荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『P.P.P.』 構成・出演: フィア・メナール

2011-11-02 01:26:27 | 演劇
 東京・両国のシアターχ(カイ)にて、フィリップ・メナール(カンパニー Non Nova)の『P.P.P.』を堪能した。このパフォーマンスは、2008年にリヨンのレ・スュブズィスタンス劇場で初演されたもので、その際にメナールは性転換手術を受ける意志を公にした。そしていま、秋の深まるこの東京で、彼はフィリップではなく、フィア・メナールとしてなまめかしくセクシャルな肉体を、氷との戯れ、対話のなかで燃焼させている。
 メタモルフォーズの主題は、この作品の独演者の性転換にとどまらない。新劇の形式に忠実なプロセニアムである同劇場がこのパフォーマンスに適しているのかどうかはわからないが、とにかくこのプロセニアムの天井に、等間隔で釣り下げられたスノーボール。彼女(彼)は最初、四角い氷塊の上にポツンと腰かけ、静かにうなだれている。そこから徐々に情熱的なジャグリングが始まり、運動が痙攣的、物神崇拝的に脈打つ。舞台上には、冷蔵庫のような洋服ダンスのようなシャワールームのような半透明の直方体が3体置いてあり、これが彼女の運動に呼応して、なめらかに移動して見せたり、ドアをコミカルに開閉して見せたりして、さまざまなロボット的表情を披露する。
 私はこの舞台を、たいへん哀しい独唱のようなものであると思いながら見つめつづけた。おびただしい量の氷が、ジャグリングされながら乱暴に投げ捨てられ、あたりに飛散する。そして天井からは、ぽたりぽたりとスノーボールが少しずつ溶けだした水滴のフロアに落下する音が、ミュージック・コンクレート的な音響と共に、はかなげなアンサンブルを形成する。
 彼女は冷蔵庫(洋服ダンス)のドアを開けて次から次へと、彼女にとって唯一のおもちゃであるスノーボールを取り出しては、連投することに余念がない。私たち人間の生がいかに不毛な蕩尽でしかないかということが、劇場内に立ちこめた異様な冷気、寒気と共に、あからさまに露呈しようとしているのである。


本作は、シアターχ(東京・本所両国)で2日(水)、3日(木・祝)にも上演
http://www.festival-tokyo.jp/program/AdiSchatz/


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