シャーロック・ホームズ」
主人公が下宿していたベーカー・ストリート221b番地のアパートを見学。
持ってきたカメラでアパート正面で宮藤、エリーの2人の記念撮影。

「学校のみんなに自慢できちゃうなー」
「ふふ、私も父に自慢できてしまいます」
「それはよかったな」

近所の土産物屋でホームズ関係のが販売されていたので、
宮藤がホームズのマント、エリーが父親への土産にパイプを、
わたしは暇つぶし用に英語版シャーロック・ホームズを購入する。



今度は時間短縮もかねて贅沢にタクシーを使ってロンドン塔へ。
約1000年に渡って増改築を繰り返した歴史的建造物と同時に、
かつては数々の王族を処刑、幽閉した曰くつきの観光名所である。

「いい眺めだ、それに人があまりいないのも幸いだ」

塔の頂上は前世で登ったスカイツリーよりもウンと低いが、
高層マンション事態あまりないこの時代では意外と良い眺めに嘆息する。

「でもこの場にいるのは私達だけではありませんよ、だってほら後ろにもう一組いますよ」

エリーに従い後ろを振り向くが誰もいないが、はて?

「え、いるじゃないですか。
 なんか古風な服装をした男女ですよ。
 恋人なのかな、いいなあー私なんて出会い事態ないし」

続けて宮藤が言葉を綴る。
再度後ろを見るがだれも見当たらない。

「あ、宮藤さん、あの2人…きゃー!」
「わ、わー!いいなーいいなー」

それでも2人がまるで見えているように騒ぎ出す。
わたしを騙したり辛かったりする演技なんてことはないし、
ロンドン塔は「出る」という噂は聞いているがまさか、まさかな…。

「あ、記念撮影お願いします、バルクホルンさん!」

写真に変な物が写らなければいいけど…。



大英帝国博物館は見所が多すぎて時間が足りないので、
目玉であるエジプトのミイラにロゼッタストーン、古代ギリシャのパルテノン神殿を飾った彫刻を主に見学する。

「ブリタニアの物が少ないなあ、上野の博物館みたい」
「宮藤、そうなのか?」

宮藤が言うのは上野の博物館も展示物が海外のものばかりだそうだ。
まあ第六天魔王もといノブノブが本能寺を生き残って海外進出ヒャッハー!
な世界なのでここと同じくかつて略奪した物の展示物があっても不思議でないか。

それはさて置き。

「猫耳なギリシャ彫刻の女神像とは…」

人類とウィッチ関わりは人類史と密接に結びつき、
歴史の騒乱点でウィッチが関わることで前世の歴史とは違う歴史を歩んできてのは知っているが、
頭から突き出た猫耳のギリシャ彫刻を見ていると等身大フィギアという単語がどうも浮かんでしまう。

そして昼食を終えてからここで3箇所目の観光地。
なかなかの強行軍であったが久々に戦争を忘れ楽しめた。
だが、何事も終わりがあるように太陽は沈み始め、時刻は夕方の時間を示すようになった。



「今日は本当にありがとうございます。
 素敵な魔法の時間を頂いて本当に感謝していますバルクホルンさん、宮藤さん」

約束の時間に至りわたし達は分かれることになった。
結局黒服の男達による尾行は見受けられれず1日が終わった。
正直拍子抜けしたが済んだことを気にしても仕方がない。

「家の近くといったが本当にここらなのか?」
「はい、そうです」

正面に見えるバッキンガム宮殿を筆頭に官庁と高級住宅が集中する地区だ。
なんだが妙なひっかかりを覚えるが、なんだろう?

「それではまた何時か会う日まで、御機嫌よう」
「ああ、じゃあな、エリー」
「エリーさん、またねー!!」

手を振り別れを告げる。
そしてエリーの姿が夕焼けのロンドンの街中へ消えていった。

「別れは意外とあっさりとしたものだな」

思わずそんな感想が口から漏れる。

「でも、バルクホルンさん。私なんだがエリーさんとはまた会える気がするのです」
「ほうその根拠は?」

わたしの感想に宮藤が反論する。

「魔女の勘です!!」

対して宮藤はこれ以上ないドヤ顔で答えた。
そんな表情が微笑ましくてこっちの口元からも笑みがこぼれるのがわかった。

「ふ、魔女の勘か。たしかに我々に相応しいな。
 ああ、きっとエリーとはまた会えるだろうな宮藤が言うとおり」

これはわたしだけが知っている事実だが何せ世界を救う主人公の勘だ。
なら間違いなく彼女とはまた出会えるはずだ。

「さて、わたし達も帰ろう。
 今のわたし達の家である501の基地に」

「はい!」

彼女に家があるようにわたし達も帰る。
今日の出会い、特にエリーの正体に気づくのはもう少し先の話である。















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弁当 豆ご飯、韮卵、ほうれん草のおひたし、塩鮭、たくあん

