goo blog サービス終了のお知らせ 

俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その32

2010年03月03日 13時15分03秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 ぐぅ……という音が、ペッピーの喉からしぼり出された。体は小刻みに震え、目に涙がたまり、体毛の先に水滴をつくった。
「ま、ま、まったく……」
 口を開くと同時に、瞳からは涙のしずくがあふれ出た。
「まったく、『頑強のウサギ』と呼ばれたこのワシが、自分の子供と同じくらいの若者の言葉に、ぼろぼろ泣かされておる……カッコにならんな、これじゃあ……」
「そうだ。カッコつけるな。自分が何をしたいのか言ってみなよ」
「もう一度、飛びたいんだ」
「うん」
「だが、恐ろしい。恐ろしくてたまらない」
「闘うんだよ、ペッピー。何だ、たった一度、地上に舞い戻っただけで、それだけでもう二度と飛べなくなるような弱い男なのか、ペッピー・ヘアは?」
「違う。そんなはずはない。そうではないと、信じたい」
「なら、諦めるな。自分の感覚を信じるんだよ」
「……わかった……わかったよ……」
 枕元のサイドテーブルからチリ紙をつかみとると、ペッピーは盛大に洟をかんだ。
「……卑怯だぞ、フォックス。ジェームズの言葉を借りるなんて」
 フォックスはニヤリと笑みを浮かべ、鼻の下をこすった。
「ペッピー。君は、たとえ自分が死んでも、父さんの中に自分が生き続ければいいと言ったけど。父さんだって、それは同じだったと思うぜ。ジェームズ・マクラウドは、ペッピー・ヘアの中でいまも生き続けているんだ。父さんの言葉が君の心に響いたのが、その証拠さ」

「ファルコとの出会い」その31

2010年03月03日 12時28分09秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「ワシは……ワシが、ジェームズを見殺しにしたんだ。もうワシには、飛ぶ資格なぞないんだ。この上、お前さんまで失うようなことがあったら……ワシはジェームズに、何と言って詫びればいいのかわからない」
「ペッピー。俺は死なないよ」
「死ぬ前には、みなそう言うんじゃ」
「そうかもしれないな。けれど死ぬことくらいは覚悟しているのが、軍人としても、遊撃隊員としても当たり前、じゃないのか?」
「よせ。死を覚悟しているのと、死に急ぐこととは違う。命を粗末にするな」
「命を粗末に、か……」
 乗り出していた身を引くと、思案するように言葉を選びながら、フォックスは言った。
「命を粗末にするなと、ペッピーは言う……けれどどんな命にも、いつかは終わりが訪れるんだ……なんのために生きているのか、なんのために生まれてきたのか。一体なんのために? 俺にだって、わからない。自分の命を活かす道を、俺はまだ見つけていない……死に急ぐことが俺の道だとは思わない。けれど、どうせ限りのある命なら、闘いたい。この世界のなかで意義ある何かを見つけて、それに俺の命を捧げたいんだ。……ペッピー」
 フォックスは再びペッピーの横顔を見据えた。
「ペッピー……命を粗末にするなと君は俺に言うが……君は、どうなんだ? せっかく助かった命をどう使っていいかもわからず、ベッドの上でただ残された時を過ごす……これは、命を粗末にしていることにはならないのか?」

「ファルコとの出会い」その30

2010年03月03日 11時40分14秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「だって、そうじゃろう。ジェームズは死に、ピグマは裏切りおった。残ったワシはこの有様だ。とても、遊撃隊はつづけられん」
「俺が続けるさ」
「なに?」
「父さんの跡を、俺が引き継ぐ。俺がスターフォックスのリーダーになるよ」
「無茶を言うな。たった一人でこなせるほど、遊撃隊の任務は甘くない」
「一人じゃないさ……もう一人、アテがある。アカデミーの同期で、スリッピーっていうやつだけどね」
「それでも、たったふたりだ。実戦の経験もない二人が集まったところで、何ができる?」
「もちろん、俺たちだけじゃ無理だ。ペッピー、君が助けてくれなければね」
「やめろ、フォックス。どだい無理な話だ。ワシはやらない。……やらないぞ」

「……それじゃあ、ペッピーは、ずっとこのベッドの上にいるつもりなのか? もう二度と、空へは戻らないのかい?」
「……」
「命の使い道を見失ったと言ったよな。なぜ生き残ったのかわからないと。それなら、俺たちを助けるために生き残ったと思ってくれないか。ペッピーの命を、スターフォックスのために使ってくれ」
「……やめてくれ」
 弱弱しく声を絞り出すと、ペッピーは天を仰いだ。
「やめてくれ……もう、ワシを苦しめないでくれ」
「苦しいのか、ペッピー。でも君を苦しめているのは俺じゃない。君の中にある恐れだ」
 ペッピーの横顔が、ハッとしたようにこわばった。そのヒゲが細かく震えている。
「ペッピー、君は、俺が死ぬのが怖いんだ。自分がスターフォックスに戻れば、また仲間の死に立ち会わなくてはいけなくなるかもしれない。その時に自分が何もできなかったらと思うと、怖くて飛び立てないんだ。そうだろう?」