調査員の「目」

 日常の何気ない雑感とつれづれ日記。

『兵法に学ぶ 勝つために為すべきこと-』

2005-02-13 | 書評系
 松村氏の客観的な分析に基づく著書の紹介をしたので、次は自ら陸軍士官学校に学びアサヒビールを復活させた立役者の方で「指揮」のみならず「統御」についても述べられている本を紹介したい。

■「勝つために為すべきこと-兵法に学ぶ アサヒビール起死回生の経営戦略と人生哲学」
(経済界/2002年9月初版/1,500円)
著者:中條高徳氏
昭和2年(1927年)、長野県生まれ。陸軍士官学校、旧制松本高校(現、信州大学)を経て27年(1952年)学習院大学卒業(2年で)。同年アサヒビール入社。50年(1975年)取締役。常務、専務を経て63年(1988年)副社長に就任。平成8年(1996年)アサヒビール特別顧問。10年(1998年)名誉顧問。

 【構成】
序章 いま、なぜ兵法か
〔第1部〕アサヒビール、その凋落と復活
  1章 「生ビール」への「気づき」
  2章 紆余曲折の軌跡
  3章 苦渋の前奏、そして雄飛
〔第2部〕兵法はいかに活かされたか
  4章 戦略・戦術論
   1 小が大に勝つ戦略
   2 一点集中の理
   3 逐次投入の戒め
   4 積水を千仞【せんじん】の谿【たに】に決する
   5 たえず主導の地位を確保せよ
   6 高きに登りて梯を去る
  5章 リーダーシップ論・組織論
   1 方向を指示し、兵站す
   2 将は智・信・仁・勇・厳なり
   3 統率は統御と指揮に分けて考えよ
   4 勝つための指揮、上意下達
   5 逆境と順境における指揮官の心得
   6 命令の伝達を徹底させよ
   7 大局を判断し、自らの責任において独断せよ
(以上、223ページ)

 この本は、三年前に相変わらず本屋をウロウロしていたときに何故か目に留まり、立ち読みしたら面白くて購入した本である。面白い部分は、中條氏のアサヒビールでの軌跡の第1部。第2部は兵法の応用論を解説されていて「面白い」ではなく「ためになる」。
 特に第2部 5章の「3 統率は統御と指揮に分けて考えよ」で氏が述べている「経営者から中間管理職まで含めリーダーシップについてある種の誤解をしているのではないか」との指摘は的を得ているのではないだろうか。すなわち「オレは部下より偉いんだからオレの命令に部下は当然従うものだ(職位による命令とリーダーの指揮との混同)と思っている」人の多さを挙げられている。
 おそらく官庁にしろ、民間企業にしろ世の中の課長、部長、取締役、社長などの人で、「肩書き」で部下を従えている人(逆に言うと、肩書きがなかったら「誰もついてこない」人)は結構いるのではないか。そういう管理職の方には「指揮」ではなく「統御」の部分について是非読んでいただきたい。最近は、「コーチング」などのテクニカルな指導方法論が流行っているが、上司や先輩などの上役の人がどんなに懇切丁寧に一緒に考えたとしても、本当に「この人、私のことを真剣に成長させようと考えているんだな」と感じられないと納得してその人に従おうとしないのではないか。たまに物分りの良い上司面をする人がいるが、本音は単に人事評価を気にしているだけに過ぎないということはないだろうか。私は、上司のそういった”打算的な”心理状況がすぐにわかってしまうので、”打算的”上司からは扱いづらい部下だったに違いない(笑)。
 結局、コーチングの技法も「本当に相手を成長させようと思う心」があるかどうかで有用性が変わってくると思われる。私は、世の中”因果応報(自分のやったことしか返って来ない)”だと思っているので相手が成長できればその分「自分も成長できる」と思えるので格別違和感はないのだが、「いつか自分に返ってくる」と思えば本心から人のことを考える事も少しはできると思う。世の中、そういう人に上司になって欲しいものだ。
 さて、アサヒビールと言えば樋口廣太郎【ひろたろう】氏が有名だが、樋口氏が住友銀行(現、三井住友銀行)から迎え入れられる以前の昔から中條氏はアサヒビール復活作戦を1年がかりで立案し(支店長会議で発表)、実行・陣頭指揮を執ってきた。そして、副社長になり「次の社長は君だ」と言われながら社長になれなかった時のご本人のお気持ちはいかばかりであったろうか。本の中でも「青天霹靂だった」と書かれていて、単純だが「無念だったろうな・・・」と思ってしまった。そんなことも書かれている本なので参考になる本である。
 なお、この本を読んで中條氏に興味を持ち「孫娘からの質問状 おじいちゃん戦争のことを教えて(小学館文庫 2002年9月 600円)」も買って読んでしまった。
 アメリカに留学した孫娘の質問に自身の体験を踏まえて丁寧に教え諭す様に書かれた本で、すぐに読める文庫本なので興味があったら参考にされたい。


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