2015-05-13 22:58:54 | 日常



使える材料が少なかったので今日の献立は簡素なものと成りました。
とはいえそれでは寂しいので朝の短い時間の間に出来るかぎり工夫を凝らしました。
例えばご飯は唯の白米ではなく枝豆を混ぜた豆ご飯、それに歯ごたえを加えるためのたくあん。
また魚、野菜、その他おかずと弁当の中でそろえる為韮と混ぜた卵閉。

とはいえ、色合い的にもう少しバリエーションがほしかったです。
















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おススメSS 証言記録(艦これ)

2015-05-11 23:04:31 | おススメSS

証言記録

皆様第十一号作戦の進捗具合はいかがでしょうか?
自分はまだまだ新米提督なのでE1こそ突破できましたが、
連合艦隊の運営前提の上に、E2は資材とレベル的に無理なので次の機会に参加したいと思います。

この艦これSSは「艦娘たちの戦後の生き方」を物語にしたもので、
艦娘たちが戦争を終えた後の人生と戦中についてインタビューを受ける形でSSが進みます。

宇宙飛行士になった駆逐艦「島風」と相棒の連装砲。
海底ケーブルの敷設という戦後復興作業に関わる伊168。
空母艦載機のパイロットになった空母「瑞鶴」
自ら開業した靴屋「くじら」の店長として生きる「大鯨」
空母の艦載機を利用したベンチャー企業の社長として成功した軽空母「龍驤」

どの話でも登場人物のキャラのや口調を見事に再現できており違和感なく読めます。
つまり、それぞれの話で読者が納得できる確固たる世界観が見事に構築されています。
隠れた良作SSです、ぜひ見てください。


ごねるにごねたわたしを見かねた提督が上層部に掛けあって、
赤城さん、大鳳さん、戦友たちが陳情をしてくれて、連装砲ちゃんと一緒に過ごせるように力を尽くしてくれた。
そんなことがあって、いままで全否定だった海軍も意見が揺れ動いた。特に足柄さんが積極的に旗振りをしてくれて、
どんなことをしてくれたのか教えてもらえなかったけど、政財界の重鎮たちから軍に対して口を聞いてもらったんだ。とってもありがいことに。

政財界の重鎮たちからの口添えがあって、いままで全否定だった軍内部もすこし空気が柔らかくなった。
連装砲ちゃんを民間に出してデータを積極的に集めるべきだって意見と、

機密情報漏洩の危険性があるから軍内部に留めておくべきだ、
って意見が真っ二つに割れて、色々とあったらしいけどね。わたしはそこらへんあんまり知らないんだ。

終戦から1ヶ月ぐらいしてからのことかな。
提督と技術部の人たちがわたしの実家に連装砲ちゃんを連れてきて、連装砲ちゃんを貸与するための手続きをしたんだ。
「艤装に宿った魂を調べるためのテストケースとして承認が下りたんだ。おめでとう島風」って提督は言ってたっけ。
いまでも月に一回は日本海軍の技官と、メーカーの技術者がやってきてデータを調べていくよ。
まあ、最近はNASAと組んで色々なことを行っているらしいけど。内容は教えてもらってないなぁ。
知っていいことなら教えてくれるだろうから、まだその時じゃないかもね。
連装砲ちゃんも教えてくれないってことは、わたしが知る必要がないってことだし。

(島風は優しげに微笑む)

連装砲ちゃんはわたしにとって相棒なの。背中を守るに値する、ね。
あの戦争を戦い抜いて、戦後世界を戦い抜いて来たわたしの相棒。
数年先に予定されている火星着陸ミッションのクルーに、連装砲ちゃんも選ばれているんだから。
あっ、まずっ、これ一週間後の記者会見まで秘密だっけ。
いやいやーちょいまず。記者さん、この部分はちょっとカットするか、もしくは一週間先までお口チャックお願いね。
外に漏れちゃうとまずいからさ。

