きのうは夜勤。
いつものように、非常ではない非常ボタンが頻繁に鳴り響く。
一人目は認知症のNさん。
「すみません、何がなんだかわからなくなって」と、いつもの台詞。
最近、眠剤が効かず夜間も眠れないらしい。
訪室すると、彼女が困った表情を向ける。
「“ほ”という字を出したいんですけど、ボタンがないんです」
―“ほ”ですか? きのうは“き”という字が出てこないとお困りでしたよね?
「そうなんです。アナタはどこにボタンがあるかご存知ですか?」
―ごめんなさい、私も知らないんです。
でも知らなくても私は困っていませんよ。
みんな知らなくても困っていないから、大丈夫です。
明日の朝必ず朝食の時間にお迎えに来ますから
今日はボタンのことは忘れてお休みになったらいかがですか?
「ああ、みなさん知らないんですか。私だけじゃないんですね?
じゃ、寝ることにします。おやすみなさい」
こんなんでいいのかい!?と思うほどいい加減な対応だが
以降、朝までNさんからのコールが鳴り響くことはなかった。
二人目は老人性うつ病で、発語と表情の乏しいKさんから
毎度毎度の無言コール。
訪室すると、頭までタオルケットをかぶり、軽いいびきをかいていらっしゃる。
ああ、ウソ寝ね?
Kさ~ん、私を呼んだでしょう? 何かご用?
するといきなりタオルケットを剥いだKさん
抱きかかえていた大好きな犬のぬいぐるみで
ボコボコ、ボコボコ、私の頭をたたきつけるではないか。
冗談なのか、怒りの表れなのかわからないが
しばし、殴られつつ一緒にぬいぐるみで遊ぶ。
やがてうふふと笑い声を発し始めた彼女とオヤスミナサイの握手を交わし
やれやれと退室したのであった。
どうにか皆さん静かにおやすみになったらしいと安心し
一服休憩しようと事務所の扉を開けた。
う、うわぁ!と、思わず奇声を上げそうになる。
廊下のはるか向こうから怪しい人影が。
しかしよく目を凝らしてみたら
それは、リハビリパンツ一丁という大胆不敵な姿で深夜にさまようMさん、
60代前半にしてハイレベルな認知症と失語症をお抱えのMさんなのであった。
勘弁してくれ!
面白いが身が持たん。
いつものように、非常ではない非常ボタンが頻繁に鳴り響く。
一人目は認知症のNさん。
「すみません、何がなんだかわからなくなって」と、いつもの台詞。
最近、眠剤が効かず夜間も眠れないらしい。
訪室すると、彼女が困った表情を向ける。
「“ほ”という字を出したいんですけど、ボタンがないんです」
―“ほ”ですか? きのうは“き”という字が出てこないとお困りでしたよね?
「そうなんです。アナタはどこにボタンがあるかご存知ですか?」
―ごめんなさい、私も知らないんです。
でも知らなくても私は困っていませんよ。
みんな知らなくても困っていないから、大丈夫です。
明日の朝必ず朝食の時間にお迎えに来ますから
今日はボタンのことは忘れてお休みになったらいかがですか?
「ああ、みなさん知らないんですか。私だけじゃないんですね?
じゃ、寝ることにします。おやすみなさい」
こんなんでいいのかい!?と思うほどいい加減な対応だが
以降、朝までNさんからのコールが鳴り響くことはなかった。
二人目は老人性うつ病で、発語と表情の乏しいKさんから
毎度毎度の無言コール。
訪室すると、頭までタオルケットをかぶり、軽いいびきをかいていらっしゃる。
ああ、ウソ寝ね?
Kさ~ん、私を呼んだでしょう? 何かご用?
するといきなりタオルケットを剥いだKさん
抱きかかえていた大好きな犬のぬいぐるみで
ボコボコ、ボコボコ、私の頭をたたきつけるではないか。
冗談なのか、怒りの表れなのかわからないが
しばし、殴られつつ一緒にぬいぐるみで遊ぶ。
やがてうふふと笑い声を発し始めた彼女とオヤスミナサイの握手を交わし
やれやれと退室したのであった。
どうにか皆さん静かにおやすみになったらしいと安心し
一服休憩しようと事務所の扉を開けた。
う、うわぁ!と、思わず奇声を上げそうになる。
廊下のはるか向こうから怪しい人影が。
しかしよく目を凝らしてみたら
それは、リハビリパンツ一丁という大胆不敵な姿で深夜にさまようMさん、
60代前半にしてハイレベルな認知症と失語症をお抱えのMさんなのであった。
勘弁してくれ!
面白いが身が持たん。