「と、いう訳でCIAと中露韓の工作員と見分けがつかないから、纏めて拘束しといたぜ」
「なっ・・・!?」
歓声が絶え間なく響く銀座の街角で交わされる会話。
駒門はCIA工作員であるグラハムに対し配下の人間を全て捉えたことを伝えた。
それも「CIAとそれ以外の区別がつかない」という最もらしい言葉と共に。
「馬鹿なっ!そんな言い訳が通じるか?
それにCIAだけでなく他国の工作員まで拘束できるだけの人材をこの国は用意できない。
この事実を知ってるから我々は銀座で待ち構えていたのだぞ、どんな魔法を使ったんだ!?」
政治的な要因もあるが諜報防諜専門の人材不足。
という点を知るがゆえにCIAを筆頭に各国の諜報機関はこの日銀座に集結し、
昨晩は逃げられた特地からの賓客を拉致するために待ち構えていたが、実行する人間が全て日本側に拘束されてしまった。
「簡単だ、わたしが協力したのだ『同じ日本人として』」
2人の会話に差し込む第三者の声。
「おまえは・・・失礼、貴方はまさか・・・」
「貴官の想像が真実を突いているならば私は軍の将官というわけだ」
軍衣ではなく平成日本風のスーツ姿の村中孝次少将がグラハムに述べた。
その言葉を聞き、グラハムは無言で敬礼を送る。
「工作員を合法的に排除する方法として警察が不審者として身柄を拘束する手もあったが、
急な上に後先考えず暴れると可能性もあり、こうした仕事には慣れていない。
ゆえに我々が必要な人材を提供した、賓客を安全に特地へ送り出すという点で帝国と日本は利害の一致を見出したのだ」
「・・・インペラル・ジャパンと日本の繋がりがそこまで強いものだとは、
見抜けなかったCIAの責任だな・・・理解しました、今回は私たちの負けであるのは認めましょう、閣下」
「なに、次回も貴官に勝利を譲る気はないさ」
「それでも構いません。
合衆国は勝つまで何度も挑み続ける、そういう国ですから・・・失礼」
敗北を認めたグラハムはそう別れの言葉を継げると熱狂の渦にある銀座の中に消えて云った。
「終わった・・・ご協力感謝します、閣下」
「気にすることはない、
我々を縛る飼い主が決めたことだ。
それにわたし個人としても同じ日本人として協力を希望していたゆえに」
駒門の謝意に対し村中は笑顔でそう答える。
史実では2・26事件を引き起こした危険人物とは思えない柔らかなものだ。
顔を合わせた当初はそうした史実の経歴もあって警戒を抱かれていたが、
こうした人当たりが良い笑顔を見せる上に、「政府の命令に従う」という点で平成日本から好感を得るようになった。
(だが、それは本当か?
この男は時折ぞっとする様な眼で俺達を見ている)
駒門が村中と顔を合わせたのは今回が初めてではない。
平成日本側の諜報担当者としてこれまで何度も会話を交わした。
その中で村中の思想を暗に問いかけ、
さらに挑発するようなこともしたが極めて模範な軍人の回答しかこなかった。
だが、何らかの感情を平成日本に抱いているのは目に宿る感情で察せられた。
(加えて上の連中は今回の件で助かったと陽気に喜んでいるが、
大日本帝国に対して貸しが出来ちまったことに気づいているのか?
おまけに今回我々が協力したから次回は『帝国日本と日本が協力し合っている』
ことを前提に謀略を仕掛けて来るのは避けようがない、だからこの協力体制を崩すことなんてできない!)
唯でさえ人手不足の状況で激しくなるだろう謀略への対処、
そして『同じ日本人だから』と甘い考えを抱く上層部に駒門は頭を痛める。
他国から門について干渉されるのを避けるという点で利害は一致しているが、
今回の件で協力体制構築のためと称して、平成の日本に帝国の日本が干渉を強める契機となってしまった。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません」
だからこそ、見極める必要がある。
或いはこの男を利用しこの国に蔓延る連中を排除させる。
という覚悟と度胸でこの男には対峙せねばならない。
そう駒門は考えた。