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『苦界の美学』続き

2021-09-08 10:53:49 | 日記
 以下は、信濃毎日新聞9月4日付けに写真入りで掲載された『苦界の美学』についての紹介記事です。

  「松本市に「康花美術館」がある画家の主な作品を、文芸や映画などとの関連も探りながら紹介した鑑賞の手引き。「一見暗くて気難しそ        
  うな作品」(著者)の数々にはどんな思索が込められていたのか、それらが発する声ならぬ言葉と対話するかのような筆運びで綴る。
   須藤康花は福島県出身。多摩美術大に在学中から版画の公募展などで注目されるが、同大学院を修了する頃にがんを発症。12年前、30歳                    
  で他界した。本書の装画や口絵を見れば確かに重苦しい画風ながら、異星の大地や夜空も思わせる銅版画は幻想的で、さまざまな鑑賞を見
  る者に促す。この画家が影響を受けたらしい野間宏の小説や彫刻家カミーユ・クローデルの伝記映画などに触れつつ豊かな解釈を試みる。
   著者は画家の弟だが、実は41年前に他界している。本書は、彼が姉の表現世界を巡るという想定で父が執筆した。」
                                                      (而立書房・1980円)

 上述のような本書の読み方もあれば、知人の以下のような捉え方もあるのでご参考まで紹介しておきます。

  「夭折の画家康花の晩年の画を読み解くという形態で、先生の文学、思想、哲学などなど全てを黙示しておられる、それが私の全身
  の中に摩擦音をだしながら食い込んでくる、という感じで読み終わりました。古今東西の文学・哲学・思想の古典が随所に引用されてお
  り、しかもご自身の思想、哲学になっておられるので、康花さんの銅版画を読み解くときにごく自然に引用されて説得力があり本当に
  感動しています。」(松村高夫・慶応大学名誉教授)
  

『苦海の美学』を出版

2021-09-07 11:12:41 | 日記
 丸1年振りのブログ入力です。事情は複雑ですが、最大の要因は、親しくしていた長年来の友人たちが相次いで他界したことと、タイトルに掲げた『苦海の美学』と題した本の執筆と出版に追われていたことによります。小生の齢かさからすれば、同じ年頃の友人たちの死去も不思議ではないのでしょうけれど、コロナ下で小生自身が体調不良の中、相次ぐ友人の死亡通知には、さすが精神的にも肉体的にも落ち込まざるを得ませんでした。その哀惜の念は今もなお覚めてはいませんが、多少なりとも癒してくれたのが『苦海の美学』の執筆に追われたことでもありました。

 その『苦海の美学』、1年半前、このブログでその執筆動機について簡単にお話しした通りですが、出版した後、その紹介として一文をしたためたので、以下に転載することにします。
 「齢八十歳、若き作家の感性と想像力に遠く及びもつかないことを承知しつつも、同じ若き時代に読んだツルゲーネフの『父と子』、今なお脳裏から離れがたく、敢えて康花の弟で故人となった岳陽に転生再登場願い、彼、青年の眼を借りて、小説の登場人物たちを頭の片隅に、彼女の作品群の中でも最も難解な銅版画の買い目に改めて挑戦した次第です。それは、残された僅かばかりの時間を奪っている最中、彼女は何故、あのドストエフスキーの長編『カラマーゾフの兄弟』に再び挑戦していたのか、その謎を読み解くことでもありました。」

 上述したように、執筆者は小生ではなく、亡くなった康花の弟、岳陽となっています。本書をお読みいただけばお分かりいただけると思いますが、彼女にとって、父親は必ずしも信頼のおけるものではなかったのです。そこで、彼女の日誌に書かれていた「弟が生きておれば」という言葉に共鳴して、小生が理解できず気の付かなった作品の奥行を、彼女と同世代の弟、岳陽を復活させ彼の眼によって、謎を秘めた彼女の作品の奈辺に踏み入ろうとしたというわけです。とは言え、執筆しているのは小生に変わりありません。若い世代の読者からすれば、数多くの哲学や古典文学などからの引用は、ちんぷんかんぷんかもしれません。例えば、上述で取り上げた、ツルゲーネフはもとより、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」、長い教師生活の中で、小生が知る限り、読んだことのある学生は皆無であった、といっても過言ではありませんでした。単位不足で、ドストエフスキーの『罪と罰』を課題図書として読んでもらったことはありましたが、いずれにいしても、実務書はともかく、小生が教壇に立っていた時以上に、活字離れが一層進行している今日、難解な思想や哲学に類する本書が時代の仲間入りすることはこれまた極めて困難な現実だといっていいでしょう。それはこの本のサブタイトルである「夭折の画家・須藤康花の世界を読み解く」とあるように、康花の作品が同質であることを意味しています。
 しかし、このブログを読んでくださる知的好奇心のある方には、是非ともこの小著に挑戦してほしいと願っています。小生が若き時代に、先人たちの教養文学書を通じて、あの日本を代表する長編小説、野間宏『青年の輪』,大西巨人『神聖喜劇』に挑戦したように、本書を切っ掛けに、読書への新たな旅に向かっていただけたらと願っています。それは、少子高齢化、低成長、異常気象、そしてコロナの時代が何を意味しているかを見極める旅にも繋がることでしょう。(出版社は東京の「而立書房」TEL:03-3291-5589、書店、ネットでも取り寄せることができます。)