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ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」1911年版

2015-08-30 20:47:52 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・バレエ組曲「火の鳥」1911年版

 指揮:ヴォルフガング・サヴァリッシュ
 ウィーン交響楽団

・バレエ組曲「火の鳥」ピアノ版(編曲:エミール・ナウモフ)

 ピアノ:エミール・ナウモフ

ORFEO: C 044-831 A



 『火の鳥』組曲1911年版は現在では最も演奏頻度が少ないようです。その理由としては、オリジナル版と同様の大編成オケが必要なためでしょう。そもそもその編成があったら、オリジナル版全曲演奏したほうが演奏効果が高いような気がします。けれども、別働隊のバンダこそないものの、ファンタジー感は十分に残っているのは嬉しいところ。

 この組曲の楽曲セレクションがイマイチという理由もありそうです。このバージョンでは「カスチェイら一党の凶悪な踊り」で締めくくられていて、聴きなれた「子守歌」と「大団円」が無いのです。だからこの2曲を付け足す指揮者も多いようで、このディスクでもそのようにしています。

 このサヴァリッシュの演奏はバレエ全曲の雰囲気を濃密に残したもので、オリジナル版を聴き慣れた耳にとっても違和感がありません。もちろん付け足した2曲がある影響も大きいでしょうけれど。

 ところで、1911年版組曲について、音楽之友社の大作曲家シリーズ「ストラヴィンスキー」には以下のように書かれています。

 ――― ◆ ――― ◆ ―――

「最もうまくできたナンバーを選りすぐり、演奏会用の終結部分を付けて組曲を作ると、『火の鳥』の音楽はヨーロッパ中で演奏されるようになり、やがてオーケストラの最もポピュラーなレパートリーの一つとなった」。ストラヴィンスキーはこの作品を一九一五年に初めて指揮して以来、「千回も演奏した」のである。

 ――― ◆ ――― ◆ ――――

 なるほど、「千回も演奏した」のなら儲かってウハウハだったに違いありません。そして調べてみるとストラヴィンスキーの自作自演の1911年版組曲の動画がありました。




 えらく年季の入った音源ですが、割と淡々とドライに演奏するのはさすがストラヴィンスキー。それでいて「子守歌」と「大団円」をちゃっかり持ってきていたりします(1928年の録音のようです)。けれど「カスチェイら一党の凶悪な踊り」の部分は1919年版組曲のバージョンではないでしょうか。また、引用文の中の「演奏会用の終結部分を付けて」というのは「金のリンゴと戯れる王女たち」に加えられたもので、動画の13:30からの数小節の部分です。これは1911年版と室内楽版のみでしか聴けないという、なかなかレアなアレンジです。

 このディスクのカップリングのエミール・ナウモフ編曲ピアノ版組曲は作曲者自身によるピアノ版と比較して音がきらびやかになっており、なおかつスピーディーな演奏で、聞き応えのあるものになっています。選曲としては1919年版組曲とおおよそ同じもの。ノリノリで演奏しているのがよく分かる好録音です。

 さて、これまでの『火の鳥』は、いわばロマン主義と印象主義のいいとこ取りのような音楽でしたが、この後に編曲される『火の鳥』はストラヴィンスキーの音楽観がよりドライな新古典主義へと進むため、雰囲気がかなり変わってきます。したがって『火の鳥』らしさは希薄になりますが、ストラヴィンスキーらしさは増大するという微妙な立ち位置の作品になっていくのでした。


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ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(ピアノ編曲)

2015-08-23 20:49:35 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・バレエ音楽「火の鳥」(ピアノ編曲)

ピアノ:イディル・ビレット

NAXOS: 8.555999



 今回の「火の鳥」はピアノ版の紹介。このピアノ版は作曲者自身による1910年の作品、ということはオリジナルの大編成オケ版と前後して作られたということになります。実は私もこのディスクを見て初めてピアノ版の存在を知ったので制作の詳しい経緯が全くわからないのですが、作曲にピアノを使っていたストラヴィンスキーのことだから、まずピアノ版のスケッチを作り、それを基にオーケストレーションをしたのでしょうか。だとしたらオリジナルのオリジナルということになりますが。

 

 ところで、ここにオリジナルの1910年版スコアがあります。編成の中にはピアノも含まれていますが、ざっと思い出してもピアノが活躍している部分に心当たりがありません。全ページ調べてみたら、45分の長丁場の中でピアノの出番はたったの35小節しかありませんでした。主役を張れる楽器に対してのこの仕打ち! バレエ劇場の楽団のピアニストの雇用対策とか? なんにせよ『火の鳥』がピアノを用いて作曲されたのならもうちょっとピアノに見せ場があっても良さそうなものですが…。それとも逆にオケ版が先にあって、そこでのピアノの不遇っぷりを憐れに思ってピアノ版を作ったのか。ぜひ知りたいところです。

