ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

だるまさんが転んだ・・・か?

2016-07-16 23:47:13 | 日記
物静かなテイさんが、夜間に建物内を徘徊していたという。

アルツハイマーによる記憶障害は激しい方だが
食事時間以外はほとんど寝ているし
排泄は自分でトイレで行っているし
これまで私たちが手を焼くことは、まず、なかった。

それが夜間に裸足で廊下を歩き
エントランスから出ようとしているところを
その日の夜勤者が運よく発見したのだった。

これはマズイ。
たった一人の夜勤。
オムツ交換やトイレ誘導の援助に出たら1、2時間は戻れない。
その間、彼女が外に出て行ってしまったらお手上げである。
(特養などではありえないだろうが
ウチのような介護サービス付き高齢者向け住宅の場合、出入りは自由。
そのためにこうした危険が生じるのだ)

スタッフで話し合い
テイさんの部屋は常に施錠を確認し
さらに、ドアの前に丸イスを置いておくことにした。
遠目からも、イスが動いていればテイさんが部屋から出たと
確認できるわけだ。

それから2日目の夜。私の夜勤の日のことである。

1時間ほどの援助を終えて事務所に戻る途中
同じフロアにあるテイさんの部屋の方向に目をやった。
ヤバイ、イスが動いている。

テイさ~ん!

大慌てで彼女の部屋へダッシュ。
わずか30メートルほどの直線距離が、果てしなく遠く感じられる。
勢いよくドアを開けると
何のことはない、彼女はすやすやと寝息を立てているではないか。

ほっと胸を撫で下ろし、少し休憩。
30分後に再び援助に出ようと廊下に出る。

ヤバイ! またイスが動いている。

テイさ~ん!!!

またしても全力疾走。
しかし、またしてもテイさんは寝ているではないか。

ああ、よかった。

それにしても
部屋にいなかったらどうしよう?という不安と老体に鞭打つ全力疾走で
心臓はバクバクだ。

この夜、これを何度繰り返しただろう。

イスが勝手に動くわけはないから
すぐ戻ったにせよ、テイさんは確実に部屋から出ている。
しかも、私が見ていないときを見計らって-。

なんだこれ、まるで“だるまさんが転んだ”じゃないか!?

テイさんよぉ、勘弁してくれ。
私に遊んでるヒマはないんだよ!



介護メン

2016-07-13 23:03:43 | 日記
前にも少し書いたかもしれないが
同僚の山田はドケチな30歳の男である。

一番の楽しみは給料日に銀行で記帳し
その通帳を開いて残高を確認することだと臆面なく言う。

食事は会社の食堂を利用することなく
昼は100円ショップのパン1個。
夜は毎日近くの実家で食べている。

洗濯物も実家に持っていって洗い
このクソ暑いのに
節約のためと冷房もかけずにいる。

彼女いない歴30年で
結婚相手ほしさに婚活バスツアーに参加したが
気に入った相手がいたと言うので
何かご馳走でもしたのかと尋ねたら
「そりゃあボクだってこういうときにはお金を出しますよ。
ジュースの自動販売機にお金を入れて
“さあ、好きなものをどうぞ”って言いました」
なんてバカなことをぬかしよる。

まだまだあるのだが、枚挙に暇がない。

今日は研修。
上司に「もし自分が認知症かもしれないとしたら何をしますか?」
と質問された。

-自分が愛したものを写真に遺します。
-記憶を手繰り寄せて自分史を綴ります。
-記憶があるうちに、これまで関わった人に会いに行きます。

さまざまな意見が出た。

そして問題の山田。
彼は鼻を膨らませてこう答えた。

「財産を管理します」

恋の一つも知らぬ男が、お宝である通帳を抱きしめて寂しく死んでいくのか。

ああ山田よ山田、お前は本当にツマンナイ男だねえ。

ちなみに、彼は某一流大学の出身。
卒業後、夢にまで見た教師となって高校に勤務したものの
半年間で挫折したのだという。

介護はどーしよーもない男の最後の就職先と言われ
それを腹立たしく思いつつ
悲しいかな、ヤツを見ているとどうにも否定できないのである。



エラソーな私

2016-07-10 22:58:54 | 日記
ウチの場合
着替え、入浴、掃除、買い物といった日々の援助は
登録ヘルパーさんがやってくれる。
私のような常勤職員は排泄や食堂への移動などは行うが
あとはほとんどが登録ヘルパーの指導と事務仕事だ。

しかし当然ながら、登録ヘルパーが休むこともある。
そうなったら私たちの出番。
慣れていないので手順も覚えていないし動作も覚束ないが
そんな不安を見せてはならぬ。
内心「えー!!!こんな重度の方の入浴介助なんかどーすりゃいいんだ!?」と
泣きたくなることもあるのだが
そこは平静を装い、慣れた顔つき手つきでコトに当たらねば。

今日はドタキャンの登録ヘルパーに代わって
ある女性高齢者の部屋に掃除の援助に入った。
食堂などでよく話をする方なので、向こうも私をよくご存知だ。

「こんにちは~。今日はいつものヘルパーさんがお休みなので
私がまいりました。ヨロシクお願いしま~す」

すると彼女は驚いてひと言。
「え? あなたのような偉い方が掃除をしてくださるんですか?
申し訳ありません」

え?え?え?
私、偉くもなんともないんですけど?

