大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

上場にあたっては成長シナリオを見よ

2012年06月26日 | ニュースの視点
日本航空は9月中旬に株式を再上場する方針を固めた。

2010年1月の会社更生法適用申請から、約2年8カ月で株式市場にスピード復帰するとのことだ。

日本航空の上場時の時価総額は6000億~7000億円となる見通しで、官民ファンドの企業再生支援機構が日航に出資した約3500億円の公的資金の価値が約2倍になる計算だと、新聞は書き立てている。

「国が関与した破綻企業再生での資金回収としては最高額」だというのだが、私に言わせれば、何を脳天気なことを記事にしているのか、と思う。

というのは、今回の上場にあたって「日本航空としての今後の成長シナリオ」が未だに明確に示されていないからだ。

日本航空は稲盛氏の経営改革により、確かに現時点でピカピカの経営状態になった。

稲盛氏の経営手腕は、実に見事で素晴らしい成果を残したと思う。

日本航空の総事業収益とコスト構造を比較してみると、2008年から2011年にかけて事業費は約1兆7000億円から約8500億円へ半減している。

これに伴い販管費も半減(約3000億円から約1500億円)し、営業損益は約500億円の赤字から約2000億円の黒字へ転換している。

リストラを実施して、路線を減らし、徹底的にコストを削減して、これまでの無駄を省き、「事業そのものを縮小すること」で利益が出る体制を作り上げたのが、今の日本航空の状態だ。

そして、現在ここまで利益が出ているのは、資産価値の見直しや特例による減価償却の減少、法人税の支払い不要など、会社更生法適用の影響も否めないだろう。

広告宣伝費なども勝手に話題になっていたために自然と圧縮されていたものと思う。

しかし今後、稲盛改革に続く「成長シナリオ」という観点で見ると、課題が見えてくる。

上場するからには「成長シナリオ」を示す必要が出てくる。

ところが、全日空と日本航空の旅客数の推移を見ると、2009年半ばに逆転されたまま日本航空の旅客数は減少している。

事業を縮小していたのだから当然のことなのだが、「成長シナリオ」を描かなくてはならないとすれば、「このまま」では許されないだろう。

成長するという点で言えば、「残った路線で便数を増やす」もしくは「もう1度路線を増やす」という方法しかない。

残った路線で便数を増やすと、安売りしない限り難しいだろうから、結果としてコストの増加が予想される。

そうするとせっかく稲盛改革でコストを削減したのに、再びコスト増による赤字転落に陥る可能性が極めて高いと思う。

では路線を増やす方法はどうかというと、実際日本航空は今年の4月、成田―米ボストン線を開設し、最新鋭中型機のボーイング787を就航させている。

私も学生時代、散々ボストンへ行っていた身だから直行便ができたのは嬉しい限りだが、現実的にこの便が採算に合うかと言えば難しいと思う。

というのは、HISなどを探せばニューヨークなら時期や条件にもよるが、5万円程度の往復便を見つけることもできるからだ。

そして、ニューヨークからボストンなら1万円くらいの金額で移動できることもある。

このような現状で、日本航空のボストン便に「正規料金」を支払って利用する人はどのくらい居るだろうか?

また自社でも格安航空会社(LCC)に参入しているわけだから、競合する路線もでてくるだろう。

こうした状況を踏まえると、日本航空は「今が最も良い状態」だと言える。

稲盛氏の経営改革の成果は、「本当に素晴らしい」の一言だ。

100点満点を超える結果だと思う。

しかし、上場となれば今後の「成長シナリオ」が描けるのか?という点が重要だ。

残念ながら現時点で日本航空の今後の「成長シナリオ」は示されていない。

それを考慮せずに、「上場すれば資金が2倍回収できる」などと報じているのは、あまりにも脳天気に過ぎると私は思う。

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
天下りは無くなったか? (上石)
2012-06-29 01:08:47
 日航の債務超過額、約1兆円は二年前だが、「官民ファンドの企業再生支援機構が日航に出資した約3500億円の公的資金」であり、「上場時の時価総額は6000億~7000億円となる見通し」というのだから、(JALの株式約96%を保有する企業再生支援機構)これでチャラになる、ということか。
 しかし、これで健全な資本主義社会と言えるのか? 全日空(ANA)が「公的支援を受けての業績回復で競争環境がゆがめられている」と言うのも無理はない。

 「販管費も半減(約3000億円から約1500億円)し、営業損益は約500億円の赤字から約2000億円の黒字へ転換している」
 しかし、最も気になる、『官僚の天下り先の民間企業』という問題の根幹は解決したのだろうか? そんなニュースは全然、聞こえてこないが……。
 昔のブログから拾ってきたのが以下である。

日航と同じで、官僚の天下り先の民間企業が経営困難となっての公的資金注入という、(民主党のやり方として)誠におぞましい構図
官僚が天下り、競争がないことで、全体の質を落とした結果だ。日航と同じ集団思考の誤りである。
日航と東電は民間への官僚の天下り先として同様に破綻

 東電は相変わらず経済産業省OBの天下り先のようだが……。
 そして稲盛さんは省庁へ相当の影響力があると聞くが……。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。