荻野洋一 映画等覚書ブログ

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ロクス・ソルス レーモン・ルーセルの印象

2015-08-17 19:37:35 | アート
 日本国内の美術展や博物展は、すでに海外でキュレートされた展示の並行輸入が多く、世界規模に通用するオリジナルの企画が少なすぎると批判されている。また、私も同じような批判を書いたこともある。しかし、問題は並行輸入が多いことではなく、並行輸入すべきものがされないという点にもあるように思う。世界には、より多くの視線を集めるべきすばらしい美術展があるのに、そうならない。だからこそ、地球の反対側に旅をする理由も生まれるのであるが。

 2011年の秋の終わり、ロケ撮影のために私はマドリーにいた。仕事が終わって帰国の前日か、もしくは当日の朝だったか忘れたが、アトーチャ駅前の国立ソフィア王妃芸術センターを訪れた。ピカソの『ゲルニカ』を所蔵することで有名な、近現代専門の国立美術館である(東京でいうならプラド=東博、ソフィア=東近美)。
 私はふつうに常設展を見に来ただけなのだが、企画展にぐっと引き寄せられた。《ロクス・ソルス レーモン・ルーセルの印象》というタイトルだった。なつかしいレーモン・ルーセル(1877-1933)の名前。わが学生時代のペヨトル工房の全盛期の重要な固有名詞だが、すっかり意識の奥底へと沈殿していたものだ。最近、部屋の中を整理していて、その時の図録が本棚の億から出てきた。ぺらぺらとめくってみる。
 ダダイスト、シュルレアリストたちから熱狂的に支持された以外は、その奇怪かつ難解な作風が理解されないまま、失意と蕩尽の果ての1933年、薬物中毒のためシチリア島で客死したレーモン・ルーセルだが、死後60年後に、トランクルームに眠っていた9個の段ボール箱が、パリ国立図書館に寄贈された。私がマドリーで見ることになった展覧会は、この段ボール9箱のお披露目であった。パリ国立図書館の協力のもと、2011年から2012年にかけてマドリーのソフィア王妃芸術センター、ポルトのセラルヴェス現代美術館を巡回したのである。
 新発見の詩、小説、スケッチ、ポートレイト写真、書類といった遺品が展示され、『ロクス・ソルス』『アフリカの印象』の演劇上演時のスチール写真やポスターのほか、ミシェル・レリス、アンリ・ルソー、ポール・デルヴォー、サルバドール・ダリ、ポール・エリュアール、マン・レイ(図録表紙はマン・レイ作 写真参照)、マルセル・デュシャン、フランシス・ピカビアら、関連人物たちの作品ならびにルーセルを絶讃する肉筆原稿、ジョルジュ・メリエスのサイレント映画etc, と、きわめてにぎやかな企画展である。
 かつてソフィア王妃芸術センターで見て「これはいい企画だな」と思ったものに、エドワード・スタイケンの写真展があったが、あれも忘れたころに世田谷美術館が持ってきてくれた。レーモン・ルーセルも忘れたころに見られるといいのだが。


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