夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

犬は言葉を覚えるのに、人間は言葉を知らない

2008年11月24日 | Weblog
 一日中犬と一緒に居ると、人間は犬語を覚えないが、犬は人間の言葉を覚えてしまう。我が家の愛犬は現在2歳8カ月になるオスのポメラニアンだが、幾つかの言葉を覚えている。特に気になるのが、「ふろ」である。なぜなら、風呂場でドアをバタバタさせて遊ぶのが大好きだからである。
 風呂の湯が一杯になった事を知らせるピピピッと言う音が台所ですると、すぐに私の所に飛んで来る。じっと私の顔を見詰め、「風呂沸いたけど」と言っている。口には出さないが、絶対にそう言っている。私が立ち上がりでもすれば、それこそ一目散に風呂場に駆けて行く。うっかりと「ふろ」などと口にしようものなら、これまた風呂場に飛んで行く。だから夫婦の間では、絶対に「ふろ」とは言わず、「ニューヨーク」とか「合衆国」とかを、それこそ小さな声で囁き合う事に決めている。これが「ふろ」だとは絶対に気付かれてはならないのである。
 ある日、息子が夜遅く帰って来て、「今日、風呂いいや。あしたの朝入るよ」と私に言った。その途端、ポンタ、あ、これ犬の名前です、が風呂場に。さすがに息子も驚いた。東京では、「ふ」の発音は非常に弱い。東京では、と言うのは、地方によっては強く「fu」と発音したりするからだ。東京では「f」になるから、「ふろ」だって「fro」である。それなのに、ポンタは耳ざとく聞き分けてしまう。
 この「ふ」を始めとして「く」なども東京では弱い発音になる。そうそう、「き」なども弱い。「おくさん」「えきしょう」などの「く」「き」が弱いのだ。ところが、特に関西のそれも女性に多く見られるのだが、「く」や「き」を強く発音する。強く発音するから、当然、その音自体も長くなる。だからとても気になる。
 「く」が弱いのは「u」がほとんど消えて「k」だけになるからだが、「き」が弱いのは「ki」と発音しているのだが、その音が短いからである。

 犬の話に戻るが、「さんぽ」も我が家では禁句である。だから「くびわ」とか「りーど」などと言い換えているが、それもいつまで持つか。その内、それが「さんぽ」と結び付いている事に気付いてしまうだろう。ただ、言葉だけが頼りではないらしい。散歩に連れて行くつもりで、「ちょっと外へ」と言っても、ポンタは首輪とリードのしまってある前に行って扉をガリガリと引っ掻き始める。こちらの気持を読み取ってしまうらしい。「ちょっと外へ」なら私の事を言っている場合もあるのだから。
 頼りに出来るのが人間だけだから、必死になって言葉や態度や気持を読み取ろうとしているのだろう。それなのに、人間はそうした努力をしようともしない。すべて自分でどうにかなると思っているからだ。だが、自分の力ではどうにもならない事が多過ぎる。それなのに分かろうとはしない。
 意思を伝え合う最大の武器である言葉にも一向に神経を遣わない。一国の総理がそうなのだから、もう万事休す。総理を取っ替えれば済むか、と言うと、必ずしもそうとは言えない所が情けないではないか。
 話してなんぼ、書いてなんぼ、と言う立場の人でさえ、時々言葉を間違える。間違えて覚えているのだ。書いている場合は、校閲が入る可能性があるからまだ救われるが、話している時は、ぶっつけ本番が多いから、どうにもならない。その人の資質が丸出しになる。だから普段から言葉を磨いているかと思えば、そうとも思えない場面に私はしょっちゅう出くわしている。

 そうそう、先日、テレビで電話取材された人が、司会者が「有難うございました」と挨拶したのに対して、非常に珍しく、「どういたしまして」と答えているのに出会った。ここ数年では始めての体験だった。昔は知らないが、今では100人が100人、「有難うございました」と言うと「有難うございました」と答える。これを「おうむ返し」と言う。
 小学校では「ありがとうカード」と「どういたしましてカード」と言うのを使って、挨拶の勉強をしている。これは人としての会話の基本である。
 中学校の英語では「サンキュー」に対して「ユウアーウエルカム」と答えると習った。「サンキュー」に対して「サンキュー」と答えるような教科書には出会わなかった。
 テレビ側が「ありがとう」と言うのは、取材をさせてもらってのお礼である。そして取材された側が「ありがとう」と言うのは、取材してくれた事へのお礼である。そうとでも考えなければ、この応答は成り立たない。
 取材をしてくれて有難う、などと思うような人の話など私は聞きたくもない。それほど取材源に飢えている訳じゃない。どうぞ、何でもお聞き下さい、私は精一杯お答えいたしましょう、と言うような人の話をこそ聞きたいのだ。そうした人が「有難うございました」と返事をするはずが無い。きちんと「どういたしまして」とか「お役に立ちませんで」とか答えるに決まっている。
 テレビは取材をする相手を間違っている。この私の考えは間違っていないはずである。

1 コメント

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Unknown (流蛍)
2008-11-25 20:20:19
犬が人間の言葉を読み取るのは、本当ですね。
うちでも以前飼っていた犬が、夫婦の会話のなかで「散歩」と一言言おうものなら、ただちに反応して、外へ行こうと騒ぎだしました。
なつかしく思い出しました。
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