金属中毒

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81 お昼寝の時間

2007-01-03 16:37:04 | 鋼の錬金術師
81 お昼寝の時間

二の句が告げないという表現は聞いたことがあったが、言ったのはリンかランファンだったか?それならこういうのはどういうのだろう。
エドはラッセルをまじまじと見た。こうしてまじめに見ることはなかったが、なるほどロイの言うとおり女ならほっとけないタイプなのだろう。淡く上気したほほ。さらさらの銀の髪。月を映しこんだような瞳。
『あの瞳は彼の最大の武器になる。10代だけを任すつもりだったが40代50代にも威力を発揮している』
『母性本能というやつだよ。恋愛よりも効果がある。しかも一方的に貢ぐのが楽しいんだ。私も昔はよく使った手だ』

「エド」
以前のからかうような口調でもこの1年のやさしく包むような口調でもない。ほんのりと甘い。エドのお気に入りのレアチーズケーキのような声。
その呼び方。声は違うのに目を閉じるとロイに見えてくる。
何かまずい。
本能的な危険をエドは感じる。
それはわかるのだがどうするべきかわからない。
そういえば昔もこんなことがあった。どこの宿だったか大柄な男にこの種類の声で呼ばれた。鳥肌が立った。今回は不快感がない。確かあの時は、硬直した自分の代わりにいつもはトラブルを避けようとする弟がその男を窓からつまみ出した。あそこは2階だったのだが。
今回は・・・。
「おい、フレッチャーどうしたんだ」
もう一人の弟に助けてもらおう。
「遊びに出した」
万事休すかもしれない。
何か安全な話題はないのかー?
掻いてもいない汗をエドはぬぐった。
「エド」
またほんのりした声で呼ばれた。
返答がのどに絡む。
「お前に聞きたいことがあったんだ」
「・・・何だ」
この雰囲気で予測していることを訊かれたらどう答えればいいのだろう。
嫌いではない。出会った最初から気になっていた。その後もどこかで彼の名を聞かないかと思ったこともあった。好きかときかれればイエスだろう。しかし。
「お前、どう思っているんだ」
「脈絡のない訊きかただな」
「そうかな、うん、そうかもしれない」
「ラッセル、お前」
どうも様子がおかしい。こんな話し方をするやつじゃない。
「なぁ、弟を元に戻した後、お前どうするんだ」
「へっ?」
予測とは270度異なった質問だった。

(戻した後?)
「そんなもの無い」
「楽しみにしてることは無いのか?お前のやりたいことは」
「無い」
「エド」
ラッセルが下から見上げてくる。こんな角度で見られるのは初めてだ。瞬きひとつ無く見上げてくる。エドワードの脳のひだを1本ずつ検索するように。
「興味はあったけどあきらめたことは、ほったらかしていることは?」
「・・・シンには興味あったけどな。でも」
そう、どうやったらあのリンのようなずうずうしくて不真面目で胃袋が底なしで、生命力はあるのに生活力の無い皇子様が出来上がるのか、シンに行ってあいつの国を見てみたい。いつかアルを元に戻したら。そうだ。確かにそう思った。
だが、それだけだ。どちらにしてももう同じことだ。もう自分には時間が無い。
「シン?シン国か」
エドが知るはずは無い。アルが兄のためにその国に行って行方不明になったことを。
「前にシン人にたかられた。あんなたかり上手なやつを生み出す国がどんな国か見たかった」
「行けるさ」
「もう、」
時間が無いと言いかけてエドは言葉を止めた。どうやっているか教えてくれないが、今の自分を支えてくれているのは彼ら兄弟だ。その彼らの前であきらめの言葉を言ってはいけない。それだけは。
「行ける。約束しろ。必ずアルが戻ったら行くと」
約束。できるならしたい。
「約束しろ」
体勢を変えられた。さっきまで見上げられていたのに、今度は見下ろされている。
「わ、わかった。する。約束する」
だからそんな泣きそうな目で見るな。
「エード。約束のキスは」

フレッチャーお前の兄貴を殴っていいか。

エドが右手を握り締めた。

1時間後。
「あらまぁ、そんな風にしていると双子の赤ちゃんみたいね」
洗濯物を抱えたメイドが微笑む。
「どこが赤ん坊だよ。このでかいやつの」
あれからラッセルは何かつぶやいたかと思うと握り締めたエドの右腕を枕にお昼寝状態になった。
「女の目から見たらかわいいものよ。そうそう、もうすぐウィンリィちゃんが来るわよ。さっき電話があったわ」
「へぇ、 (それならピナコばっちゃんのことも聞けるな)」
エドはころりと忘れていた。ラッセルとウィンリィが最初に出会ったとき何があったか。
ラッセルが幸福な昼寝からウィンリィのスパナ攻撃でたたき出されるまで後30分。

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