「いえいえ、もったいないわ。あなたのような偉い方が…」

だからね、違うってーの。
問答しても仕方ないからチャチャッと掃除を済ませて帰ってきたが
いつまでも深々とお辞儀するオバアチャマの態度には
苦笑いするしかなかった。

これは一度や二度ではない。
休みのヘルパーに代わって援助に入るとき
よく言われる「あなたのような偉い方が…」という言葉。

そーか、どうやら不慣れなことをごまかそうとする悠然とした態度
(実は必死なのだが)
それに加えてキャリアがあると勘違いさせる58歳の風貌が
私を“偉い人”に見せているのだろう。
(注:決して威圧的な態度をとっているわけではありません)

実はキャリアまだ3年弱。
介護福祉士の資格も持っておらず、介護技術にはまったく自信のない私であるが
勘違いでも信頼してくれるのであれば
あえて否定することもあるまい。

オバチャンになってからの介護職。
肉体的には若いもんに適いっこないけれど
高齢者に信頼してもらえるだけの人生経験は、きっと負けてない。

それが強みだ。
さあ、オバチャンたちよ、介護の世界へ!
ははは、またしても求人募集である。ごめん。



オオクボさんの、新鮮な毎日

2016-07-05 00:09:10 | 日記
オオクボさん(86歳)は2年前の入居当時
美人のオバアチャンと評判だった。

しかし、認知症は顔の造形を選ばない。
アルツハイマーの進行を抑える薬を飲み続けても
彼女は日ごと、“わからなく”なっていく。

最初は2人の息子の出身大学と勤め先を自慢するだけだった。
それは今も継続しているのだが
最近は昔話を繰り返す一方で
新生・オオクボさんを演じるようにもなった。

「わたくし、オオクボと申します。
今日からこちらにお世話になることになったようですが
布団とか枕はございますでしょうか?」

「あら、ここではお食事まで出していただけるんですか?」

「あらまあ、その上お風呂まで入れていただけるなんて
私、いいとこに来たわ。
お友だちにも紹介してさしあげようかしら」

毎朝事務所を訪ねてきては、そんな挨拶と感嘆の言葉を繰り返す彼女。

美人で、東京・田園調布に家を持ち
息子2人がエリートコースを歩んできたことを
勲章のように誇ってきた彼女が“わからなく”なっていくことは
切なくもあるが

いいなあ、毎日が新鮮で…
とも思ってしまう私である。


インソール

2016-07-03 00:04:55 | 日記
椎間板ヘルニアを診てくれている整形外科で
担当医師が私の足の裏に異常なまでの興味を示す。

「アーチが崩れまくってるし魚の目もすごい。
こりゃあ痛い。かわいそうだ。なんとかしてあげないと…」

肝心な椎間板ヘルニアに関しては
淡々と検査結果を伝えてくれただけなのに
アーチの崩れと魚の目には並々ならぬ意欲と情熱を見せ
魚の目は「僕が削ってあげるから」と翌週の通院を指示。
アーチの崩れは「インソールを作った方がいい」と
同じ病院の装具外来を予約するよう提案してきたのだった。

椎間板-で受診したこっちとしては予期せぬ展開だが
まあそこまで心配してくれるのはありがたい。
では、お世話になるとするか。

さっそく魚の目治療をお願いする一方
アーチを矯正するためのインソールを作るべく
装具外来とやらに行ってきた。

ここは診療が月2回の土曜日しかないので
わざわざ仕事の休みを取って予約を入れなければならない。
面倒だが仕方ない。足のためだ。

ところがそこまでして通院し、しかも1時間以上待たされて
何をしてもらったかというと…

「はい、では足をここに乗せてください」

ここ、と示したのは何の変哲もない白いコピー用紙。
私がそこに足を乗せると
これまた何の変哲もない鉛筆を足の形に沿って滑らせ
「はい、これで足形ができました。また来月来て下さい」。

そーいうこと?
コピー用紙に足型を描くためだけに
私は仕事を休み予約を取って、ここに来たのか?

この病院、大丈夫だろうか…