『えっと、宮藤さん……もしかしてリネットさんも?』
『はい!リーネちゃんも全部捨てちゃいました!』
あ、ミーナの顔が引きつった。
『ぜ、ぜんぶ?』
『はい、全部です』
『芳佳ちゃん、軍の装備を捨てちゃったから聞き直しているんだよ。
すみませんミーナ中佐、海に落ちたとき溺れそうになったから思わず捨ててしまいました。その、処罰は後で受けますから……』
空気を読まない、というより状況を察していない宮藤の変わりにリネットが謝罪する。
しかし、それで失った装備は戻ってくることはない、海底から引き上げるにもどう見ても不可能だし。
ミーナは装備紛失に呆れ、怒り、呆然と色々感情が入り混じっているらしく顔が青やら赤やら変化する。
何せまた予算とか装備を引っ張り出すのに根回しやら手続きやらが必要で、それが簡単にいかない。
元々装備の配布は常に不足気味だし、軍官僚組織とは思いのほか動きが鈍くかと言って装備がないから駄目でした、と言ういい訳も通じない。
だからツテやコネ、根回しを動員して装備や予算を貰うものである。
昔の英雄達はただ目先の敵をその槍で突くだけで済んだが、現代の兵士はただ槍を振り回せばいいものではない。
適切な装備、適度の休憩、規模に合った予算、その全てを整えてやる必要があり、わたし達はそれを揃える役割を担っている。
『……いえ、リネットさん。謝らなくていいわ。
貴女達はまだストライカーユニットを装着しての水泳訓練をしていなかったから仕方がないわ。
それに、命があれば何度でも戦えるし、そして今日はよく頑張ったわね。
宮藤さん、リネットさん、2人とも……本当にありがとう、これからもよろしくね』
『は、はい!ありがとうございます!』
『これからも、よろしくお願いします、ミーナ中佐!』
が、ミーナはここで怒りの感情を出すのを抑え先にすべきこと。
つまりこの戦闘で生き残り戦果を挙げた2人を称えた。
ははぁ、流石ミーナだ。
ここで装備を紛失したことに怒鳴り散らさず褒めることが出来るなんて。
「お咎めなしかー、始末書仲間が出来ると期待したんだけどなー」
で、そこの不良士官ことシャーリーさん、貴女は一体何を期待していたんですか?
というか、始末書仲間とかやめてくれないかな、アレも一応こちらで読む必要があるから、ない方が書類仕事が増えなくいいから。
「というか、まだこの間の始末書を提出してしなかったな?」
「あれ……そうでしたっけ?」
ふふふ、と悪戯っぽく笑うオレンジ色の髪をした少女。
口元を手で押さえ、流し目でこちらを見る姿は整った顔立ちを相俟って野郎が一目見たら間違いなく一目ぼれをするだろう。
が、中身は男でも既に女性としての習慣を身に着けて幾星霜、そのような事には陥らない。
「で、いつ提出するんだ?今日か?明日か?それとも明後日か?」
「あ、やだな、そんな怖い顔をしなくていいじゃないか。明々後日には出す――――あいたたた!!」
「書類・は・期日・を・守り、手早・く・提出・す・る・こ・と!」
頭を掴み拳でぐりぐりと締め上げる。
ええい!書類ぐらい期日に間に合うように出せよ!
見るほうにも期日というものがあってだな……ってそこのお二人さん、何をニヤニヤこっちを見てるんですか?
「んふふふー、やっぱり仲がいいじゃないカ」
「あらあら」
いや、どこが!?
だいたい、未だわたしはシャーリーとは言わず、苗字で呼んでいるくらいだぞ。
よし、ではこれから如何に彼女とは衝突しているか話し、誤解を解こうじゃないか。