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「はやぶさ」が持ち帰った微粒子

2010-11-21 19:12:13 | 科学
 日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから多数の微粒子を持ち帰っていました。世界初の月以外の天体間飛行に成功しただけでも日本の技術は凄いのですが、さらに惑星科学の分野でも新発見があったら素晴らしいなと期待しています。そんなついでではありますが、元地球科学者の端くれとしてたまには科学的なことでも書いてみようかと思い立ち、ここに整理してみます。

 宇宙に存在する元素の比率は、恒星の吸収スペクトルや隕石組成など、様々なデータから調べられています。宇宙の元素を多い順に10個並べると、水素(H)、ヘリウム(He)、酸素(O)、炭素(C)、ネオン(Ne)、窒素(N)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、硫黄(S)です。この中の多くは揮発性が高く、鉱物として残るのはマグネシウム、ケイ素、鉄です。そしてこれら3種は大体同量(2倍3倍の違いはあっても、10倍は違わない)くらい宇宙に存在することが知られています。ただしこれらは酸素と結びつきやすいので、酸化物になっています。鉱物には多くの酸素が含まれるのです。

 さて、はやぶさが持ち帰った微粒子に「カンラン石」という鉱物があります。この鉱物はもちろん地球にも多く存在します。地球を構成する最も多い鉱物がカンラン石であり、その代表的な組成はMg2SiO4です。地球の組成をざっくり一言で言うと、このMg2SiO4であり、これにその他もろもろの元素が混ざっているのが地球の組成です。

 地球のカンラン石をもう少し詳しく見ると、マグネシウムに10%程度の鉄が混ざっています。仮に組成式で書いてみると、Mg1.8Fe0.2SiO4となります。マグネシウムと鉄の原子(正確にはイオン)の大きさが近いので、鉱物の結晶の中で互いに置き換わることが出来るのです。

 鉄もマグネシウムも宇宙に大体同量程度存在するのならば、地球において鉄はどこに行ったかというと、金属鉄となって地球中心核にあるわけです。地球形成の過程で飛んで来た隕石は地表に衝突し、そのエネルギーで高温になります。岩石と地表は融け、地球表面を分厚いマグマの海が覆い、その底での高温・高圧状態で鉄の酸化物が分解されて金属の鉄となったと考えられています。地球のカンラン石の鉄の割合は本来もっと大きかったのですが、この過程で鉱物内の鉄が分離されて10%程度まで減少したのです。

 このことは、カンラン石の中の鉄の割合を分析すれば、岩石が地球形成時のような鉄の分離過程を経たかどうかがわかるということです。イトカワのカンラン石の鉄は地球の5倍ほど含まれていると報道にありました。これを組成式で書いてみると、おおよそMgFeSiO4なります。マグネシウムと鉄とケイ素がほぼ同量ずつ含まれる鉱物になるというわけです。つまり、宇宙の元素の存在比に近い値を維持しているということで、イトカワは少なくとも46億年前の太陽系形成時から大きな進化をしてこなかったことがわかります。

 もちろん宇宙にはカンラン石以外の鉱物もあるため、今回は非常に大雑把な説明ではありますが、たった一個の微粒子の組成分析からわかることをまとめてみました。そして次に科学者が興味があるのは、揮発性の成分からなる分子が含まれているかどうかでしょう。水素、炭素、窒素などはアミノ酸の構成元素だからです。もし揮発性の元素がアミノ酸のような分子として検出されたら、生命の材料物質は宇宙からやって来たということになります。そして、宇宙には想像以上に地球の生命体と似たような生命がいる可能性があると言えるでしょう。