(島風は両手をチョキの形にしてカット、と口にした)

まっ、話をしちゃったから黙っていてもらうとして、すこし話をしちゃおうか。
火星着陸ミッションのクルーに連装砲ちゃんが選ばれたのはマスコット的な意味じゃない。
連装砲ちゃんが人間と同じぐらい、ううん、もっと連装砲ちゃんが機材を自在に扱うことができて、なおかつ人間と違って食料を食べる必要がないから。
超長距離を移動する際に食料を減らすことができれば、それに越したことはないからね。
他にも理由は色々とあるけど、そこについては一週間後の記者会見を聞いてよ。


(島風は言葉を区切ったあとこんなことを呟いた)


連装砲ちゃんに宿っている駆逐艦”島風”のクルーの人たちは、火星に行ったらどんなことを思うんだろうね。どんなことを考えるんだろうね。
この惑星のうえで亡くなった彼らの魂を連れて、火星にわたしは行きたい。
わたしはそれが楽しみなの。


















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弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.7「敗北」

2015-05-03 12:54:28 | 習作SS

槍の使い手を刀の担い手が倒すには3倍の技量が必要。
という俗説があるように、リーチ差がある槍の方が白兵戦では有利だ。
だから人類の歴史ではよりリーチ差のある武器を開発し、槍という兵器を絶滅させた。

しかし、今直面している魔術の戦いはそうではない。
例え投剣に魔術と遠距離の攻撃手段があって本質的には格闘戦、白兵戦。
そして相手は槍の使い手、今まさに原始的な戦いへ逆戻りした。

味方はシエル先輩、言峰神父。
両者はいずれもボクなど一瞬で抹殺できるほどの技量を持つ歴戦の代行者である。
潜った修羅場の数も段違いで、唯の吸血鬼1人だけなら十分すぎる陣容だ。

が、相手は27祖の一角であるタタリ。
今の姿はかつての第4次聖杯戦争のランサー、ディルムット・オディナ。
これがもしもカッコいい外見だけならよかったが、タタリはランサーの能力を引き継いでおり、
人間がサーヴァントに勝てる可能性など、赤毛の異常者を除けば極めて難しい。

だからこうなる事は薄々分かっていた。

「あ……ぐっ――!!」
「シエル先輩!!!」

ランサーの槍が先輩の左肩を突き刺し鮮血が飛び散る。

「ふっ!」

直後言峰神父が黒鍵をランサーに向かって投擲。
その数は6本、数秒もしない内にランサーに黒鍵が殺到する。
が、ランサーはもう一本の槍を回転させてその全てを叩き落とす。
例え1本でも人間の手足を吹き飛ばす威力を持つはずの黒鍵を吸血鬼は片手で軽々と迎撃してしまった。

「先輩から離れろ!」

だけど視線はボクから完全に外れた。
その隙を突く形で地面のそこらで転がっているコンクリートの破片を投擲。
狙い通り、ランサーの頭に直撃し派手な音を立てるが頭が割れて脳漿がブチ撒かれることはなかった。
くそ、知識として知ってはいたけど本当にサーヴァントの人外の力と頑丈さには恐怖を通り越して呆れるな!

しかし、今の攻撃でランサーはよろけ、シエル先輩が自力で脱出しボクの隣まで後退する。

「シエル先輩!」

「ああ弓塚さん、この程度ならまだ大丈夫……。
 いやそうでも無いようですね、どうやら治癒魔術が効かないようです」

「…え、あ?」

絶え間なく血が流れる肩を押さえ苦笑を零す先輩。
魔術師として最高の技術を有する先輩を以って直せない傷となれば、

「ふむ、その身体能力だけでなく宝具まで再現するのか…厄介だな」

言峰神父が答えを呟いた。

ランサー、ディルムット・オディナ。
聖杯戦争では運がない歴代のランサーの中でも特に不運にまみれた英霊だ。
だが、傷を癒すことができない呪いを与える槍、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を保有しており、
セイバーのエクスカリバーのような派手さはないが相対する相手にとって厄介極まりない宝具に違いない。

まあ、その第四次聖杯戦争では外道上等の敵がいたのもあるが、
身内の不穏調和がランサーにとって最も厄介で最大の敗因であったが。

だが、今は違う。
現在ボク達が相対しているランサーはマスターの縛りが一切ない状態の英霊。
腹ペコのように魔力不足もなければ、手加減する気は一切ないと―――来た!!

