金属中毒

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40 暴走する練成陣2

2007-01-03 14:09:40 | 鋼の錬金術師
40 暴走する練成陣 その2
ゆっくりとドアを開きかける。異常な冷気を感じてフレッチャーはすぐドアを閉じた。
緑陰荘は24時間いつでも室温は25度に保たれている。空気浄化装置が常時動き完全に浄化されている。だからこそ抵抗力の落ちてきたエドが家の中だけとはいえ自由に動けるのだ。
ロイの経済力と気体に対する練成力、そしてフレッチャーの浄化の力がなければ不可能な体制であった。
 もちろん窓を開けるのは絶対に禁止である。だが、今兄は窓を全開にしその前に置かれたソファに座りこちらに背を向けている。
(あの、馬鹿兄、なに考えているんだ!)
浄化していない外気を入れてはならないのは兄が一番よくわかっているはずである。
まして外は粉雪がちらつく季節である。
兄自身もこのところあまり調子がよくないはずである。
(まさかこの3日間ずっと窓を開けっ放しであそこに座っていた?)
考えたくないが自分の兄ならばありえると弟は確信した。

「エドワードさんは部屋に戻ってください。これ以上うろうろしたら縛り上げますよ」
にっこり笑いながらフレッチャーはエドに最終通告する。
「   わかった   」
フレッチャーが冗談を言っていないことをエドは知っていた。なにしろもう何度かやられている。一度はつい夢中になって本を読みふけり昼食をサボりかけたとき。一度は神経が苛立ってどうにもたまらなくなって庭に出たとき。2メートルも歩かないうちにつるバラに捕らえられた。そういう時、ラッセルならエドの周囲に結界を張る形で安全対策をして散歩に付き合ってくれる。そのたびに弟は『兄さんは甘すぎる。そんなだからエドさんがどんどんわがままになってくるんだ!』と兄に詰め寄った。
「はー、ゼノタイムで会った時はあんなにかわいかったんだけどな」
部屋に戻ってため息をつくエドにメイドのエリスが笑いかける。
「手のかかりすぎる兄が二人もいては性格も強く(悪く)なるわよ」
東方司令部でリザの言葉が神託であったように、緑陰荘ではエリスが一番正しかった。

弟はなるべく細くドアを開けると手早く中に入ってドアを閉めた。
「兄さん、いったい何をしているんだよ」
声がきつくなるのを弟は抑えられない。
「   フレッチャー、手紙が来ていたな」
兄の言葉は答えになっていない。
「ベルシオさんからね。父さんのお墓を作ったから折を見て墓参りに来いって」
「   そうか。気が向いたらいって来い。   」
「兄さんは?行かないの?」
「   俺は行かない、   行きたくない、   」
「どうして?忙しいから?そりゃ僕だってすぐ行く気はないよ。
そんなことより、どういうつもりなの!まさか3日も窓開けていたんじゃないだろうね。今がどういうときかわかっているはずだろ!ウィンリィさんにだって、抵抗値が戻るまで出入り禁止にしてもらっているんだよ。だいたい雪が降るのに大窓開けっ放しにするなんて正気とは思えないよ!」
「   そうだろうな」(確かに俺は正気でないかも、こいつが俺を狂わせているのか)
部屋に入った直後から背中が焼け付くように熱かった。たまらずに窓を開けた。風で吹き込んだ粉雪が素肌に当たる感覚が心地よかった。
3日といわれても実感は無かった。ただ焼け付くような熱さと痛みにじっと耐えていただけだった。

アームストロング家を出るときアレックス・ルイはラッセルに言った。検査入院がどうしてもいやならしばらく休暇をとってはどうかと。そのときまわりのメイドたちの視線が気になってしまったラッセルはつい軍の中と同じ口調で答えていた。
「准将のお立場がありますので」勝手に休めないと思った。
それなら一度マスタング殿に話をしてみようとルイは言った。
そして弟の言葉を聞けば3日もたったらしい。

ルイ・アームストロングはマスタングの予定を軍で確認したが視察や出張で話す暇などないようだった。それにうかつに軍内で話をするわけにもいかない。どこに敵がいるかわからないのだ。
ブロッシュが青い顔で書類を抱えてきたので聞いてみるとラッセルが3日近く部屋にこもっているという。
「もう少し早く報告を」
といいかけたが、ゆっくり休ませるほうがいいという考え方もある。
(一度様子を見に行こうか。マスタング殿も今日ぐらいはお帰りになるだろう)
そう考えたルイ・アームストロングは、その日は本宅の城に帰らず、紅陽荘に向かった。

もともと緑陰荘と紅陽荘は細い道1本を挟んだ、背中合わせの双子の館である。アームストロング家の現当主(ルイとキャスリンの父)が双子(兄妹)であったので記念として建てられた。
その後、子供時代のルイやキャスリンが過ごした後、緑陰荘の100年分の利用権を当主が軍に寄付していた。そこには息子の不始末に寛大な処置をと願う父の意思があった。
幾人かの将校が住んだ後、セントラルに赴任したマスタングが残っていた利用権を軍から買い取った。

「ラッセルのやつ、最南端基地から帰ってからなんかおかしかったんだ」
熱のせいでのどが渇くのだろう。ジュースをストローで吸い上げながらエドは言う。
「そういえばもともと食べる子ではなかったけど、ろくに水分も取らなくなったわね」
エリスは読み終えたまま置かれた本を棚に直した。こういうこともラッセルがしていた。
「それよりも、あの脱がせ魔が帰ってから一度も俺を脱がせないんだ。風呂までフレッチャーまかせで」
エリスは持っていた本を落としかけた。これでもまったく色気のない話なのだから泣けてきそうである。

「いったいどうしたの。南(最南端基地)から帰ってから兄さんずっとおかしいよ。あっちで何があったの?」
「   基地が問題だったわけじゃない   」
兄の声は静かだった。そして時折小さくかすれる。
外はそろそろ薄暗くなり始めた。
明かりひとつ点けられていない室内は薄暗い。
「いったい何があったの?」
兄の返答は遅かった。
「お前には言えない」
「兄さん!」
叫ぶような弟の声を兄は無視した。
「エドはどうした」
「部屋へ戻したよ。ここに入らせるわけにはいけないでしょう」
「そうか     
   それなら、もう少しエドを見ていろ。俺は少し出る」
「出るって、いったい何言っているの。自分の言っていることわかっているの?!第一そんな体でどこにいくつもりなんだ!」
薄暗いのに目が慣れてくると兄がかなり憔悴しているのがわかる。粉雪の舞い込んでいる室内なのに兄の額にははっきりわかるほどの汗が浮かんでいる。
「兄さん、とにかく部屋を移ろう。少し落ち着いたら僕が診るから」
とにかく、兄を落ち着かすのが最優先だと弟は方針を切り替えた。
「さぁ、行こう」
そう言って弟は兄の肩に手を触れかけた。

バシィ!
最初、弟には何が起きたかわからなかった。ただ兄に触れようとした手が痛む。
一回呼吸してようやくわかった。弟の手は兄によって乱暴に払いのけられていた。
「俺にさわるな」

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