ロアとの決着を付けて吸血鬼として人生を始めた弓塚さつき。
遠野の屋敷に身を寄せ、真祖、代行者、混血、殺人貴が集う人外魔境と化した遠野の屋敷で騒がしくも穏やかな日常を過ごす。
だが、魔は魔を引き寄せる。
そんな言葉があるように新たな危難――――ワラキアの夜が来た。
「針金を操る白髪の女、路地裏に出没する魔物、徘徊するパーカー姿の男性。
……可笑しい、どう聞いても、第四次聖杯戦争の関係者を再現しているとしか思えない」
先程ヒトデ型の魔物を処理した弓塚さつきは、
改めて流れる噂から【原作】から完全に隔離した事実に頭を抱えた。
現在知っている噂は人間であるが、何れ英霊達の噂が広まるのは時間の問題であるのを覚悟した。
「弓塚さつき、貴女のような異分子が全てを狂わす――――ここで散りなさい!」
ワラキアの夜を追いかけて来たシオン・エルトナム・アトラシア。
だが、ある意味タタリ以上の異常な存在である弓塚さつきを知った彼女はその抹殺を図る。
「間違いない、あれはサーヴァントを再現している。
今のは第四次聖杯戦争で召還されたアサシンだ、見間違えるはずがない」
「やはりそうですか…ですが妙です。
聖杯戦争、サーヴァントを知る人間がこの街にいるなんて聞いたことがありません」
タタリの異常を察知したシエルはかつて聖杯戦争に参加した男を呼び寄せる。
結果は黒、だがそれは聖杯戦争を知る人間が三咲町にいることになり、シエルは首を傾げる。
「不愉快極まりないわね、今度こそ消し炭にしてあげますわ――――兄さん」
「あは、あは、あはははは!!オレをもう一度殺すのか秋葉!!」
例えそれが夢あるいは幻であろうとも遠野の闇と再び向き合う遠野秋葉。
彼女にとって血の繋がった兄は、今宣言した殺害予告に身を捩じらせ爆笑する。
「あ―――がぁ!??」
吸血鬼の力を十全に発揮し、
双槍を避け続けたが、たとえ影法師でも英霊は英霊であった。
一瞬の隙を突いて放たれたランサーの槍はさつきの肩を貫いた。
「ねえ、貴方。本当に人間?
胸の中にそんな物を仕舞いこんで生きているなんて普通はありえないわよ」
「人目でこの私の状況を見抜くとはな…なる程、流石真祖の姫」
紅の眼を細め、神父を観察するアルクェイド・ブリュンスタッド。
周囲の空気が歪む殺意を神父に叩きつけるが神父は平然としたままであった。
「どこで計算を間違えたのだろう、それを私は知りたい。
弓塚さつき、貴女は分かりますか?貴女のその情報を見てもなお、私は理解できない」
この世界、そしてこの事件の原因にして特異点である弓塚さつきにシオンは問いかけた。
「く、くは、くははははは!!主よ感謝します。
例え影法師、一夜だけの幻だとしても、あの男との決着をつける機会が来たことに…!!」
歓喜の声を挙げる言峰綺礼。
彼の視線の先にはくたびれたコートを羽織った男性が佇んでいた。
その男の名は――――衛宮切嗣。
かつて第四次聖杯戦争で殺しあった最強の敵。
言峰綺礼にとって倒さねばならない、最大の障壁がそこにいた。
「―――ハ、ハハハハハハ。そうかそうか、そうか至らぬか。
何千年タタリを続けようと貴様には至れぬというのか朱い月よ!!!
だが! 滅びぬ! 私は滅びぬぞ。たとえ今宵が私の果てだとしても。
貴様を仕留めれば嘘も消えよう。元よりこの方法で至らぬとあらばこの夜の夢もこれまで。
貴様を飲みつくしその力を持って次の手段を講じよう!!! 我が名はワラキアの夜。現象と成った不滅の存在だ!!!」
「シオン、志貴、来るぞ!」
「はい!」
「分かっている…!!」
シュライン、神殿と命名されたビルの屋上。
弓塚さつき、シオン・エルトナム・アトラシア、遠野志貴はアルクェイドを守るように立ちふさがる。
千年後の月を具現化している彼女がいてこそタタリは唯の吸血鬼となる。
逆に彼女が月の具現化を終えたとき、タタリは再び現象へと戻ってしまう。
それを防ぐには、全力で彼女を守り抜かねばならない。
「ボクとシオンが壁役になるから、志貴は隙を突いてくれ」
「ああ、了解した。さっさと終わりにしよう」
「ええ、悪夢はここで終わりにしましょう」
「弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編」
作者の調子しだいで随時連載開始予定。
ご期待ください。
「魔術師として子孫を残すのは義務であり責務です。
彼の異才をエルトナムに取り組みたいと考えています。
それに、その…彼には女性として私は惚れています、というわけで、志貴を婿に下さい、秋葉」
顔を赤らめつつも、これ以上ないドヤ顔でシオンは部屋に集合した面々に宣言した。
堂々過ぎて途方にくれる秋葉、笑顔を凍りつかせた琥珀、ショックのあまり気絶した翡翠。
眼が点になるアルクェイド、唖然とするシエル。
そして、結果的に余計な知識を与えてしまったさつきは現実逃避を開始した。
おわり。