大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

経済成長に魔法なし、中国経済も鈍化の一途/日中関係は、理不尽な領域まで悪化してしまった

2012年10月23日 | ニュースの視点
 中国国家統計局が18日に発表した7-9月期のGDP成長率は
 前年同期比7.4%増加となった。

 7四半期連続の鈍化だが、同日発表された9月の工業生産と小売売上高は
 いずれも前月の伸びを上回ったほか、追加景気対策への緊急性は低下したと
 見られている。

 短期的な視点で見ていると中国経済の状況を把握しづらいのだが、
 長い目で見ると落ち込んできているのは明白である。

 中国のGDP成長率は、2010年には12%台、2011年に9%台、
 そして今回7%台を記録した。

 中国政府は8%台を死守したいという意向を示していたが、結局、
 相当の景気刺激策を実行したにも関わらず7%台に落ち込んでしまった。

 中国にしても経済成長に「魔法」はなく、もうかつての高成長率の時代が
 終わったということだろう。

 今後も成長率は低下していくと思うが、順調に4%、3%と軟着陸
 できれば御の字だと思う。

 ただし、その場合にもこれまでの経済成長に乗り遅れた人たちの
 不満が残ってしまうと思う。

 すでに豊かになった人は問題ないのだが、これから豊かになろうとしている
 人たちが、いま中国には7億人いると言われている。

 彼らからすれば、経済成長が止まり、自分たちが見過ごされてしまうのは
 許せないと感じると思う。

 いまでも中国はGDP成長率で7.4%伸びているわけだが、
 実際、鉄鋼業界などに見る市場の縮小ぶりは相当なものである。

 数字で見るよりも、実態はかなり厳しい状況になりつつあると感じる。

 そのような状況において、中国の政治も揺らいでいる。
 
 5日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、「薄煕来事件が暴く中国の腐敗度」
 と題する記事を掲載した。

 また9日付のダイヤモンド・オンラインは、
 「どうも、中国の政治・経済の様子がおかしい」とする記事を掲載。

 政権交代に絡む権力闘争や地方政府の反発などを背景に、
 中国の一党独裁体制が揺らいでいると指摘している。

 また経済減速への舵取りや格差に対する民衆の不満に対処できるのか、
 欧米の専門家も測りかねていると紹介している。

 11月19日の党大会で、次の10年を担う政権が発足する予定だが、
 未だに中国の政界は読めない状況である。

 上海閥と中国共産主義青年団出身者の争いも続いているようだし、
 胡錦濤と習近平も一枚岩ではないと報じられている。

 外から見ると粛々と政権交代が行われているように見えるが、
 まだまだサプライズがある可能性もあると私は見ている。

 民主党の前原国家戦略担当相は12日、8月に行われた野田首相と
 石原東京都知事の会談について、
 
 「首相は国として尖閣諸島を所有しないと東京都に渡したら
 大変なことになると判断した」

 と述べ、首相の尖閣諸島国有化の最終決断は、石原都知事の対中強硬姿勢が
 理由だったとの姿勢を示した。

 またそのような中、台湾の「国家交響楽団」が予定する中国公演で、
 同楽団の3人の日本人団員だけが中国当局から受け入れを
 拒まれていることが明らかになった。
 
 野田首相としては、東京都に尖閣諸島を購入されてしまうと、
 日本政府と中国との密約を反故にすることになってしまうので、

 それを避けたかったということだろう。中国との関係を悪化させない
 ために「国」が購入するという選択肢をとったわけだが、
 それを上手に中国側に伝えられず、結果として中国の怒りを
 買ってしまったというわけである。

 前原氏の発言に対して石原都知事は「お粗末」だと評しているようですが、
 私に言わせれば石原都知事も同様だ。

 もし私が野田首相の立場だったら、石原都知事を一喝したと思う。

 石原都知事は「戦争も辞さない」と発言したとのことだが、
 厳密な解釈を抜きにしても、そもそも「警視庁」しか持っていない
 東京都知事の立場で首相に対して何を言っているのか、ということである。

 どうやって「戦争」をするつもりなのか、私には滑稽にすら思える。

 むしろ中国の軍部のほうが、尖閣諸島用の軍備を進め、
 「本当に」戦争も辞さない状態だ。

 野田首相にしても、そんな石原都知事の発言に慌ててしまった
 というのは情けない限りである。

 今年は日中国交正常化40周年でしたが、日中関係はそれどころではない
 レベルにまで冷え込んでしまった。

 台湾の「国家交響楽団」の日本人だけが入国を拒否されたというのは、
 異常事態だと思う。

 本来ならば日本人はビザなしで中国に入国できるはずだから、
 中国側には入国拒否をする正当な理由は全くない。

 そのような「理不尽な領域」まで日中関係が悪化してしまったという
 ことだと思う。

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