天女の羽衣
紅の本丸は美しい。空はいつも淡い紅に染まり、花は時を忘れ咲き、水はどこまでも澄み切っている。政府役員はここに来るのを楽しみにしている。
この本丸は他の本丸とはまるで異なっている。うす紅の空にそびえるのは大理石の柱、この本丸はギリシア神殿風である。
庭園のオリーブの木には握りこぶしほどもある実がたわわに実り、その隣接区画にはオレンジ・レモンなどかんきつ類が実る。いずれも高さは1メートルの位置に実っている。短刀が簡単に収穫できる高さである。
色とりどりのバラの小道を歩き本丸の入り口に近づく。ここの花はいつ来ても美しく咲いている。ただの一度も枯れた花びら一枚すら見たことがない。花々は散ると地に落ちる寸前に消える。文字通り消える。花だけでなく葉も同様である。だからここの短刀達は庭掃除を知らない。必要が無いのだ。
本丸の中庭に池がある。この辺りは本丸の定型部分でどこの本丸も同じである。
だが、おや、声に出さずに役人はつぶやいた。
何か違う。なにか足りない。
役人は足を止めて首をひねった。
「あ、蓮が」
池には何もなかった。
「ようこそ、お待ちしておりました。」
迎えてくれたのは金の髪、青緑色の瞳の初期刀、山姥切国広、この本丸の管理者。
だが、もしどこかの街中でこの初期刀を見て、山姥切国広と即断するのは難しい。切国と呼ばれるこの初期刀はその最大の特徴である襤褸布をかぶっていない。
金髪碧眼、北欧系美形だな。役人は声にせずつぶやく。山姥切国広一般に対する最大の注意点。容姿をほめてはならない!もっともここの山姥切には、きれいは禁句ではない。
「あれ、どうしたんだい」
役人は池を指す。
とたんにやわらかに微笑んでいた山姥切の表情が消える。
あ、なんか悪いこと訊いたかもと役人は思う。先代の役人によると、たいていのことは笑って流しているが意外なところに落とし穴があるという。さっぱり参考にならない説明を思い出す。
「たとえ、元居たところだろうと俺たちを捨てていくことはもう許さない」
いきなりの強い口調だ。
役人は思う。自分に対する返答というより、思っていたことがうっかり出てしまったという印象だ。
それを証拠立てるように色白のほほが紅潮する。
声にするならばしまったという表情だ。
「、姫宮は中の院にいます」
言い残すと山姥切はすごいスピードに走り去った。
どうも恥ずかしかったらしい。
審神者にそのことを聞くと、楽しそうに答えた。
「昨日天女の羽衣を読んだの」
昔話にはいろいろな派生があるが、昨日読んだ話は羽衣を奪われ猟師の妻になった天女は蓮の精霊の助けを得、蓮の糸をつむいだ布で天に帰るお話であった。
昨夜はいつものようにお話を読んで「お休みなさい」と挨拶して寝たのだが、夜中に短刀たちが泣き出した。
「あるじさまがどこかにいってしまいます」
そして今朝、審神者が気がつくと、池はからっぽになっていた。
あぁそういうことかと、役人は納得した。
しかしまぁ、昔話を真に受けて蓮を根こそぎしてしまうとは、意外にこの本丸の刀達は子供っぽい。
かわいらしいことだ。
役人は紅の本丸の景観変更(物理)を悪意なしと判断し、了承した
紅の本丸は美しい。空はいつも淡い紅に染まり、花は時を忘れ咲き、水はどこまでも澄み切っている。政府役員はここに来るのを楽しみにしている。
この本丸は他の本丸とはまるで異なっている。うす紅の空にそびえるのは大理石の柱、この本丸はギリシア神殿風である。
庭園のオリーブの木には握りこぶしほどもある実がたわわに実り、その隣接区画にはオレンジ・レモンなどかんきつ類が実る。いずれも高さは1メートルの位置に実っている。短刀が簡単に収穫できる高さである。
色とりどりのバラの小道を歩き本丸の入り口に近づく。ここの花はいつ来ても美しく咲いている。ただの一度も枯れた花びら一枚すら見たことがない。花々は散ると地に落ちる寸前に消える。文字通り消える。花だけでなく葉も同様である。だからここの短刀達は庭掃除を知らない。必要が無いのだ。
本丸の中庭に池がある。この辺りは本丸の定型部分でどこの本丸も同じである。
だが、おや、声に出さずに役人はつぶやいた。
何か違う。なにか足りない。
役人は足を止めて首をひねった。
「あ、蓮が」
池には何もなかった。
「ようこそ、お待ちしておりました。」
迎えてくれたのは金の髪、青緑色の瞳の初期刀、山姥切国広、この本丸の管理者。
だが、もしどこかの街中でこの初期刀を見て、山姥切国広と即断するのは難しい。切国と呼ばれるこの初期刀はその最大の特徴である襤褸布をかぶっていない。
金髪碧眼、北欧系美形だな。役人は声にせずつぶやく。山姥切国広一般に対する最大の注意点。容姿をほめてはならない!もっともここの山姥切には、きれいは禁句ではない。
「あれ、どうしたんだい」
役人は池を指す。
とたんにやわらかに微笑んでいた山姥切の表情が消える。
あ、なんか悪いこと訊いたかもと役人は思う。先代の役人によると、たいていのことは笑って流しているが意外なところに落とし穴があるという。さっぱり参考にならない説明を思い出す。
「たとえ、元居たところだろうと俺たちを捨てていくことはもう許さない」
いきなりの強い口調だ。
役人は思う。自分に対する返答というより、思っていたことがうっかり出てしまったという印象だ。
それを証拠立てるように色白のほほが紅潮する。
声にするならばしまったという表情だ。
「、姫宮は中の院にいます」
言い残すと山姥切はすごいスピードに走り去った。
どうも恥ずかしかったらしい。
審神者にそのことを聞くと、楽しそうに答えた。
「昨日天女の羽衣を読んだの」
昔話にはいろいろな派生があるが、昨日読んだ話は羽衣を奪われ猟師の妻になった天女は蓮の精霊の助けを得、蓮の糸をつむいだ布で天に帰るお話であった。
昨夜はいつものようにお話を読んで「お休みなさい」と挨拶して寝たのだが、夜中に短刀たちが泣き出した。
「あるじさまがどこかにいってしまいます」
そして今朝、審神者が気がつくと、池はからっぽになっていた。
あぁそういうことかと、役人は納得した。
しかしまぁ、昔話を真に受けて蓮を根こそぎしてしまうとは、意外にこの本丸の刀達は子供っぽい。
かわいらしいことだ。
役人は紅の本丸の景観変更(物理)を悪意なしと判断し、了承した
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