荻野洋一 映画等覚書ブログ

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正木美術館《利休参上》

2012-10-17 10:04:19 | アート
 大阪の難波から南海電車で30分ほど行った忠岡という町に、好事家のいとなむ正木美術館というずいぶんと渋い私立の施設があって、私がここを訪れるのは10ヶ月ぶりのことだ。東京からの交通の便がよくないのと、春と秋の2期しか開館しておらず、そうそう気軽に訪ねるというわけにはいかない。
 今回、秋の蕭風に当たりつつ田舎道をノコノコ行くことにしたのは、仕事上のスケジュール面で一息つけた気安さと、長谷川等伯の作とされる重文の『千利休図』(1583)が出ているというので「これは一度、ぜひ実物を見ておこう」と思い立ったからである。利休を描いた肖像画は世にこれしかないらしいが、その図が意気軒昂たる全盛期の威圧感を出しているのはすばらしいと思う。
 《利休参上》と名づけられた本展には他に、禾目の建盞天目であるとか、虎堂智愚や月江正印、義堂周信といった禅僧の墨蹟であるとか、惟肖徳巌の賛の入った竹石図など、私のようなその筋のファンにとっては相変わらず垂涎の陳列である(義堂周信はこの美術館のスーパースターだ)。「来てよかった」と思いつつ、最後は別館の日本家屋にも立ち寄った。
 そこには、竹工芸の田辺竹雲斎の4代目にあたる田辺小竹(たなべしょうちく)の新作『竹のインスタレーション 天と地』が展示されていた。天井から竹片がざっくりと編み込まれながら畳へと下降し、さらに竹片の川は畳から廊下へとはみ出していく。日本家屋の大広間に展開される、絢爛たる竹一色の天の川…。
 つい前日に中之島の国立国際美術館で見た、宮永愛子が12万枚のキンモクセイの葉っぱで製作した巨大オブジェ『景色のはじまり──金木犀』をすぐに思い出した。かたや、奨学金を得てアメリカで活動しはじめた京都出身の女性作家。かたや、利休ゆかりの泉州・堺で4代つづく竹工芸の跡取り。関西出身という共通項しかもたない2人のアーティストが発表した新作の中には、たしかに共時的な空間感覚を見出すことができる。
 とにかく今回も、得るもの多き浪花・泉州への小さな旅であった。


P.S.
 事後は堺の南、石津神社そばの浪花割烹「松(ときわ)」で食事をとってから新大阪へ北上、東京行きの終電間近の新幹線に飛び乗った。前夜は前夜でミナミは法善寺横丁の「K」にて大いに口福にあずかったあと、宗右衛門町のバーでラムとペルノーを朝までお代わりした。つまり2晩続けて大阪生粋の味覚にひたったわけである(気のせいか、上図チケット半券の利休師もオカンムリに見えてくるが)。いわゆる「粉もん」を素通りするようになってから、急激に大阪の面白さが見えてきた。


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