風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『ゲソラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』 昭和45年(1970)

2017-07-01 13:50:00 | 特撮映画











冒頭のロケット発射シーンから、力の籠った特撮シーンが展開されて、ミニチュア特撮好きとしては、なかなか好感の持てる滑り出しです。

このシーンはアポロの打ち上げシーンをかなり研究しているようですね。カメラアングルとか、本物のロケット打ち上げ映像を相当意識してます。





さて、この作品が公開された1970年、特撮の「神様」と謳われた巨星、円谷英二氏が逝去されました。これを機に東宝特殊技術課も廃止されることが決定します。ですからこの作品は、東宝のみのスタッフで制作された最後の特撮映画ということになります。



特殊技術を担当したのは、円谷英二氏の愛弟子・有川貞昌氏。栄光ある東宝特撮の落日を前に、「これが東宝特撮だ!」という想いを込めた、実に力の籠った映像に仕上がっていると思います。

本編の監督は本多猪四郎。さすがの腕前でこの難のあるストーリーを上手くまとめ上げています。出演は久保明。土屋嘉男に佐原健二といった、東宝特撮の常連の皆さん。




ストーリーとしては正直、疑問点が多いです。冒頭のロケットに宇宙空間で霧状の生物が憑りつき、地球へ戻ってくるのですが、なぜか誰にも気づかれず、南海の孤島の側に落下するわけです。この霧状の生物というのが、実は地球征服をたくらむ宇宙人。でもなぜか島民が20人しかいない南洋の孤島で、イカに憑りついてゲソラになったり、カニに憑りついてガニメになったり、亀に憑りついてカメーバになったりして、島民と偶々調査にきていた日本人一行を驚かせるわけですが、


なにやってんだろうね?この宇宙人?


こんな島の島民を驚かせていないで、もっと人のいるところにいって、とっとと征服計画進めろよ!なにチマチマやってんだよ!……って感じです。



で、島にいた日本人科学者(土屋嘉男)に弱点は超音波だと見破られ、コウモリの群れが放つ超音波に怪獣たちが狂ってコントロールが効かなくなり、怪獣同士が大乱闘!ついには火山の噴火口に落ちて消滅。最後に人間(佐原健二)に憑りついたものの、佐原さんの意志に負けてしまい、佐原さんは自ら火口に身を投げ、ここに敢え無く宇宙人の計画は失敗に終わるのです。ジャンジャン!



う~ん、なんだろうこれ?あまりにこじんまりとし過ぎていますね。まあ時期が時期ですから、あんまり製作費がかけられないということで、設定を南洋の島にして、登場人物を少なくして、特撮もビルとか色々細かいものが必要ない分安く上がる、ということだったのでしょうね。う~ん、なんとも……。




ただ特撮ショットは何度も言いますが力がこもってます。怪獣の着ぐるみも工夫を凝らしていて、ゲソラなどはイカなのに地上に上がってきて暴れまわるのですが、十本の足で人間の足が入っている部分を上手く隠してる。ただ動き方が明らかに二足歩行なので、その辺はやはり、限界といえば限界ではあります。



それでもやはり、着ぐるみ&ミニチュアによる特撮は楽しいものだと思いますねえ。こういう職人芸、特に映画における職人芸というのは、技術の発達とともに廃れていくものが多い。そうやって消えていった芸も沢山あります。特撮に関わる職人芸だけでも、マット画を描く専門の職人さんとか、フィルム合成のいわゆる「生処理」を行う職人さんとか、もう消えてしまいましたからねえ。


こんな風にして、着ぐるみ&ミニチュア特撮も廃れていくのだろうか?なんてことを考えると寂しいですが、なんでもかんでもCGですませるというのは、なんとも


つまらん!!




しかしCG一遍当になるというということは、当分あるまいよ。着ぐるみにしても特殊メイクなどとの絡みでまだまだ需要はあるわけで、その発展形としての着ぐるみ怪獣というのも、まだまだ必要だ。


なんでもかんでもデジタルがいいのか?いや、人間というのはどこかで、生のぬくもり、アナログなぬくもりを求めているものだ。

近年では、CDの発展とともに消えて行こうとしていたアナログのレコード盤の需要が増えていると聞きます。かつてCDが出始めた頃に、「これでレコード盤は消えるね」などと嘯いた連中はごまんといたことでしょうが、ところがあにはからんやで、特に若い人たちの間で、アナログのレコード盤が持つ生の音の温かみに魅力を覚える方々が多いらしい。

なんでもかんでもコンピュータ、なんでもかんでもデジタル。それでいいんかい!?いいや、そうはいかないよ!!


確かにCGの需要はこれから益々伸びていくでしょう。しかし着ぐるみ&ミニチュア特撮が、完全に無くなってしまうということはないんじゃなかろうか。

いや、ないと信じる!




人が人の手で作り上げたものを、


舐めちゃアいけねえ。


そんな風に思わせてくれた映画でした。









『ゲソラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』
制作 田中友幸
   田中文雄
脚本 小川英
音楽 伊福部昭
特殊技術 有川貞昌
監督 本多猪四郎

出演

久保明

高橋厚子
小林夕岐子

藤木悠
中村哲
堺佐千夫

佐原健二

土屋嘉男

昭和45年 東宝映画