サナエさんのお見舞い

月曜日にサナエさんを見舞った

数日前に電話を貰い

昔の歌謡曲を聴きたいと言うので

ちあきなおみや小川知子などをＣＤに焼いた

入院も一ヶ月近くなると

退屈な時間を持て余すようになる

私も高校３年の時に入院経験があるので良く分かる

一日中何もする事なく

ラジオをずっと聴いていた

あとは寝ているだけである

病室に同年代の患者が居れば

話し相手にもなったのだろうが

個室だったのでそれもない


サナエさんは都心の病院の１３階の窓際のベッドだ

前回見舞った時と部屋が変わっていた

「待ってたわよ～」

思っていた以上に元気そうだった

病状も回復に向かっており

１１月中旬には退院できるとか…


窓際なので高層ビルの夜景が見える

サナエさんは毎晩この夜景を眺めながら

何を思っているのだろう

病気になると不安な事だらけのはずだ

年下の私を気遣って

元気そうに見せているが

きっと眠れない夜が続いているだろう


「同室のオジサンの歯軋りやイビキがうるさくて

　眠れないのよ

　仕方ないから音楽をイヤフォンで聴いているわよ」

ベッドの脇に小さなラジカセが置いてあった

「ところでお店の方はどう？」

自分の事よりも私の方を心配してくれるのである

私もついつい愚痴が出てしまい

お見舞いに行ったのか

何しに行ったのか分らなくなっていた


かれこれ１時間はお喋りしていただろうか

カーテンの向こうでサナエさんを呼ぶ声

前回も彼女を見舞っていた女性である

「あっじゃあ私はこれで帰るね」

私は女性にバトンタッチして病室を後にした


丸の内線に揺られながら

色んな事を考えた

私も決して丈夫な方ではない

日頃の不摂生がいずれ何かの形で出てくるかもしれない

ある日突然倒れたらどうなるのだろう

混雑した車内は帰宅の若いサラリーマンが目立つ

私に彼らの様な若さはないけれど

元気で働ける事の有り難味を実感したのだった