ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

もう一人のS子

2014-08-18 23:07:57 | 日記
ずいぶん前
「ビリー・ミリガン」という実在する多重人格者について書かれた本を読んだ。
本人が人格交代する瞬間を捉えたドキュメンタリー番組も見たことがある。
同じ人物とは思えないほど顔つきを変える様に、驚愕したものだ。

さて、ここは時に哀しく、時に微笑ましい高齢者住宅。
浮世からややかけ離れた観のある世界だが
犯罪と人格交代の起こる瞬間を
実は今日、私はこの目で見たのであった。

S子さん(88歳)は認知症による物盗られ妄想がエスカレートしており
以前も書いたが
うちの男性職員を泥棒と決め込んでいる。

今日はそのS子さんの買い物代行の日だった。
しかし居室を訪ねると
買い物の日であることはすっかり忘れていた様子。
忘れているだろうとこちらもわかっていたから
丁寧に説明し、何を買ってきましょうかとお伺いする。
「じゃあ、おいしそうなおせんべいとティッシュペーパーと…」
とりあえず、リストはできた。
問題はそのあとだ。

「え~っと、お金を渡さなくちゃ。ちょっと待っていてちょうだいね。
お金、お金…あら?お財布はどこにやったかしら」

さあて、それからが大変だ。
バッグや手提げ袋をひっくり返し
テーブルの上を引っ掻き回し
ベッドの布団をめくり枕を放り投げ
ない、ない、ない、ない、お財布がな~い!

信心深いいつもの柔和な顔つきが恐ろしく変貌していく。

そして叫ぶ。
「泥棒だわ、大変よ、泥棒が入ったんだわ!
見てちょうだい、こんなに部屋が荒らされているのよ!!!」

人格の交代?
自作自演の泥棒劇?

こうなったらもう手がつけられない。
「部屋を荒らしたのはアナタです」なんて言ったら
矛先はこちらに向けられるだろう。

“泥棒に荒らされた部屋”を片付けながら、お財布を捜す。
あった、あった。ちゃあんとバッグの中に入っていた。
がしかし、そのときすでに時間は30分経過している。
あ~あ、今日も援助時間の超過だわ。

私が必死に片付けたことで泥棒の痕跡は消え
S子さんも本来の人格に戻った。

「じゃ、お願いします。気をつけていっていらしてね」
何事もなかったように私を見送る優しいS子さんであったが
私は、疲れ果てた。

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