風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『ガス人間第1号』 昭和35年(1960)

2015-03-24 21:15:49 | 特撮映画
 



                        




「煙の如く消え失せる」なんてことをよく言いますが、文字通り肉体をガス状に変化させることが出来る男の、「悲劇」といって良いでしょう。

科学の人体実験によって、図らずも「ガス人間」になってしまった男、水野(土屋嘉男)。この能力を身に着けたことによって、水野の人間性が崩れて行く。

ガス人間となって大胆な銀行強盗を繰り返し、平気で人を殺す。

そうして集めた金の使い道、それは、

とある女性に全額を寄付することでした。



日本舞踊の名門春日流の家元、藤千代(八千草薫)。諸々の事情により極貧状態にあり、弟子たちは皆離れてしまい、発表会も開けない状態でした。水野はこの藤千代に、盗んだ金を全額与え、発表会を開かせようとします。

しかし、ガス人間の存在が世間に知られることとなり、藤千代は好奇の目に曝されることになります。

自分は何でもできると豪語するガス人間、水野。しかし彼の大胆で常軌を逸した行動は、逆に二人を窮地に追い込んでいくのです……。







ガス人間、水野を演じた土屋嘉男さんは、黒澤明監督の映画でも活躍された名優です。この方は特撮映画が大好きな方で、普通の映画では出来ないような役ばかりを好んで演じておりました。

『地球防衛軍』や『怪獣大戦争』では宇宙人役を自ら望んで演じたとか。『宇宙大戦争』や『怪獣総進撃』では、宇宙人に操られる役で、こういう変わった役を楽しんで演じておられたそうです。

この『ガス人間第1号』でも、静かなる狂気を湛えた水野という男を見事に演じており、荒唐無稽といっていい役に実在感を与えています。


                    
                      土屋嘉男



この水野を追う刑事、岡本に三橋達也。こういう特撮ものに出るのは珍しいスターですね。そしてなんといっても、藤千代を演じた八千草薫さん。

映画の中で「この世のものとは思えない美しさ」というセリフがあるのですが、本当にお美しくていらっしゃる。この世のものとは思えぬ美女が、人を越えた「怪物」ガス人間と恋に落ち、やがて自ら破滅を選んでいく……。ヘタにやると失笑を買いそうな役柄を、このお二方は見事な実在感を持って演じておりました。

藤千代が発表会で舞った新作舞踊の題名が「情鬼」。

情念に狂い、鬼となって行った男、水野と、それを愛した女、藤千代を象徴するような題名ですね。



この「情鬼」を演じ続ける藤千代を、誰もいない客席で一人見つめ続ける水野。口元に笑み。目には狂気。満足げで誇らしげで、それでいてやはり狂っている。そんな佇まいを、静かに座っているだけなのに、見事に醸し出している。あれは凄いです。もうね、あのシーンだけでも、観た価値はあったと思ってしまいますね。それくらい素晴らしいです。

俳優土屋嘉男、恐るべし!



音楽は宮内國男。『ウルトラQ』『ウルトラマン』の音楽も担当された方ですが、この映画のメインタイトルを、そのまま『ウルトラ…』に流用しちゃってます(笑)。まっ、当時はそんなに珍しいことではないのでしょうね。伊福部昭先生なんて、どれだけ流用したことか…(笑)。




ガス人間の特撮は、好みが分かれるでしょうね。手作り感満載で、私は大好きですが。




なんといいますか、「通好み」の映画、とでも言っておきますかね。ですから万人にはお薦めしません。古い映画、埋もれた感がある映画がお好きな方には、ひょっとしたら訴えるものがあるかも。

私のような、古い特撮に興味がおありの方にもね。

そこのあなた。『士魂魔道 大竜巻』という映画をご覧になったことはありますか?

おお!ありますか!えっ!しかもお好きとおっしゃる!?ラストの竜巻シーン!?いやはや、あなた相当な通ですなあ。

はい、あなたのような方になら、大いにお薦め致しましょう。

それ以外の方々は…まあ、




お好きに。







『ガス人間第1号』
制作 田中友幸
脚本 木村武
音楽 宮内國男
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎

出演

三橋達也

八千草薫

佐多契子
野村浩三

田島義文
小杉義男

松村達雄
佐々木孝丸
山田巳之助

伊藤久哉
山本廉
中村哲

村上冬樹

左卜全



土屋嘉男

昭和35年 東宝映画