大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

今の景気回復の実態と本当の景気回復に必要なこと

2006年11月21日 | ニュースの視点
7日、帝国データバンクは、今回の景気拡大について、調査した企業の77.7%が「実感がない」と回答したとの調査結果を発表した。

「なぜ景気回復の実感がないのか?」という論調だが、景気回復の実感を得ることができないのは、当たり前のことだ。

なぜなら、今回の景気回復は単にプラス成長というだけの低成長に過ぎないからだ。

景気回復の期間に焦点をあてて、いざなぎ景気の57ヶ月(1965年10月~1970年7月)を超えようとしているわけだが、経済成長率に目を向けてみると全く違う事実が見えてくる。

「いざなぎ景気」のときのGDP成長率は、毎年8%前後だった。現在、破竹の勢いで成長を続ける中国と同じくらいの急速な経済成長率だ。

一方、今の景気回復とは、一体どのくらいの経済成長率(実質GDP成長率)なのか?

実は、1%弱を行ったり来たりという水準に過ぎない。

つまり、政府が言うところの景気回復(好景気)というのは、単にマイナスになっていないという意味でしかない。

すなわち、経済成長率1%前後の「ちょぼちょぼ景気」でしかないのだから、景気回復(好景気)への「実感がない」というのは当たり前だろう。

では、未だに低成長を続ける日本において、本当の意味で景気回復(好景気)を実現するために打つべき手は何だろうか?

ポイントは、個人資産1,500兆円という巨大なダムを決壊させることだ。

この1,500兆円が市場で有効に使われるかどうかは、個人の心理的な要因によるところが大きいだろう。

この点を分からないまま、マネー・サプライと金利に頼った政策を打ち出しても意味がない。

なぜなら、現在の日本は低成長ではあるけれども「お金は溢れるほどある」状態だからだ。

それよりも、例えば、築30年近い家に住んでいる多くの年配の方が抱えている建て替え需要に応えるような具体的な施策を考えてみる方がずっと効果的だろう。

いざなぎ景気と比較して「景気回復の実感がない」などという一面的な事実(数字)を見るのではなく、きちんとデータを見る目を養うことが大切だ。

政府には1,500兆円の莫大な個人資産を有効に使う施策を考えてもらいたい。