杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・海南島慰安婦裁判の上告棄却

2010-03-05 19:09:47 | 従軍慰安婦
2010年3月2日に、海南島慰安婦裁判が上告棄却となりました。

 これは、中国の海南島(中国の南端の島)に住む少数民族の女性たちが、第二次世界大戦中に、日本軍によって「慰安婦」にさせられて被った被害について、2001年から、日本国を被告として起こしていた裁判で、この事件が地裁で敗訴、高裁で敗訴し、上告したのですがこれが棄却となったものです。

 原告の女性は始め8人でしたが、やがて2人がなくなり、現在6人。みなもう随分年を取り、身体も弱ってきました。当初は、自分たちが好きこのんで「慰安婦」になったのではないことから、「潔白をはらしてほしい」というのが彼女たちの主たる訴えでしたが,後に、戦争下で直接受けた筆舌に尽くしがたい被害についても賠償を求めました。
 高等裁判所は、この女性らが、単なる精神的な後遺症(PTSD)にはとどまらない、ナチスの強制収容所からの帰還者と同列の破局的な人格被害を受けているという認定をしました。

 でも、被害女性たちは年おいて、裁判に勝つこと賠償を受けること期待していました。あれほどの被害を受けて、裁判所が加害者に「救済すべきだ」と命ずることなど、当たり前のことと思えたのではないでしょうか。

 彼女たちは、法廷で尋問に立つために、敵国へ決死の覚悟でやってきました。それまで村を離れたこともない高齢の女性たちが、総じて貧しい少数民族の村から、飛行機に乗って日本にやってきたのでした。

この裁判に関わった私は、法的にあらそうということ以上に、この歴史的な問題、歴史的な証人に、どう取り組むかということが問われていたことを、事件着手後、徐々に気がつきました。

 単純な正義感でも、人権意識でもないそれ以上のものだと感じました。
どうこの事実(今や裁判所は事実の存在は認めています)を裁判所が扱うかは、日本という国の試金石でもあったわけですし、また、歴史の証人である被害女性たちを法的にどう扱うかということは、国が生身の「人間」をどのような価値を持つものかと認識しているかを示す重要な舞台でした。

 裁判に対する総括も必要ですが、この裁判の結果を聞き、既に皆80数才になった女性たちに、この裁判の結果をどのように伝えに行くのか、そのことを思うときやはりこの裁判結果は重いです。
結果を聞いた女性たちが、どんな息づかいをするか、そんなことを想像すると心がわしづかみにされるような思いです。
でも、近いうちに、海南島へは行かなければなりません。

なお、「慰安婦」についての戦後補償裁判は10件起こされましたが、これですべてが原告側敗訴で終わりました。

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5 コメント

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是非ご一読を (yasu)
2010-03-05 19:41:28
保坂正康「昭和陸軍の研究」朝日文庫
下巻の最後の方に、慰安婦問題についての論考があります。
いつ頃からつくられたのか、どういう風に募集したのかとか、どのように管理したのかとか、
そして政府の対応についての批判も。

保坂正康というと、すぐに右寄りという批判がでますが、そういう「右と左というバカの壁」(佐藤優)を超えないと、自分の視野を広げることもできません。
もちろん、問題解決への糸口もです。
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どんなふうに・・・ ()
2010-03-06 00:34:08
yasuさん、情報をありがとうございます。
どのようにその問題を取り上げてあるのか読んでみたいと思います。
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人の心 (多摩)
2010-03-06 00:42:24
先ほど報道番組で、愛子様(こういう敬称は書きたくはないですが、分かり易いので)が不登校となってしまったと言う事です。この国の人達はいったい何処に向かっているんでしょうか?
裁判所の出す結論は時の政権の顔色をうかがっているとつくづく感じていましたが、民主党政権が直接この裁判に圧力を加えたとは考えづらいですが、裁判所は敏感に政権の性格を捉えていると思います。人を大切にしない国家がこの先繁栄するとは思えません。
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一つ質問があります (yasu)
2010-06-24 21:51:30
野田正彰「虜囚の記憶」みすず書房に出てくる
弁護士とはどなたのことでしょうか。
この本で、あまり、野田正彰は弁護士を良く言っていません。
確かに理解度が足りないという問題はあるでしょうが。
しかし、内田弁護士までくそみそにいうような
書き方には、上から目線というものを感じて
あまりいい感じがしません。
日本がきちんとした歴史教育をしてこなかったことの弊害が、弁護士と被害者との認識のギャップを生んでいるのでしょうから。

その点をきちんと認識したうえで論じてほしかった。
ただ、この事件については、関わった日本の弁護士の名前も出さないし、またあまり悪く書かない。
なら名前も出してもいいのではと思うのですが。

最後に吉見先生が資料を見つけていたんですね。ただ防大からですか。
保坂正康も旧軍関係者からの聞き取りでいろいろと聞き出していますが、他にルートがないと
その資料が正しいのかというのを改めて立証するものがないので、いわゆる決定打に活用できないんですよね。

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裁判の事実は前提に ()
2010-06-25 08:51:14
野田さんと内田さんの論争めいたやりとりはおもてにもでています。
http://www.jca.apc.org/~hanaoka/Shinmai-
hanron.html

野田さんが基礎とされている内容は、話者(被害者)がお話しになったのだろうとは思います。野田さんが聞き取った内容を個人的に違えて書かれるとは思いません。
ただ、客観的な事実(裁判結果)と合致していないことが野田さんに伝えられ、それに基づいて論を進めておられるように感じており、それが論争のもとではないかと思っています。
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