いくら主演作とはいえ、これほど丁寧に撮られているのだから、北川景子は幸福な女優だといわなければならない。『花のあと』は、東北地方の小藩を舞台とする藤沢周平の時代小説を映画化したものだが、アイドル映画としても、なかなかの秀作に仕上がっている。
作品の序盤は、ヒロインの北川景子の発声が少し硬く、また日本髪を結った姫姿もやや陰気なのだが、剣術の稽古や試合、果ては決闘となると、素足となって髪も下ろし、躍動がじつに凛々しく撮影されている。そして、彼女が竹刀や剣を手にするのは、厳つい道場の中ではなく、かならず花香の漂う春風駘蕩たる屋外である。もちろん躍動などといっても、武侠映画やチャンバラ映画のようにはいかない。いや、そこまでいかないからいいのである。
ヒロインの初恋相手が江戸で無念の自決を計り、映画前半はまず悲劇で折り返す。ところが、この自決の裏事情を、ヒロインと彼女の許婚者(甲本雅裕)が探偵しはじめる後半で、重厚な文芸時代劇から一転、捕物帖的な軽快さを帯びてくる。この転調に、知的な巧緻さを感じた。
中西健二という監督は、デビューとなった前作『青い鳥』(2008)もそうだったが、一本背筋の通った演出がすがすがしい。たいへん聡明で、節を曲げない姿勢がある。「この奇跡的なワンカット」を撮るような才人ではないかもしれないが、一作り手として、きちんと生きている感じがする。
老後のヒロインが孫たちに、自分の娘時代を語って聴かせるという構成をとっており、このオフの声を、往年の大映スター藤村志保がやっている。この乾いた声質がいいというだけでなく、この人選からして、本作の作り手は、たとえば三隅研次の大ファンなのであろう。
丸の内TOEI2など、全国で上映中
http://www.hananoato.com/
作品の序盤は、ヒロインの北川景子の発声が少し硬く、また日本髪を結った姫姿もやや陰気なのだが、剣術の稽古や試合、果ては決闘となると、素足となって髪も下ろし、躍動がじつに凛々しく撮影されている。そして、彼女が竹刀や剣を手にするのは、厳つい道場の中ではなく、かならず花香の漂う春風駘蕩たる屋外である。もちろん躍動などといっても、武侠映画やチャンバラ映画のようにはいかない。いや、そこまでいかないからいいのである。
ヒロインの初恋相手が江戸で無念の自決を計り、映画前半はまず悲劇で折り返す。ところが、この自決の裏事情を、ヒロインと彼女の許婚者(甲本雅裕)が探偵しはじめる後半で、重厚な文芸時代劇から一転、捕物帖的な軽快さを帯びてくる。この転調に、知的な巧緻さを感じた。
中西健二という監督は、デビューとなった前作『青い鳥』(2008)もそうだったが、一本背筋の通った演出がすがすがしい。たいへん聡明で、節を曲げない姿勢がある。「この奇跡的なワンカット」を撮るような才人ではないかもしれないが、一作り手として、きちんと生きている感じがする。
老後のヒロインが孫たちに、自分の娘時代を語って聴かせるという構成をとっており、このオフの声を、往年の大映スター藤村志保がやっている。この乾いた声質がいいというだけでなく、この人選からして、本作の作り手は、たとえば三隅研次の大ファンなのであろう。
丸の内TOEI2など、全国で上映中
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なお、この1983年のPFFというと、他に、木村淳、暉峻創三、葉山陽一郎、浅野秀二、香川まさひと、樋口尚文、佐野和宏、そして一昨年に『草間彌生 わたし大好き』を公開した松本貴子など、錚々たるメンツが並んでいます。
私が学生時代に所属した早大シネマ研究会の先輩も、杉森秀則『Grey』、竹藤恵一郎『サメロメ』の2本が入選しています。私はまだ高校生で、『ぴあ』誌上のフェスティバル講評ページを読むと、「今年もやはり、早大シネ研と立教SPPが他を圧倒して競った1年であった」などと書かれているのを読みつつ、「よし、受験勉強をがんばろう」などと考えたものです。今では苦笑ものですね。
杉森秀則さんは、のちに浅野忠信とUA主演の『水の女』(2002)で商業映画デビューを果たしましたが、その後はどうされていらっしゃるのかしら。竹藤恵一郎さんのほうは、ずっとTV業界にいらっしゃるはずですが。