ヘンリー・カウエル:
・ペルシャ組曲
・賛美歌とフーガ風の調べ第2番
・アメリカの坩堝
・アリア
・古いアメリカの田舎の組曲
・アダージョ
指揮:リチャード・オールドン・クラーク
マンハッタン室内管弦楽団
KOCH: 3-7220-2 H1
ジョン・ケージの名前は知っていても、ヘンリー・カウエルの名前を知っている人は少ないかもしれません。アメリカの作曲家ヘンリー・カウエルはジョン・ケージの師匠であり、弟子には他にもガーシュウィンなどがいます。作風は前衛的で、
ペンデレツキや
リゲティが用いたトーン・クラスターという技法を提唱したり、ピアノの内部奏法を発明しています。その一方で、アメリカをはじめ各国の民謡や民族音楽を研究し、それに基づいた明朗な作品を数多く発表しています。このディスクでは小規模の管弦楽による民族音楽が収録されています。
表題の『ペルシャ組曲』はカウエルがテヘランに滞在中に作曲されたものだそうで、音階・リズム・アンサンブル・装飾音などがいかにもイラン風の音楽。アンサンブルにはギターに似たタールという楽器が加わりますが、このディスクではマンドリンで演奏されているとのこと。全体は緩-急-緩-急の4つの曲からなり、4曲目では随所に「ヤ!」という掛け声も入ります。私はこういう異国ムードの音楽が好きなのですが(特に2曲目のような)、カウエルは民族音楽を西洋風に再構築したとかもなく、本当に素直にペルシャ風の音楽を作ったという印象。ただし、このディスクでは比較的西洋風に洗練されたスマートな演奏になっているようです。
こちらの動画はどこかのライブ演奏風景。楽器もタールを用いていて、よりペルシャ風の演奏。パーカッションのリズムパターンが上記ディスクの演奏と異なる部分があり、ひょっとしたらアレンジやアドリブが自由なのかもしれません。
ディスクの他の曲はアメリカ風の作品で、中でも『アメリカの坩堝(るつぼ)』はバラエティに富んだ楽しい組曲。「るつぼ」とはもちろん「人種のるつぼ」のことであり、アメリカ人を構成する様々な民族の雰囲気を音楽で表しています。崇高なゲルマン系、大らかなアフリカ系、気取ったフランス系、神秘的な東洋系、大地の匂いがするスラブ系、明るさと哀愁を持つラテン系、透明感のあるケルト系、といった感じです。それぞれの民族の音楽的特徴を有しながらもアメリカ音楽に総括できるという二重構造。他の曲もアメリカの田舎風ののどかな作品です。
前衛の作曲家の作品集ということである種の期待があったのですが、これほど民謡的な作品集だとは思いませんでした。ただ、このディスクの演奏は全体的にはすっきりスマートなものが多いですが、もっとコテコテの演奏も聴いてみたいところです。
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