「■■■■■――――!!」

獣のような咆哮と同時に一瞬で距離を詰めて来てからの一突きをギリギリ避ける。
負傷しているシエル先輩も傷があるとは思えぬ素早さでランサーの攻撃から逃れる。

しかし、飛び込んで来たランサーがこれだけで攻撃を終えるはずもなく、
主にボクを狙って二双の槍を自由自在に操り追い詰める。

「ぐぅ!?」

それにこっちは反撃どころか避けるのに精一杯だ。
致命打を受けずにいられるのは例え戦い方はどの素人のボクであるが、
それでもなお英霊を相手にしてかすり傷で済んでいるのは吸血鬼の能力のお陰である。

が、それもいつまで持つやら。
吸血鬼の能力が優れていても何もかも経験不足のボクでは長くは持たない。
これがもし平均的な魔術師もしくは魔術使いならば、経験不足を人外の力で無理やり捻じ伏せたであろうが、
英霊とはボクのような人外を殺すには慣れているのだから、本当に相手が悪すぎる……!!

「■■■■――――!!」
「――――っっっ!?」

槍の横なぎを避けれず左腕で受け止めてたが、
魔術で強化しているにも関わらずミシリ、と腕が嫌な音を立てると同時に激痛が走る。

そして受け止めた槍は止まらず、進み続けている。
漫画とかアニメなら衝撃を殺すため自分から飛んで衝撃を和らげるなりするのが定番だが、
残念なことに自分はまだそこまで器用な真似は出来ない、ゆえに次の瞬間ボクはランサーに宙高く吹き飛ばされた。

「が…あ―――っ?!」

今まで経験したことがない激痛と共にぐるぐると視界が何度も上下逆さまになる。
数秒ほど宙を舞い、その間に公園の木々をなぎ倒しながら落下した。

それでもなお起き上がることはできるのは吸血鬼様様であるが、
眼がチカチカするし、何よりも勝てる要素が見当たらないという絶望の心境が心を犯し、体の動きを鈍くする。
そのせいだろう、だからランサーの槍を今度こそ避けることができずまともに受けてしまった。

「あ……?」

わき腹に深々と突き刺さる槍。
意外と痛みはあまりなく、熱い感触しかない。
吸血鬼ならこの程度問題ないがランサーの宝具は傷を癒す力を防ぐ代物。
全身から力が抜けて地面に倒れ、視界に移るのは黒い地面だけとなる。

「弓塚さん!!」
「ちっ…!」

ゆえに聴覚だけが外界を知る手段となり、
シエル先輩がボクの名を叫ぶ声、それに意外なことに言峰神父の悪態が聞こえた。

「吸血鬼を心配する代行者か、実に珍しい。
 そして、今宵の我が舞台の役者として演ずるに値する」

「…ランサーではなくタタリが出てきたか」

狂戦士のように雄叫びを挙げて襲い掛かってきたランサーが口を開いたようだ。
否、この無駄に自らを演出家と看做しているような口調はランサーではなく、タタリだ。

「然り、神父言峰。先ほどまでは意識はランサーであったが、今はタタリだ」

「そうですか、出来ればこの町から去ってくれませんか?
 なんだかんだと言って私。この町を気に入っているのですから」

いつもの柔らかな雰囲気を一切消してシエル先輩が本心を述べる。

「君の願いは却下する。
 私にはやらねばならぬことがある。
 それが適うまで私は辞めるつもりは毛頭ない。
 しかし…英霊を再現するのはなかなか骨が折れたが……これは実に良い。
 今まであらゆる者を再現してきたが、ああ、実にすばらしい、まったくすばらしい!!」

そう言い人の感情を逆なでするような声でタタリが大笑した。
くっそ、気に入らない、まったく気に入らない。
ロアと同様自分の願望、いや妄執のためだけに人を巻き込んでおきながらこの態度が気に入らない。
今すぐ奴をこの手で消してやりたいが、ようやく地面から顔を上げることしか出来ていない自分の無力さが情けない!

