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石牟礼道子さんが亡くなりました。

2018-02-20 11:45:09 | 日記
 札幌時代、小生の講義を受講していた学生の皆さん、石牟礼道子さんのことを覚えていますか。あの『苦海浄土』の著者石牟礼道子さんです。札幌在住6年余り、課題として毎年取り上げていたのが石牟礼さんの『苦海浄土』についての感想レポートでした。
 
 昨年の2月3日付けブログ「井野論文雑感(4)経済学を超えた『苦海浄土』」で、いかに小生が『苦海浄土』から大きな影響を受けていたかはお話したとおりですが、この一文ではわが師、野間宏先生の『歎異抄』と『親鸞』については触れませんでした。野間先生のこの二冊の作品は、日本の仏教史上、師である法然とともに、これまで公家や武士などの知識階級の教義であった仏教を大衆化、虐げられた者たちに寄り添う教えを説いた浄土真宗の開祖親鸞の思想と人となりを描いたものでした。そしてこの二冊は、小生がその後仏教について自分なりに本格的に勉強する切っ掛けとなった本でもありました。そんな最中、70年代初頭に出会ったのが『苦海浄土』であったのです。と言って、この作品は、法然や親鸞について語っているわけではありませんでしたが、水銀中毒で苦しむ水俣の常民たちの生き方を通じて、まさに浄土世界を映し出していたのです。しかも現地水俣言葉で詩情豊かに綴った『苦海浄土』は、人間存在の基底を問い掛ける野間先生が描く被差別問題についての一連の作品と相応するものででした。

 札幌時代、小生は,在学中に読んで欲しいと思う本100余冊のリストをガイダンスの際に配布していました。そのうち特別にレポート提出の課題として取り上げていたのが『苦海浄土』だったのです。提出されたレポートは、この傑出した作品に応えるかのように、他の課題レポート以上に、それぞれが素晴らしい出来で、改めて若い感性に教えられることも多々ありました。きっとレポートを提出した皆さんの中には思い出されている人もいることでしょう。このことを作者石牟礼さんにお伝えしたい、そんな思いもあって小生は、学会の出張を兼ねて、水俣まで出かけることにしたのです。あいにくちょっとした行き違いで,石牟礼さんは熊本に出かけており水俣でお会いすることは出来ませんでした。そしてその後も石牟礼さんにはお会いすることもなく月日は流れて行きました。

 その石牟礼さんがこの2月10日、お亡くなりになりました。享年90歳でした。当時小生は、川端康成以上に、願望を込めて石牟礼さんにこそノーベル文学賞は相応しいと思っていましたが、その思いは,今日的状況下ー西部邁さんの自死的状況ーで改めて一層強くしています。端的に言えば、現代日本文学史上にあって、石牟礼さんはこれまでの作家とはまったく違った、親鸞に比すべきとも言って良いような特別の作家であったような気がしているからです。  諸行無常 合掌

 

 

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