大前研一のニュースのポイント

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苦戦するコダックに対して、好調を維持する富士フイルム

2012年01月24日 | ニュースの視点
米映像機器大手イーストマン・コダックは3日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)から上場基準に抵触する恐れがあるとの警告を受け取ったと発表した。

コダックの経営はズルズルと悪化してきていて、今相当に厳しい状況に追い込まれている。約10年前デジタルカメラが普及する前、世界を富士フイルムと2分していた当時、株価は40ドル前後だったが、急速に力が衰えてきて、株価は30日連続で1ドルを割り込むという厳しい状況だ。上場廃止との警告を受けたということだが、もはや「秒読み」と言っても過言ではないだろう。

このような状況にあるコダックに対して、かつて世界を2分していたライバル、富士フイルムはどうなのかというと、実は今かなり好調を維持している。2000年に社長に就任した古森氏によって、抜本的な事業の構造改革に成功した。

かつて売上の6割弱を占めていたイメージング・ソリューション部門は約2割に減少し、代わりにドキュメント・ソリューション部門が42%を占めるという変貌を遂げている。富士ゼロックスの完全連結対象化、富山化学の買収などが大きく寄与し、2000年度に1兆3833億円だった売上は、2006年度には2兆7400億円に倍増し、利益も順調に伸びている。これは、見事な結果だと思う。

かつて世界を2分していた両者(コダックと富士フイルム)が、なぜこれほど違う結果をたどることになってしまったのだろうか? 富士ゼロックスを買収できたという「運」があったという見方もあるだろうが、唯一の最も大きな違いは「配当の方針」にあったのではないかと私は考えている。

富士フイルムの場合、主力のアナログ写真市場が壊滅的な状況を迎えたとき、なんと2兆円のキャッシュを保有していた。米国の株主のように強く配当を求めていたら、2兆円のキャッシュは残せていないだろう。

突然死する産業に身を置いていたものの、2兆円のキャッシュのお陰で、富士ゼロックスの株を買い増し、富山化学を買収することが可能だったわけだ。配当をしてこなかったことが、戦略的な投資を可能にしたと言えるだろう。

明暗を分けてしまった、富士フイルムとコダック。両者の違いを生み出した背景には、元をたどれば日米の株主の要求の違いが大きく影響していると私は考えている。

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