夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

東京地下鉄の上場と公共機関の民営化問題

2008年11月29日 | Weblog
 郵政民営化の必須の条件である上場が株価の低迷で総理が待ったを掛けているらしい。その関連で、東京地下鉄株式会社の上場の問題が東京新聞で取り上げられた。現在の株主は国と東京都である。
 都は以前から、地下鉄は一本化すべきとの考えを持っている。営団地下鉄が民営化する時に、国鉄が持っていた株を東京都が譲り受けたいと言った。そうすれば、営団地下鉄と都営地下鉄が一つになる。それが都民にとって一番良い結果になるのは目に見えている。しかし、その願いは叶わなかった。
 ここにまことにおかしな市場原理が働いている。それは利益優先の原理である。石原都知事は06年にこう言っている。
 「どうも金持ちの営団の方が、貧乏人とは結婚したくない、持参金があるならともかく、嫌だというのが実情で、これをどう説得していくか、真剣に考えなきゃいけないと思う」
 低コストで運行する営団地下鉄と高コストの都営地下鉄が統合する事で、経営の安定度が増し、都民にとってもプラスだ、との指摘も以前にされている。我々だって、乗り継ぎで割高になる現行の制度は馬鹿馬鹿しいし、第一、非常に分かりにくい。

 東京新聞はこの記事で、専門家の意見を聞いている。旧運輸省出身で、「都市交通政策論」などの著書がある交通評論家の角本良平と言う人である。以下は、その御意見である。
 「普通の会社は合併で技術を補うとか経費を減らすメリットがあるが、歴史が異なる地下鉄を統合しても利益にならないだろう」
 「都営地下鉄の欠損をどうするのか答が出ていない。統合の利益が何なのかが明確にならない限り、メトロ(東京地下鉄)側が迷惑を被る事になる」
 記事は「民間企業の論理を強調した」と書いているが、まことにその通り。私は馬鹿な取材をしているなあ、としか思えない。この記事の流れには、地下鉄を利益を生む企業としか見ていない事がありありと現れている。

 「統合の利益が何なのか明確にならない限り」だって? 馬鹿言うなよ。そりゃあ、金儲けだけしか考えていなきゃ、「利益が何かは明確にはならない」だろうよ。しかし、公共交通機関は利益を目的にしてはいけないのだ。
 言うまでもなく、「公共」とはそうしたものである。そうではない「公共」があまりにも多くのさばっているから、錯覚をしているだけに過ぎない。「公共」とは人々のためになる事である。交通機関の役割は、速くて安全で便利で安い事に尽きるではないか。たとえ、私鉄だってそうである。私鉄は本来はそうした目的で開設されたはずである。金儲けがしたいなら、もっと別の事でやるべきである。
 こんな金儲けしか頭に無いような人が交通評論家だと言う事に、私は憤りを覚える。そしてそんな人間に意見を聞いている東京新聞にも腹が立つ。

 東京新聞はこうして時々大きくぶれる。11月23日、読者の投稿欄に11月8日の社説への疑問が寄せられている。トヨタ自動車について「苦境はねかえす底力を」とエールを送った事にショックを感じたと言う。同紙はトヨタの生産構造が弱い者いじめである事を暴いている。そうした連載をした。
 私は東京新聞を購読し始めて間もなくの連載記事だったので、正直言って驚いた。こんなにはっきりと書いて良いものかと。そしてそこにマスコミとしての同紙の心根を見た思いがした。それがこの東京地下鉄の記事であっけなく崩れた。がっかりし、情けなく思っているのは私だけではなかったのだ。

 都営地下鉄が利益率が悪いのは理由がある。良い所を東京地下鉄に取られているからだ。それが、前出の交通評論家の意見「歴史が異なる地下鉄を統合しても」になる。何しろ、日本初の地下鉄は現在の東京地下鉄の銀座線だったのだ。そして東京で二番目の地下鉄も東京地下鉄が建設している。採算の合う路線を持っている事は私鉄の経営者がはっきりと言っている。明言こそしていないが、はっきりと態度で示している。
 都営地下鉄の三田線が建設される時、東京の北西部では東武東上線と西武池袋線の両線と相互乗り入れをする計画だった。だから、三田線は両者と同じ狭軌で建設されたのである。都営の第一号線は京成電鉄と京浜急行との乗り入れで広軌で建設された。この二つの私鉄では同じ広軌と言っても、軌道の幅に差異があった。そこで、京成電鉄は京浜急行の世界的に標準軌とされている軌道幅に突貫工事で直したのである。
 広軌とか狭軌とかの問題はそれほどまでに重要な事なのだ。
 三番目に開通した新宿線は京王線との乗り入れでやはり広軌になった(正確には変則広軌である)。
 狭軌よりも広軌の方が安定性が高いのは誰だって知っている。新幹線が広軌であるのが、何よりの証拠だ。
 それを敢えて狭軌で建設した。それなのに、東武と西武は営団有楽町線の建設を知って、約束を破棄して同線に乗り換えたのである。三田線よりも有楽町線の方が乗客が多いと見たのである。
 そんな程度のやからが公共の交通機関の経営者なのである。情けなくて涙も出ない。東京地下鉄がこうした私鉄と同じ路線を歩んでいるのは間違いない。
 本当に、郵便局や電話局や国鉄などの民営化は正しかったのだろうか。もう既にその弊害ははっきりと姿を現していると私は思うのだが。