大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

対症療法で問題を先送りせず、経済の実態を見つめよ

2010年12月14日 | ニュースの視点
日本銀行は先月30日、成長分野の企業に融資をした民間金融機関に対して、超低金利で資金を貸し付ける制度の2回目の実績を発表した。貸付金額は1回目(9月実施)の4625億円から倍増の9983億円、貸し付ける金融機関数も47から106に増えたとのこと。これについて、日銀は「成長企業への融資拡大の呼び水を狙った効果が徐々に出ている」としている。

次の2点において、これは全く意味のない議論だと私は思う。
 ・融資について日銀が関わることが正しいのかどうか分からない
 ・成長分野への貸付というが、結局貸出先は個々の企業になっている

もし私が「悪意」を持っていたら、日銀が言うところの「成長分野」において会社を設立するだろう。あるいは、その分野の会社を買うことを考える。それだけで何らまともな審査を受けることもなく、超低金利でお金を借りることが出来てしまうからだ。

企業に融資をするべきか否かというのは、その企業の様々な「経営指標」を分析し、かつ企業で働く「人」にも目を向けて総合的に判断するべきことであり、それこそ「バンカー」の役割だと私は思う。

現状では「環境」「エネルギー」といった「成長分野」というだけで盲目的に資金を貸し付けているが、これではいずれ焦げ付くのは目に見えている。その上、超低金利ゆえに「金利も取れず、元本返済もない」となったら目も当てられない状況だ。

経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数は91.1と、前月比1.8%低下した。前月を下回るのは5カ月連続で、エコカー補助金の終了に伴う自動車の減産が指数を押し下げたとのこと。

エコカー補助金の終了で自動車が減産する一方で、家電エコポイント効果によって液晶テレビなどは出荷増になっている。私に言わせれば、こうした現象は全て「民主党の揺さぶり」に過ぎず、経済の実態を反映したものではないと思う。

エコカー補助金にしても家電エコポイントにしても、そうしたキャンペーンが終了すれば一気に落ち込んでしまう。こうしたことにお金を使うのは愚の骨頂だ。

日本人が欲しい物を買って、その上で「本当に」足りないものは何か?という「経済の実態」を見つめるべきだ。そして、その実態が厳しいものであっても、それを受け入れるところから日本は再スタートする必要があると私は思っている。

対症療法によって問題を先送りにして、厳しい「実態」から目をそらすというのは民主党による一連の経済対策の特徴だ。エコカー補助金やエコポイント効果のせいで、本当のところどのくらい日本経済が上向いているのか?それとも逆なのか?ということが見えにくくなっている。「実態」をあやふやにして問題を先送りにしているだけだと私は思う。

そして、それは昨年亀井氏が推し進めた「モラトリアム法」も、今回の日銀による「超低金利融資制度」も同様だ。本当は倒産するはずの企業の「実態」を曖昧にして、問題を先送りしただけだ。私に言わせれば問題外の政策」としか言えない。

一時的に問題を先送りにするのはいい加減にして、日本経済の実態を直視し、本当に解決すべき問題に取り組んでもらいたいと強く願っている。


【今週の問題解決視点のポイント】
銀行業務の本質、日銀業務の本質、行政の本質。本質を見なければ真の解決は図れない。

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大意には同意です (Unknown)
2010-12-14 12:42:02
大意には同意です。

私も現政権の対処療法は効果が薄いと思いますが、エコポイントとエコカー補助金は自民党政権下のものでは?

もちろん、最後のポイントでご指摘の本質を見抜く目を有権者が養い、投票の結果として政策に反映されるためにも記事をお書きだと思いますし、それには同意します。
返信する
Unknown (ggg)
2010-12-14 12:45:35
こんな制度だったら会社にエネルギー削減コンサルタント部門でも作ろうかって思いますよ。そこで融資でも受けて金利の高い借入金すべて償還してしまいたいです。元々、日々の業務で小コスト省エネ提案等を行っているので幽霊部門で十分です。
返信する
対処療法とくくってしまったら (よっち)
2010-12-14 19:14:11
対処療法とひとくくりにしてしまうと、
金利政策とかも含め、もともと日本の政策は対処療法・その場しのぎが基本ですので焦点がぼやけると思います

むしろ、高速無料化実験やエコポイントなど、
範囲を絞った政策が最近特に増えている気がします

そうだと仮定して、なぜ対象を絞るのか?
私が思いつくのは以下の3つ。
・将来の政策のために何らかのデータを測っている。かつ最適な方法を模索している
・選挙対策など裏事情がある
・とりあえず金をばらまけば、その効果がでると思っている

自分で書いていて、1番はないと思いました
返信する
Unknown (たけひめ)
2010-12-14 22:41:17
問題を先送りにする民主党というが、それでは自民党が今までどれだけ真摯に行ってきたか聞きたい!
返信する
Unknown (ウール)
2010-12-14 23:27:17
ん?エコポイントは自民党でしょ?
返信する
Unknown (pu)
2010-12-15 09:08:44
問題の先送りはバブル経済のときからずっとですね。自民党でも民主党でも、こんな政府なら税金を払うのが無駄。
返信する
Unknown (Unknown)
2010-12-15 12:30:20
ウールさん
その通りでした。

党は変わっても、やっていることは全く一緒なので、混乱してました

ということは、党の問題ではなく、政治や国の構造上の問題なのかもしれません
返信する
構造改革を (なすび)
2010-12-16 10:49:14
政治よくないですよね(T.T)
じゃあ、政治の人を入れ替えれば良くなるのか?と考えるとそうも思えなくて。人はそれなりに優秀な人を配備しているはずなのにそれほど効果がない。ということは、「優秀な人」の「価値」を見直すのもひとつの手かな?と考えられます。

機能、役割分担が不明確。というか構造の問題が露呈してるのだと思います。が、どこが?何が?というとそれもまた抗争がからんだりして修正には時間がかかるのだと想定できます。徐々に変わっていくのだと思います。

いずれにしても、単なるリストラとは異なる構造改革が必要で、実際それはいずれ実施されます。そのときに、機能分割が明確であれば「優秀」は「さして価値がない」を理解している/してないで、その改革速度は変わると思います。←本質は見えてるでしょか??
返信する
具体策を教えて (凡人)
2010-12-16 20:29:20
総論的な政策批判ではなく具体策を、例えば、
大田区や東大阪市などの中小企業のうち、資本力の
弱い会社はどうすれば良いのか?
そういう企業への支援はどういう政策が有効なのか?

こういうテーマで一度解説して頂きたいです。

貴殿の解説には、役割の終わった企業は淘汰される
べきという理念が根底に流れているように感じます。
その点がやや疑問に感じるところです。
何故なら、そこにも人が生きているからです。


返信する
ダメだダメだではやる気が削がれる (tomkun)
2010-12-17 06:09:15
経済を成長させるためあらゆる手を打つべき。人間には予知能力は無いのだからピンポイントで効果的な手を最小の費用で行えるはずは無い。あとから振り返れば無駄も多いだろうが打てる手は全て打つべき。
なんでもかんでもダメだダメだではやる気が削がれるだけ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。