「とう!」
「なんかきた!」
「ようこそ!わたしはヒーローだよ」
「向こうから来たのにようこそいうた!」
「困ってるようだね」
「そうでもないです」
「いや、その顔、いわされてる、困っているのだろう?」
「本当にそうでもないです」
「遠慮なんかいらない、さあ、上着を取りなさい」
「いや、本当に困ってませんし、上着は取りません」
「遠慮は子どもの仕事じゃないぞ、上着を取りなさい」
「今年の6月で45歳を数えますが、上着は取りません」
「とにかく上着を取りなさい」
「なんでですか?」
「わたしは上着のない君が好きなのだよ」
「じゃあますます取りません」
「まあいい、さあ、思う存分困っていることを言いなさい、わたしがかいけつしてあげよう」
「ええと、じゃあ、仕事がありません」
「ほら、あるじゃないか、そんなことを隠して。よかろう、では仕事を見つけてあげよう」
「本当ですか、それはなんというラッキーパンチ」
「ではちょっと時間をくれ、探してくるから、とう!」
「ああ、ヒーローがほんの少しジャンプして、普通に走って行く!と思ったら引き返してくる!」
「見つけたよ」
「もうですか、すごいですねえ」
「何個か見つけてきたから選びなさい」
「選べるなんてヒデツグ夢みたいです」
「まずはこれだ、ヒーローに困っている人がいると知らせてくれる仕事」
「なんか面白そうですが、ぼくにもできますかね?」
「なあに、誰でもできる仕事さ、主に電話で話すだけだ」
「漠然としてるけど簡単そうだ」
「さあ、これに決めるかい?」
「お願いします」
「ではまず100万円、この口座に振り込んでくれたまえ」
「どういうことですか?」
「ヒーロー側加入手数料として」
「手数料がいるのですか?」
「慈善事業やないねんにいちゃん、つべこべ言わんと振り込まんかい!ほんで上着取らんかい」
「イヤですよ、仕事ないのに、上着も取りません」
「払わないなら敵側と見なす」
「見なされるとどうなるのですか?」
「うまい棒明太子味の値段が3割増」
「それだけですか?」
「うまい棒コーンポタージュ味の値段が3割増」
「それだけですか?」
「うまい棒」
「いや、いいです、うまい棒が3割増なのはもうわかりました、それだけですか?」
「それだけです」
「じゃあ、払いませんよ、うまい棒ぼく食べませんから」
「本当にいいのかい?」
「近づかないでください、死臭がします、いいです」
「じゃあこれを食べて見なさい」
「なんですか」
「うまい棒たこ焼き味」
「食べるんですかこれを?」
「いいから」
「わかりましたよ、ぱくぱくぱく、うまーーーい!!」
「五反田の事務所で待ってるよヒデツグ君、上着を取っておいで」