 さて、大編成オケ版の最大の特徴は精緻を極めた管弦楽法なわけですが、ピアノ一台でそれを再現することは不可能で、旋律・ハーモニー・リズムの骨格だけが残されているはず(もちろん両手の都合に合わせて取捨選択されてはいるでしょうけど)。したがってピアノ版の聴き手の興味は「どの音が残されているか」であると思われます。実際に聴いてみた私の感想としては、のちの年代の作品ほど絶妙な「音の架け方」は無いにしろ、建築物のような音の積み上げ方はすでにストラヴィンスキーのものと感じます。さらにオケ版では聴こえてこなかったような音が鳴っていて新発見も多く、面白い聴きものと言えましょう。



 動画はおそらくこのディスクと同じ音源の抜粋。ちょっと聴けばわかるように、オケ版の夢幻の響きを再現するには2本の腕では足りないようで、旋律と伴奏のタイミングをずらすことで両立させており、それがいかにもピアノっぽくて興味深いです(最後の7拍子の部分など)。また、このイディル・ビレットの演奏では前半の細々した部分に力を入れており、前半の演奏時間がやや長めになっています。したがって全曲に馴染みのある人向けかもしれません。

 『火の鳥』のピアノ編曲には多くのピアニストが試みているようで、私もナウモフによる組曲版を聴いたことがありますが、確かに派手なピアニズムを発揮できる素材だと思われます。ただ、全曲のピアノ編曲はこのバージョンだけでしょう。そしてそれは紛れもなくストラヴィンスキーの『火の鳥』であり、まさに「火の鳥」の羽根をむしり皮を剥いで骨格だけになっても力を失わない不死鳥なのでした。


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ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」全曲

2015-08-16 23:31:30 | CD


イーゴリ・ストラヴィンスキー:
・バレエ音楽「火の鳥」全曲
・幻想的スケルツォ 作品3
・幻想曲「花火」 作品4

指揮:シャルル・デュトワ
モントリオール交響楽団

ポリドール: F35L 20054



 ストラヴィンスキーの三大バレエ音楽第一弾「火の鳥」の作曲のきっかけは以前の記事に書いた通りピンチヒッターだったわけですが、バレエ興行師のディアギレフがこのディスクにも収録されている『花火』を聴いてその才能を認めたから、という逸話が有名です。作品番号1の『交響曲 変ホ長調』では厚ぼったい響きが特徴ではありましたが、作品番号3の『幻想的スケルツォ』にて木管楽器の使い方に強烈なスタイルを確立していて、この曲をスケールアップしたのが『火の鳥』という印象です。

 さてこの『火の鳥』には作曲者による多くのアレンジバージョンがあります。
 ・1911年版組曲
 ・1919年版組曲
 ・1945年版組曲
 ・室内楽版組曲
 ・ピアノ版
 ・その他断片

 いずれもそれぞれの魅力がありますが、最もファンタジーでゴー☆ジャスなのはオリジナルの1910年版全曲なのです。特に王女やイワン王子のモチーフを配置した前半部分はなかなかの聴きものなのですが、大きな盛り上がりに欠けるのは事実です。けれども、その前半のほのぼの展開があるからこそ、後半の魔王カスチェイが引き立つような気がします。

 特に、クライマックスの「カスチェイら一党の凶悪な踊り」の部分について、組曲版ではいきなり演奏されるのですが、私はその直前の「火の鳥に魅せられたカスチェイと手下どもの踊り」から連続して聴かないと物足りなく感じます。そこで鳴るシロフォン(木琴)の乾いた音の連打が魔王の残酷さをイメージさせるためです。

 下のバレエの動画では、「火の鳥の出現」ー(0:38より)「火の鳥に魅せられたカスチェイと手下どもの踊り」ー(1:22より)「カスチェイら一党の凶悪な踊り」ー(6:02より)「火の鳥の子守歌」ー(9:08より)「カスチェイの眼ざめ」まで連続していて私も満足。



 出演者、演奏者等の動画の詳細は不明ですが、カスチェイなどはなかなか現代的なメイクです。

 オケは4管編成にピアノ、チェレスタなどが加わっており、さらにバンダと呼ばれる別働隊のラッパが舞台上(または舞台裏)に配置されています。このディスクではそのバンダが極めて効果的に再現されていて、舞台の雰囲気が濃厚な録音になっています。特に最後のバンダのトランペットによるHigh-H(高音の「シ」の音)は類を見ないほど強烈な印象を残します。

 全曲の演奏時間は45分程度であり、音楽だけ聴けというのも集中力がいるし演奏する方も大編成が必要だったりで全曲が演奏会のプログラムにのることは少ないのかもしれませんが、このオリジナルバージョンが一番好きな私としてはもっと演奏されて欲しいと願っているのです。


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