十日ほど前の夕方、休日でした。
隣室でつけっぱなしだったテレビの大相撲中継に、耳が反応しました。
「ホウショウリュウ~、モンゴルゥ、ウランバートル~出身」
え、どれどれ?
とテレビの前に向かったのは、ついその前日、
モンゴルのウランバートルから帰国したばかりだったから。
ついつい、そのまま座り込んで見てしまいました。
すると、最後の取り組みでは、
「横綱ぁ、テルノフジ~、モンゴルゥ、ウランバートル~出身」
あら、照ノ富士もウランバートル。
モンゴルの力士って、みんな、ウランバートル出身なのかしら・・
と危うく決めつけるところでしたが、実際にはちょっと違いました。
(ウランバートル出身者が多数派ではありましたが。
朝青龍や白鳳もそうです)
さて、そのウランバートルです。
けっこうな、大都会でした。
なんといっても、モンゴルの総人口346万人あまりのところ、
首都ウランバートルの人口は、169万人(『地球の歩き方』より)というのですから、
東京もびっくりの、一極集中です。
しかも、それほどの規模の街なのに、中国からロシアまでを結ぶ長距離の国際鉄道を除けば、
市内を鉄道が走っていない。
移動はみんな、車。
おかげでウランバートルの街は、常に大渋滞。
ガイドさん曰く、子供の学校への送り迎えに、毎日片道1~2時間かかっていたそうです。
たいへん・・・
でも、少し郊外に出れば、この風景なのです。
人口の半分近くを吸収する大都市ウランバートルと、それ以外。
車で走っていると、時折ちらほら町らしきものは見えてきますが、そのほかはずっと大草原。
あとは、こんな巨大なモニュメント。
ご存じ、モンゴル帝国の礎を築いたチンギス・ハーン像です。
観光客が必ず訪れる場所なのに、周囲はというと、やっぱりこんな具合。
人口169万人の過密都市ウランバートルと、それ以外の大草原。
『地球の歩き方』を通読しても、地方の紹介ページにいくと、
数百メートル四方におさまるような小さな町ばかりで、
いわゆる中堅都市が見当たりません。
この極端なギャップって何なんだろう、、というのが、旅行中ずっと感じていたことでした。
もやもやした疑問を解くきっかけになったのは、ガイドさんのこんな言葉です。
「日本にも明治維新って、あったでしょ。
モンゴルはいま、『モンゴル維新』の真っただ中なんです」
モンゴル維新・・!
ガイドさんが仰るには、ソ連の消滅とともに民主化されたモンゴルでは、市場経済を導入。
外国からの輸入で、街にはモノがあふれるようになり、定住生活を営む人が増えたのだとか。
たしかに、ウランバートルのスーパーマーケットには、
日本と変わらないような品揃えで、棚がぎっしり埋まっていました。
「蜂蜜とチョコレートと、岩塩とチーズ、これ以外はぜーんぶ輸入品」とのことでしたが。
また、こうも仰っていました。
「モンゴル人で、今も遊牧をして暮らしているのは、たぶん15~16%ぐらいです」
えっ、たったそれだけ?
それ以外は?
「みんな、ウランバートルに来る。遊牧の暮らしはキツイですから。
とくに、若い人で遊牧をする人はどんどん減っています」
なるほど。
つまり、こういうことでしょうか。
1、もともとは遊牧民族なので、拠点となるような大きな町がなかった
2、『モンゴル維新』で暮らしが激変し、便利な街=ウランバートルに、人もモノも集まるようになった
その結果としてのウランバートル一極集中なのかぁ…と、ひとり合点しました。
ホテル最上階から眺めたウランバートルの街並み。
よくみると、ビルが立ち並ぶ一方で、ゲルが身を寄せ合っている空間もあります。
いまだ、どんどん人が流れ込み、膨らみつつある街のようです。
それにしても、明治維新ならぬ「モンゴル維新」。
遊牧生活から定住生活なんて、人類史の大きな節目になるような出来事を、
いま、モンゴルの人々は現在進行中で体験しているんですね。
しかも、明治時代の150倍ぐらい早送りになっていそうな、忙しすぎる時の流れのなかで。
最終日、空港へ向かう途中で、ガイドさんに尋ねてみました。
「モンゴルの人は、オリンピックでは何が強いんですか?」
答えは、「レスリングや射撃、ボクシングです。」
「やっぱり騎馬民族ですから」と、笑っておられました。
さて、モンゴルから帰国して数日経った日曜日。
夕方、テレビの前に陣取りました。
「横綱ぁ、テルノフジ~、モンゴルゥ、ウランバートル~出身」
呼び出しの声に、つい想像していました。
ウランバートルのマンション暮らしで、スーパーでお菓子を買い食いして、
車で学校まで送り迎えしてもらっていたかもしれない、モンゴル人の少年を。
同時に、モンゴルでの時間を思い出しました。
ゲルの前で、少年たちが、モンゴル相撲の組み技をして遊んでいたところや、
毎日毎食たっぷり出てきた、牛や馬や羊の野趣あふれるどっさりお肉料理を。
そうこうするうちの、優勝決定戦。
生活のスタイルは変わっても、
身体に代々受け継がれてきたものまでは、そう簡単には変わらないのかも。
そう思わせてくれた、
モンゴル・ウランバートル出身の横綱、照ノ富士、見事な10回目の優勝でした。
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