エドガー・ヴァレーズ:
・アルカナ
・アンテグラル(積分)
・イオニザシオン(電離)
指揮:ズービン・メータ
ロスアンジェルス・フィルハーモニック
ポリドール: POCL-2346
西洋音楽はメロディ・リズム・ハーモニーで出来ている、というのは19世紀まで。20世紀に入るとメロディ・リズム・ハーモニーをさりげなくブチ壊したドビュッシーや、メロディとハーモニーをあからさまにブチ壊したストラヴィンスキーなどの影響が強くなり、音楽はいよいよ多様化を始めます。それと同時に先鋭化も進み、中にはイタリアの未来派のように機械文明を賛美し音楽に機械の騒音を取り入れたグループも現れました。フランス生まれの作曲家エドガー・ヴァレーズもそれらの影響を多大に受けた一人です。
ヴァレーズの作品は多くありませんが、いずれもこれまでの西洋音楽では理解のできない複雑さや騒々しさを持っています。ロマンティックな19世紀音楽に慣れた耳にはつらいかもしれません。タイトルも科学的な単語が使われていたりして、人間の個人的感情のようなものを排除しております。そんなヴァレーズの作品の中からメジャーどころの3曲を収録したのがこのCD。
1曲目の『アルカナ』は大編成オーケストラのための作品。5管編成、68人の弦楽器、40種の打楽器が必要とのこと。特に管楽器では、イングリッシュ・ホルンやバス・クラリネット、コントラ・ファゴットは当たり前に使われており、さらにヘッケルフォーン(バリトン・オーボエ)とかコントラバス・トロンボーンとかコントラバス・テューバなどの珍楽器も使われています。
タイトルの『アルカナ』とは錬金術における奥義を意味し、曲の雰囲気も「神秘の探求」といったアヤシゲなものであり、人知を超えた音楽の奥義を手探りしているような印象。メロディーは分解されて残っているのは音形のみ、打楽器による何かの信号音のようなリズムの断片、ハーモニーに至ってはその概念すらも存在しないかのようです。それでいて全体はブロック構造をしているのがなんとなく把握できます。曲に乗っかって、その構造を分析したくなるようなメタ音楽と言えるのかもしれません。
2曲目のタイトル『アンテグラル』とは「積分」の意味。積分とは数学のあの積分のことですが、どのへんが積分なのかは誰にもわかりません。こちらも大編成オケで、曲の雰囲気も『アルカナ』に似ていますが、ジャズっぽい断片や木管楽器のソロなども現れたりして起伏に富んでおり、こちらの方がやや聴きやすいでしょう。とはいえ、これを聴いて勉強(数学)がはかどる、なんていう人はある種の変態に違いありません。
3曲目の『イオニザシオン』というタイトルは「電離(イオン化)」の意味。おそらくヴァレーズの作品の中で最も有名でしょう。13人の奏者による37種類の打楽器のみによって演奏されるという、西洋音楽初の打楽器アンサンブルとして名高い作品です。チャイム、チェレスタ、ピアノが編成に含まれていますが、それらは徹底して打楽器的に演奏されます。ここではリズムのみが存在し、メロディとハーモニーは原子レベルで分解しており、それがこのタイトルに妙に合致しているような気がして面白いところです。他にも複数のサイレンが使われていますが、それが音楽として非常にマッチしているのがヴァレーズの非凡なところでありましょう。
上の動画はピエール・ブーレーズとアンサンブル・アンテルコンタンポランによる演奏。さすがに分析的ですね。
これらのようなヴァレーズの音楽は20世紀のクラシック音楽に大きな影響を与え、ますます多様化が進み、そのほとんどが聴くに堪えないゴミのようになってしまいました。ですが、私にとってはそれが宝の山のように見えるのです。
ちなみにどうでもいい話ですが、学生時代にオーケストラの部内演奏会みたいなのがあって、その時に同期でなにか演奏しようということになりました。そこで私が『イオニザシオン』を10人で演奏できるようにアレンジした譜面を作り、それを無理やり演奏させたということがありました。聴く方も「?」、演奏する方も「?」、喜んだのは私だけだったという地獄がありましたとさ。
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