長篠落武者日記

長篠の落武者となった城オタクによるブログです。

戦国のブラック企業 宇喜田直家

2012年08月14日 | 戦国逸話
 宇喜田直家。

 ああ、あの暗殺名人ね、と、ピンと来る人が多いのがこのブログをご覧頂いている方々ではないかと思われます。
 そうでない人も見えると思いますので、ちと解説を。
 岡山県付近を治めた戦国大名で次々と敵を暗殺で潰していったことで有名です。結構エグイやり方をしています。敵Aを倒すためAと仲の悪い別の武将Bに自分の部下を偽って投降させ、その際、部下は見知らぬ老婆を「おっかさん!」と勝手に呼んで良い暮らしをさせ安心させた後、偽って投降したBに人質として差し出します。その後、部下はBを裏切ってAに投降します。Bは人質のおっかさんを殺害し、部下はそれを見て「母親の仇をA様の力で。」と涙を流すのでAはすっかり信用します。そして隙を見て部下はAを殺害して宇喜田家に帰還します。
 
 複雑なので説明するのが大変でしたが、とにかく浮浪者の老婆はちょっとした良い暮らしと引き換えに殺害される目に遭っています。それは宇喜田の指示な訳です。なかなかに恐ろしい技を繰り出してくるものです。そして、その指示に従って密命を遂行する。スパイのようといえばかっこいいですが、ブラック企業、という捉え方もあるかもしれません。
 そんなブラック企業に勤めてしまった場合、社長が死ぬ間際は気が弱くなってくるようでとんでもない指令が降りてきます。

○殉死のこと
 直家が病が篤くなり治らないと思い、近臣を呼んで言うには、
「お前、ワシが死んだら殉死してくれるか?」
と聞いて回った。
 聞かれた者は、君恩浅からず、ということから
「願わくはあの世までお供致しとうございます。」
と、皆答えたため直家は大いに喜び、約束の証じゃ、と、いって皆に盃を与えて名前を札に書き、「ワシが死んだらこの札を棺の中に入れてくれ。」と言う。
 そして戸川肥後守秀安を呼び、
「彼等は皆死んでくれると言う。お前はどうじゃ?」
と、聞くと秀安が言うには、
「人にはそれぞれ才能があります。私は若輩ながら軍に当たっては堅塁を破って敵の鋭鋒を挫くことは、常に皆に劣ることはありません。これは私の才能です。しかし、殉死はなかなか難しいですな。これは私の才能が劣るからです。
 殿が殉死の者を求めるならば、むしろ日頃帰依している法華宗の僧侶がよろしいかと思います。冥途はこの世とは違いますが、僧侶が引導を渡すのは成仏できるからです。いわんや殉死して殿を導けば、必ず極楽へいけることでしょう。私らは武士です。多くは修羅道に落ちてしまいます。僧侶に比べれば駄目なのはお分かりでしょう。
 僧侶は首を失うような危ない目にも遭わないのですが殿の尊敬・寵愛は私らよりも十倍と言っても良いかもしれません。私らが矢玉の雨をくぐって、万死に一生を得ても僧侶には寵愛が及びません。殿の寵愛が篤い者が殉死するとすれば、そりゃ坊主共が一番でしょ。」
 
 これを聞いた宇喜田直家は大変困り、
「ま、まぁ、お前が言うことは、もっともじゃな・・・。」
と、言い、戸川の諫言を受け入れた。

 どうやらこの直家殿、死ぬときに部下に「ワシと一緒に死んでくれるよね?」と念を押して回るという暴挙にでてしまったようです。そして部下達に「お供致します。」と言わせて、口先だけで終わらないように、盃を交わして名前を書いた札を棺桶に入れろと指示するあたり、かなりの本気度が窺えます。
 部下達も「ああ、やべぇなぁ。しょうがねぇなぁ。」という感じだったのでしょう。
 しかし、そこへ社長へ直言できる部下、戸川秀安が登場して「そんなに一緒に死んで欲しいならば、命かけて戦ってるワシらよりも厚遇されている僧侶達の方がふさわしいでしょうが!武士は修羅道に落ちるけど僧侶なら極楽へいけるんだから、あんたを間違いなく連れてくことでしょうねぇ。」と皮肉たっぷりに言われてしまいます。
 この諫言を受け入れたことで、宇喜田家は最優秀ブラック企業認定を免れたといえるでしょう。

 しかし、宇喜田直家。
 あんだけ際どいことやってますけど、坊さんを厚遇していたんですね。地獄へ堕ちるのが怖かったんですかねぇ。戦国梟雄ランキングでは上位間違いなしの宇喜田直家の意外な一面を見た気がします。