君や知る、レモン花咲く国、
暗き葉陰に黄金のオレンジの輝き、
私の禁断症状が始まると、この詩が際限なく頭を廻る。
ゲーテになぜ心引かれるのか、私は長いこと判らなかった。
ドイツ人で、イタリア好み…私の琴線のどこに触れるのか?
君や知る、レモン花咲く国、
暗き葉陰に黄金のオレンジの輝き、
このイメージは、イタリアの隣の国、スペインをほうふつとさせる。
還りたい、還りたい、還りたい!
君や知る、レモン花咲く国、
暗き葉陰に黄金のオレンジの輝く国へ
日本を飛び出したくなると起こる、望郷の念か?
私が中学生の時に買った、700円(!)のケース入りのゲーテの本は、いい匂いがする。最近の本は、匂いがしない。開くだけでほっとする感じがない。
中学生の私は、まだイスラームのこともスペインのことも意識したことがなかった。
表参道に立ち、この町並みに似たところにある、ガウディの家に住むんだと言い、(後にこれは、ランブラス通りのイメージだったと、バルセロナで確信する)カスタネットがくっついた靴の踊りが気になるものの、タップダンスのことだと思い込んでいた。
(これはフラメンコのことだった)
旅に出られない苦しみの中で、読みふるした文庫ではなく、このケースに入った本を久しぶりに引っ張り出して、唖然とした。
『東西詩集』は丸ごと、イスラーム世界だった。欧州の民が感じたイスラーム。それはまさしく、アンダルシアを懐かしむのに、ぴったりの一冊。
甘い香りでおまえに媚び
おまえのよろこびをたかめるためには
莟(つぼみ)ほころぶ千の薔薇が
まず炎熱の中でほろびねばならぬ
アンダルシアのいにしえの世界へと、私をいざなう。
ミニヨン、『ゲーテ詩集』高橋健二訳
ズライカに、『東西詩集』井上正蔵他訳