「さて、お喋りはここまでとしよう。
 真祖の姫、魔眼の死神に続く3番目の不安要素はたった今排除した、次は君たちだ。
 私としてもう少し会話を楽しみたかった所であるが何、予定が混んでいる故ここで死んでくれ」

「…っ舐められたものです!アーパーや遠野君はともかく、
 私を差し置いてへっぽこ吸血鬼の弓塚さんを3番目の脅威を見ましたか!!」

「その話、興味深いが、私がそこに転がっている半端者兼肉壁以下とは実に不愉快だ」

え、あれ?
いや、アルクェイドさんや志貴がタタリにとって脅威になるのは納得できる。
けど何でボクがシエル先輩を差し置いて3番手に!?
で、半端者はともかくさりげなく肉壁呼ばりした言峰神父ぅ…。

「疑問、という顔を浮かべているな弓塚さつき。
 今は新人役者に過ぎないが、いずれ人々が舞台の役者として注目されるだろう。
 君の真の能力はそう評価するに値する力を秘めているのだよ、それこそ君と同じく才能に満ちているそうだろう埋葬機関?」

ニヤニヤと意地の悪い笑みをタタリは浮かべる。
そうだ、シエル先輩もボクと同じく辺凡な人間であったが、
ロアの吸血鬼と成れたように吸血鬼としての才能に恵まれてい―――うっ…っ。

「不愉快ですね、どうして吸血鬼という生き物は進んで人を不愉快にさせるのか疑問を覚えますね」

そのシエル先輩は無表情かつ息が詰まるほど濃厚な殺意を纏い淡々と怒りの言葉を綴った。
かつて対峙した先輩なんか比較にならないほど本気の殺意に気持ちが萎縮する。

あの時の先輩は確かに殺すつもりがあったけど、ここまで迫るものはなかった。
そしてもしもあの時に今のような態度で先輩が対応していたら…生き残れなかっただろう。

だけど、それで今の問題は解決しない。
先輩がどんなに卓越した代行者でもまがい物であっても片腕が負傷した以上英霊に勝つことは無理だろう。

言峰神父もそうだ。
元々シエル先輩に能力的に劣る以上英霊に対抗するなんて無理だ。
つまり状況は相変わらず絶望的、ボクに出来ることは―――くそ、何にもできない!!

何か手は、何か手はないのか?
いっそ【漫画版】のシオンのように意図的に吸血鬼として暴走させるか?

けど、ボクはシオンのように暴走しつつ制御するほど賢くない。
そのまま周囲を巻き込んだ挙句自滅するか、先輩に殺されるかの2択になるだろう。

「おや…?」

タタリが首を傾げつぶやく。
っと、今度は何を…あ、タタリの姿が。

「英霊を再現するのはどうやらここまでのようだ」

タタリはぼやけたテレビの画面のように姿が薄れる。

「今宵はここで終劇としてごきげんよう、また会おう紳士淑女の皆様」
「待ちなさい!!」

先輩が叫ぶと同時に黒鍵を投擲。
黒鍵は姿が薄れたタタリを貫くが陽炎を貫くように打撃を与えることはなかった。

「キ、キキ…キキキキ!!!劇は始まったばかり。 
 君の怪我もその吸血鬼の傷もランサーを演ずる私が消えれば回復する。
 慌てる事はない、劇はまだ回り回る、次は君が活躍できる劇を脚本家として用意しよう!!」

狂笑するタタリに先輩は睨み、
言峰神父は無表情で観察し、ボクは呆然と見る。
黒板を爪で引っかくような頭が痛くなる笑いと共に姿が薄れていたタタリはやがて本当に消えた。

「我々の負けだな」

ぶっきらぼうに呟いた言峰神父の言葉が今の感情を代表していた。
あのままタタリと戦っていれば間違いなくボク以外の2人もあの場で倒されていただろう。

準備不足を言い訳にしても負けは負け。
相手のお情けのような形でこの瞬間を生きながらえたという、圧倒的な敗北であった。

















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弁当 鮭の塩焼き、ほうれん草のナルム、筑前煮、胡瓜黒酢

2015-05-02 11:26:31 | 日常




SSのブログのはずだが、最近のリアルの事情により全然書けていない(汗)
世間は昨日はGWの始まりの日でしたが社畜の自分は昨日までが仕事だったのでいつものように昼ごはんを作りました。

タンパク質として塩鮭、筑前煮の鶏肉。
野菜は筑前煮の蓮根、茸、人参。青い野菜はほうれん草、胡瓜。
白はもやし、さらに赤は生人参と出来るだけ色々な色が出るように工夫しました。
















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