入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「春」(51)

2022年05月10日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 午前4時半、気温零度、晴れ。権兵衛山の北斜面にも朝の日が射し始めた。外に出たら、かなりの頭数の鹿の群れがキャンプ場近くのクマササの中を逃げていくところだった。奴らがこんな近くまで来るのなら、大型の囲い罠にも入っておかしくないと思うが、誘引を兼ねた捕獲用のゲートは相変わらずビクッともしない。
 白樺の木の中でも早い木はすでに黄緑色の葉が大分目立つようになって、そのすぐ横の薄桃色の山桜の花と競うように見えている。そろそろ主役が交代する時季に来たのだろう。囲いの中の牧草には昨夜は霜が降りたらしく、その寒さに折角緑色に染まりかけた草原が当惑し、縮こまっているように見える。
 この囲い罠の本来の目的は、やがて上がってくる牛たちが馴化のためにしばらくの間留め置かれる場所で、それを有害動物である鹿の駆除のために罠にも利用されるようになったのだ。そのような経緯からして、牛たちが来れば罠は閉じられ、使用できなくなる。
 下からの要望は、それまでに10頭でも20頭でも鹿を捕ってほしいというのだが、さてどうなるか。

 今朝は5時半から撮影隊が来ると言う。昨夜は昼近くになって雨が降り出し、午後は予定が中止になった。きっと、その遅れを挽回したいのだろう。それでも昨日、2人ばかりの女性が雨をしのぐだけの天蓋のようなテントの下で、暗くなるまで何か必死に作業をしていた。
 この業界は、すぐに辞めてしまう男の人よりか女性の方が我慢強くて長続きするらしく、そう聞けば、確かに多くの女性がかなりの重労働や根気の要る仕事を黙々とこなしている。都会の恵まれた環境でも「パワハラ」などというおかしな日本語を耳にするが、もともと女性は我慢強く、長い歴史の中で男たちはそれを当然のように利用してきたのだろう。山の中にいて報道で知るだけだが、古い世代に属する者には納得することもあれば、違和感を覚えることもある。

 車の音がする。いよいよ来た。みんな充分に眠り、食べたのだろうか。

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     ’22年「春」(50)

2022年05月09日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 いつもこんなに花・山桜の開花が続くものかと、今年は他の年よりかも長いような気がしている。午前6時半の気温5度、きょうは曇り空で寒い。
 昨日は山菜採りが来た時間には起きていたが、しかし今朝は完全に撮影関係者の声がするまで眠っていて、遠慮がちな声で起こされた。これから彼らの準備が済めば撮影地に同行し、新しい現場の状況を確認しなければならない。「お好きなようにどうぞ」、というわけにはやはりいかない。予定通りなら、確かきょうも100人近い人が上がってくるはずだ。

 彼らの準備が済むまで、茶を1杯飲もうとして湯を沸かした。台所から戻ってきてコップにインスタントコーヒーを入れて、近くの別のカップを見たら、すでにコーヒーの粉が入っていた。こういう間違いは、疲労のせいなのか、それとも年齢から来るボケなのか、恐らく両方なのだろうが、加齢からくる肉体の不調と、精神を患うのと、さてどちらがいいかという疑問までが生じた。
 頭は冴えていても病床に臥し、身体の不調に苦しむよりか、下半身をモロ出ししても集落の中を徘徊する方がいいような気がするが、どちらかと決めるのは簡単ではないだろう。「二度童(わらし)」などという言葉もあるが、これは老人のボケを周囲が許容しているように聞こえて悪くない。しかし、「死に下手の患い上手」などというのは、これは残酷だ。
「おじいちゃんは75歳までキャッチボールができた」と、ある撮影に従事する女性の誇らしげな言葉。つい終競争心に駆られ、「そんなこと」と言おうとして止めた。

 些細な用事を頼まれて、森の中へ行った。気のせいかもしれないが、こういう曇り空の方が、晴れているよりか鳥の声がよくした。花・山桜は暗い森の中でも薄桃色の花を見せ、小さな渓を流れる瀬の音もそのあたりから聞こえてきた。指標木にしている北門近くの白樺も、いつの間にか芽吹きの段階が過ぎて新緑が細い枝を飾り始め、幾種類もの緑の色が渓の中にも見えてくるようになった。それでも、タラの芽はまだ少し早いようだった。
 早くこの喧騒が終わり、いつもの春のように、牛を迎える準備に日々を費やしたい。入牧は一応6月9日と決まった。

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     ’22年「春」(49)

2022年05月08日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 昨日、里までとんぼ返りをした。広い開田には水が張られ、田植えの準備を始めた人たちのトラックターがゆっくりと動いていた。そしてその向こうには残雪の中央アルプスが遠くに控え、何とも長閑で懐かしさのある田園風景を見てきた。田植えの方法、その情景は変っても、水田の眺めやそこから伝わってくるものは、長い歴史の中でわれわれ日本人が培ってきた風土というものだからだろう。

 丁度トラックターを運転していたTKJ君に会い久しぶりに言葉を交わすと、腰が痛むと盛んにこぼす。それに対して、疲労感はあるが痛いとか痒いということはないと返すと、手を頭に持って行って「ここがおかしいんじゃねえのか」と返ってきた。確かに、そうかも知れない。

 朝6時、人の声がして、撮影関係者かと思い玄関に出てみれば、地元の山菜取りが昨夜撮影隊が残していった何台もの車に驚き、どこに駐車すればよいかと尋ねてくる。そんな場所はきょうはないと言ってはみたものの気の毒になり、少し離れた場所へ案内する。
 昨日から本格的な撮影が始まった。下ではこの状況を想像すらできないだろうが、ややこしい交渉や判断に迷う決断もしなければならず、牧守の単なる物好きだと思っていたらそれは違う。一度動き出せば、こっちは手漕ぎのボート、あっちは大型船であり、とても手に負えなくなる。それでも、これによる収入はこの牧場を存続させ、結果、周囲の自然を守ることには貢献してくれるだろう。


