おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

心中天網島 錦秋文楽公演 @ 国立文楽劇場

2009年11月23日 | 文楽のこと。
「心中天網島」 文楽錦秋公演 @ 国立文楽劇場

 「楽しい~♪」ポイントが、要所要所に埋め込まれていて、「改めて、文楽に巡り合えてよかった」と実感する演目でした。

ろくでなしの紙屋治兵衛が、遊女・小春にのめり込みすぎて、ついに心中しようというところまで思いつめる。分別ある兄や義理の母に思いとどまるように言われても、結局は、頭の中は小春のことでいっぱい。それでも、妻おさんは自分の着物を売ってまで「小春を受け出しなさい」とバカ旦那に尽くす… という超理不尽ストーリー。

物語としての盛り上がりはおさんが嫉妬に身悶えしながらも、自分が身を引こうと決意する「天満紙屋内の段」なのですが… 私的には、序段の「河庄」が面白くてテンション上がりました。脇役ですが、太兵衛と善六の掛け合いが楽しい。「劇中劇」ならぬ「義太夫節中義太夫」の場面があり、2人が素人義太夫でじゃれあう。江戸時代、義太夫が庶民の身近にあったことが伝わってきます。2人のこっけいな仕草も可愛いし、文字久さんが素人義太夫の部分は思いっきり調子っぱずれに語られているのが笑えました。切の住師匠は、さすがでございます。治兵衛の短慮ぶりと、小春のけなげさとがきっちりと描かれていて、言葉だけで世界が浮かび上がってくるよう。お陰で、勘十郎・治兵衛にムカムカしてきて、ラブな勘十郎さままで憎たらしい、という、なんとも身悶えしたくなるような段なのでした。

ところで、文楽ファンの大先輩が1993年にNHKで放送された「心中天網島」の録画を保存していて、今回の大阪ツアーの予習として拝見させていただいたのですが…治兵衛・小春カップルはゴールデンコンビの玉男&簑助が遣っていました。本来ならば、玉女さんが師匠の当たり役を引き継いで遣われたいだろうなぁと思うのですが、でも、曽根崎心中の徳兵衛、女殺の与兵衛にしても、「ろくでもない男」は圧倒的に勘十郎さまの方がしっくりときて、玉女さんは分別ある兄の孫右衛門の方がはまる感じがします。長年の経験で体得するものとは別に、それぞれの人形遣いさんの個性とか、向き・不向きがあるのでしょうか…。

で、簑助小春は1993年バージョンも2009年バージョンも共にステキ。簑助師匠は確実に16歳年をとって、しかも、その間、大病も患われたわけですが、でも、小春は変わらず初々しく、一途。現代の感覚では、あまりにも理不尽で、理解不能な女の心理も、簑師匠が遣われると納得できてしまうのが不思議です。小春はは簑師匠のはまり役というのは議論の余地なし。
ただ、それでも敢えて、簑助おさんバージョンでこの芝居を見てみたい-という無茶なリクエストをしてみたくなります。現代人的としては、おさんに対しても「なんで、そこまで、バカ男に義理を立てるの? 死んでも直らないようなバカに付き合ってないで、さっさと別れた方がいいって」とアドバイスしたくなるのですが、でも、もしも、簑師匠が遣われたらおさんの一途ぶりにも納得させられてしまうかもしれないなぁ…なんて。
映画やドラマではときどき、一人二役というのがありますが、文楽ではないのでしょうか。人間国宝を死ぬほど働かせて酷使するというのは申しわけありませんが、でも、小春&おさんの簑助一人二役って、めちゃめちゃ大ヒットすると思います。

最終段の「道行名残りの橋づくし」。三味線が素晴らしい。やっぱり、富助さんって、華やかでいいなぁ。もっともっと聴いていたい気分でした。