日野日出志「ホラー自選集」の第5話「はつかねずみ」です。私にとってこの作品も(いい意味で)しんどい部類に入ります。得体の知れない恐怖ではなくて、「はつかねずみ」という明確な対象がおり、読んでいると生々しい嫌悪感と怒りを抱いてしまうのです。
作品は全編が主人公の回想からなっていてます。冒頭で主人公の少年がペットショップに立ち寄ったがために地獄の日々が始まったことが暗示されます。店ではトカゲの餌にするためのはつかねずみが飼育されていて、少年はそれらをつがいでもらってきました。
少年と妹ははつかねずみを大変に可愛がっていました。そしてはつかねずみに子供たちが生まれたのですが、子育てにナーバスになっていたのか、はつかねずみは少年の指を噛んでしまったのでした。それに怒った少年は数日間餌を与えませんでした。すると一匹のはつかねずみが連れ合いと子供たちを食べ尽くして逃げてしまったようなのです。それと同時にペットショップも引っ越してしまいました。
全てのはつかねずみがいなくなって落ち込んでいた兄妹を両親が元気づけているシーンですが、それにしては背景は真っ暗だし、あまりにも異様な絵柄になっています(特に最下段の3コマ)。コマの「間」が絶妙なだけに、歪んだホームドラマという印象を与えるページです。
さて兄妹は小鳥を買ってもらうのですが、その小鳥が無惨な姿になっていました。犯人は逃げたはつかねずみです。少年が捕まえようとすると……。
あえてショッキングなページをピックアップしますが、ここで見られる少年の顔の造形、色使い、ねずみの目つき、畳に真っ暗な背景、いずれも鬼気迫るものがあります。
ある日、大きくなって暴れ回るはつかねずみを退治しようとお父さんが猫をもらってきました。
はつかねずみが割とリアルに描かれているのに対し、猫の造形がひどいです。お父さんの顔のシルエットも凶悪で、一家の悪意が滲み出ているようです。ですがこれは徒労に終わるどころかはつかねずみの怒りを買い、さらに図体が巨大になってやりたい放題で、一家を支配していきます。一家は一計を案じて生け捕りに成功するのですが……。
はつかねずみも怖いですが、この一家も相当怖いです。セリフのテンポや言い回しもいいですね。これでひと思いに処分していればそれで終わりだったのですが、一家が余裕をかましているうちに檻が壊されてしまい、報復として生まれたばかりの赤ん坊がはつかねずみに噛み殺されてしまいます。
そして最初の見開きページと似たページが最後に再び現れます。日野日出志の作品にはこのように最初と最後が繋がっているものが多く、それによって恐怖が循環していることを暗示しています。
もとは少年がはつかねずみを追いつめたのが悪いのですが、はつかねずみの凶暴化のエスカレートぶりがあまりにも恐ろしく、屈辱的です。そんなこともあって、この作品は読めば読むほどしんどくなります。だからこそ忘れたくても忘れられない強烈な印象のある作品なのですけど。日野日出志の他の怪奇作品とはやや異質ですが、絵柄や話の展開は相当に作り込んでいて、やっぱり日野日出志だと唸らざるを得ません。
余談ですが、Wiiで出ている
ネクロネシアというゲームでは日野日出志がイメージビジュアルを担当していました。誰か持っていらっしゃるでしょうか?
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