 これはまだ序の口。

 撮影に関しては、それが映画であれCMであれ、このごろよく話が来るPVであれ、詳しいことはここでは呟かないことにしている。そういうことに興味を持つ人たちを、できるだけ刺激したくないからだ。本来のここの姿は静かな牧場であり、山小屋であり、キャンプ場だからで、そこに関心を持つような人たちにこそ訪れてもらいたい。
 本日は沈黙するはずが、つい時間ができたので。

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     ’22年「春」(48)

2022年05月06日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 薄曇り、午前8時の気温10度。昨日来たハンガリー人のKさんには少し寒かったようだが、それでも静かな夜で、星も眺めることができたと満足気だった。温厚な性格で、牛が上がってきたらまた来たいと言うので、名刺を渡しておいた。
 そういえば、専門は宗教や歴史だと言っていたのに、彼はこの部屋に置いてある望遠鏡がなぜかタカハシ製の100ミリ屈折望遠鏡だと分かる不思議な外国人だった。

 上で暮らして5日目になる。どうやら山の生活にも慣れつつある。風呂も修理してもらいシャワーも使えるようになったし、FMZ君から進呈された55インチ大型テレビも一昨日ここに届けられた。少なくも連休が終わるまでは山を下りないつもりでいたら、オイデエラに置く看板ができたと今電話が入った。さてどうしたものか。


 
 実は、連休中に里へ下らない理由はこのオイデエラにある。毎年、この時季になるとどこからともなくオフロード用のバイクや改造車がやって来て、あのヤエベニシダレや新緑の美しい堰堤で様々な狼藉を働く。それを見たくないのだ。もちろん、そういう人ばかりではないが、好ましくない行為が目立つ。
 一昨年になるか、あそこを汚していた廃屋の残骸を近くの別荘地に住むSさんと一緒になって幾日もかけて片付けた。その際、行政にも連絡したが、有効な手は打たれていない。
 それでとりあえず、旧芝平と現芝平の住人という名で注意書きを記した看板を用意することにした。オイデエラの名前は、外部からの胡乱な輩をあそこで追い返した場所ということで、こういう名前が付いたと聞いている。そういう場所が、また新しい部外者によって荒らされようになったのだ。
 牧場管理人の身でそんなことまですることはない、と言われればその通りだし、またそんな看板がどれほど効果があるかも分からない。オトトイタ君は「マムシ、クマ注意」で充分だと言うが、静かにキャンプする人たちを脅すことにはなっても、オートバイや車を乗り回す者にはどうだろうか。
 あそこのかなりの土地が私有地で、確かにクマもマムシもいることはいる。

 小黒川林道は通行止めになっている。それが大分知られるようになって、ここへ来るオフロードバイクが大分減った。しかし今度はゲート前に車を放置する釣り人が増え、困っている。弁天様下の三叉路から、このゲートまでの道路は公道ではないのだが。

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     ’22年「春」(47)

2022年05月05日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


「ツツーピー、ツツーピー」、「ピー、ピー」、「ホーホケキョ」、今朝も鳥の声が聞こえる。午前8時、気温はすでに18度と、窓を開けていても寒くない。朝日とともに入り込んでくる快い風がレースのカーテンを揺らせ、またきょうも昨日とあまり変わらない牧の一日が始まる。
 きょうは第5牧区、アラスカの森の奥に予定されている撮影地で、山道を刈り払い機を使ってクマササをもう少し丁寧に刈り込み、他にも目に付く車でえぐられた轍を埋めるなどの整備をしたい。

 流ちょうな日本語を話すハンガリー人がキャンプに来ている。某大学の教授だという。多分、この国の人と話をするのは初めてだと思う。日本語は読んだり、書いたりするのは難しいだろうが、話すのはそれほどでもないだろうと言うと、そうだと頷いてさらに「文法も簡単だ」と言ったから、その言い方に反発した。「西洋人はどうしても東洋人を上から目線で見たり、考えたりする傾向がある」と言ってやったら「そんなことはない」と否定した。
 それで、そう言う理由として、あるオーストリア人の話をした。この男は日本人の女性と結婚していて、いつも風邪をひいていたおかしな記憶がある。そして、かつてのハップスブルグの栄光を鼻に掛け日本人を小馬鹿にしようとした。いわく「日本人は物真似が得意だ。トヨタや日産の車もみんな西洋の物真似だ」等々と。それで、「オーストリア人は物真似が嫌いだから、自分の国では自動車を製造しないのか」と皮肉った話をそのハンガリー人にしたら、彼は無理して笑っていた。
 考えてみれば、ハンガリーという国については何も知らない。今は入笠山に登りに行っているから、帰ってきてもしも機会があれば、もう少し話をしてみたい。少なくとも、ここのキャンプ場は大いに気に入ったようだ。

 牧場の仕事を始めて半月が経ち、きょうの午後はようやく牧守らしい仕事をした。小屋の裏の普段はあまり放牧に使ってない第2牧区のカヤを刈ったり、実生から生えた落葉松の幼木を切ったりした。これをしておかないと、牧区はやがてこうした植物に席巻されて、牛を放牧することができなくなってしまう。今のうちなら、チェーンソーに頼らなくても、刈り払い機で大半が片付くから楽だ。
 牛が上がってくるまでにまだ1ヶ月以上あるが、明日から撮影の仕事が入っているため、こういう仕事にまた幾日か手が回らなくなると考えてした。気になっていただけにひとまず安心できた。

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