金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

ココア

2007-01-13 19:08:29 | 鋼の錬金術師
ココア

金と銀の3人兄弟のしあわせなお話

映画は単純なストーリィの怪獣物。だから第1作目を見ていないトリンガム兄弟にも十分楽しめたし、帰り道にエドの言葉に相槌を打つのも楽だった。
それにしても、あのアルがこんな子供向きの映画を楽しんでいたとはちょっと信じられない。
だが、その疑問はエドの一言で溶解した。
「あの夕飯のシーンのシチュー、湯気がぱぁーとあがってさ本当にうまそうだったな」
そうだ、映画の画面には味覚も嗅覚も触覚も無い。
ただ、視覚と聴覚のみ。
それが、鎧の中に閉じ込められたアルフォンスの世界。
まるで、映画の中の住人のような弟。
その弟に世界を返してやるために、エドは軍の犬になり、危険な旅を続け、ついには命をささげつくした。そんなエドの命をあまりに細い銀の糸がつないでいた。
煉丹術の禁忌を犯して、兄を救ったのは人の身体を取り戻したばかりの弟。
結果的にアルは実の兄とフレッチャーの兄の2人の命を救った。
もし、あの時エドがあのまま死んでいたら間違いなくラッセルも息を引き取っただろうから。
だがそれは、兄が命を尽くして世界の中に連れ戻した弟を再び人では無くした。しかも今度は救う道なしで。
「ティータイムのアップルパイもぱりっとしてよく焼けていたな。
ウィンリィのパイより形は良かったし」
「そういえばこの近くにおいしいケーキの店があるよね」
アルのことを思って、自分の中に沈みかけていたフレッチャーは意識的に明るい声でエド兄さんに答えた。
大切な友、その友に自分はもっともつらいことを押し付けた。
たとえ、友自身がそれをしようと思っていたとしても。
『お願い、兄さんの為に兄さんの命の為にエドワードさんに会わずに去って』
自分は絶対世界一冷たい心を持っているのだ。あのアルにあんなことを言えたなんて。
だから、アルがせいいっぱいの微笑で『手のかかる兄だけど僕の代わりに見ていて』
そう言った時、『エド兄さんを必ず幸せにするから』
約束した。
光り輝く存在になっていって、絡めた小指が透り過ぎる友の手に。
あのときからエドワードさんは僕の大切な兄さん。
この人の幸せを守るためなら世界中をだましてもいい。
今は僕がだまされよう。
大切な人が幸福なら、見守る人も幸福なのだと。

「わ、行こう!」
とたんにエドはもうはじけるように走り出す。
苦い顔のハボックに目線だけで「ごめんね」とフレッチャーは告げる。
このごろ、セントラルは前に比べて治安が悪い。
なるべくなら、映画を見たらすぐ緑陰荘に帰りたいのに。
それに、横目でちらりとラッセルを見る。
(顔色が悪い)
昨日も軍の用事で遅くまでこき使われていたのだ。睡眠時間は4時間も無かっただろう。
だが、休ましてやるようにと大佐には言えない。大佐の睡眠時間は3日間で4時間あるかないかである。
せめて自分が軍に戻れば、いくらかでも休ませてやれると思うが、野に下ったハボックにしかできない仕事も多い。そして、今のマスタングにはそういう手駒が絶対に必要だった。
「どうにも成らないな」
煙と一緒につぶやいた言葉をラッセルが受け止める。
「大丈夫ですよ」
穏やかに笑ってみせる。
さりげなく視線を煙に向ける。
今の話の続きのような調子で言葉を続ける。
「国家錬金術師が2人、軍関係が3人、マスタング准将のお墨付きの戦闘者が3人
このメンバーで怖いものなんてありませんよ」
言い終えると早足でエドを追いかける。
追いついたエドには子犬みたいな弟がすでにくっついている。
ハボックは「早く行こう」とラッセルの髪を引っ張る幸福な金の子供を追いかけた。
片足でまだ長く残ったタバコを踏みつけながら


カカオへ

題名目次へ

中表紙へ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