大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

人民元改革はゆっくりとゆっくりと進めるべき

2007年01月10日 | ニュースの視点
14日、上海外国為替市場の人民元相場は、ドルに対し一時、1ドル=7.8180元まで上昇した。

これで、昨年7月の切り上げ後の最高値を更新したことになる。

これに対して米ポールソン財務長官は、早期の人民元改革をさらに強く求めているが、私はこの意見に反対だ。

人民元はゆっくりゆっくりと切り上げるようにすべきだと考えている。

なぜなら、早期の人民元の改革(=完全なフロート制への移行)を実行すれば、現状から約2倍の価格(1ドル4元~5元)という水準に達するからだ。

この水準に達してしまうと中国には2つの大きな問題が生じる可能性があるだろう。

1つは、輸出を柱としている今の中国企業が軒並み競争力を失ってしまうということだ。

かつての日本のように、生産力を高める経営努力でカバーできる可能性はあるが、今の中国の経営者を見ている限りでは、その実力はないと私は思う。

輸出競争力を失った中国は輸入にシフトし、結果、工業資本国から商業資本国になってしまう可能性がある。

もし、工業資本国としての今の中国が崩壊してしまうと、日本を含め、多くの国が困ることになるだろう。

現状の中国経済の規模を考えると、いまさらベトナムなど他の地域で中国の代用をするというのは無理な相談だからだ。

もう1つは、短期間に1ドル4元、5元という水準まで価格が上昇すると、逆に人民元を売り浴びせる投資家が出現し、市場において人民元の価格が乱高下する可能性が高いということだ。日本はもはや中国からの影響を免れない立場だ。

もしこのように元が激しく乱高下すれば、日本経済も影響を受けて安定性を失ってしまうだろう。


人民元の切り上げの問題について、米中貿易の経済問題をにらんだ米国の意向もよく理解できる。

しかし、元を早期に切り上げた場合、中国という国がどういう方向へ進んでいくのか?

そして、それが世界にどのような影響をもたらすのか?ということをしっかりと見据えるべきだろう。

中国人経営者の実力、中国の国際的な影響力など、現状についての正しい情報収集と考察の元、仮説を立てて予測すべきだ。

そういう点まで考えると、アメリカ側からの圧力もあっても、中国にはゆっくりとゆっくりと元を切り上げていくという方針を貫いてもらいたい。

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