7月21日、国のエネルギー政策の方針「エネルギー基本計画」について経産省の素案が発表された。このエネルギー基本計画は3年ごとに見直されており、今回は2030年に向けて温室効果ガスを2013年度に比べて46%削減するという政府の目標の実現に向けてどのような電源構成とするか、更に、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする菅首相の目玉政策の中継点としても注目されていた。特に、化石燃料発電と脱炭素電源の比率、また脱炭素電源の中でも再生可能エネルギー発電と原子力発電の比率に注目された。
2030年度の電源構成では、脱炭素電源を6割程度に引き上げ、化石燃料発電に関しては現行目標の56%から41%に縮小させる。脱炭素電源の内、原発は現行目標の20~22%を維持するほか、再生エネは現行目標の22~24%から36~38%に引き上げる、との内容である。
現在の実際の日本の電源比率は、東日本大震災の際の原発事故からの復旧遅れで、原発は5%程度、自然エネルギーは20%、化石燃料発電は75%程度であり、素案の内容は実際とは合わないチグハグさを感ずる。
また、2050年度の温室効果ガスの排出を実質ゼロ目標と2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標の関係がよく分からないが、2050年目標に向けて、着実な第1歩を踏み出したのであろうか。世界では地球温暖化の影響と見られる異常気象が頻発しており、対策は待った無しである。
さて、太陽光など再生可能エネルギーに関し、主力電源として最大限導入すると明記した、一方、原子力発電は依存度を可能な限り低減するとの方針を維持した。
この素案の議論が大詰めを迎える中、経産省の有識者会議が7月12日に、従来最も安いとされてきた原子力発電よりも事業用太陽光発電のコストが割安になるとの内容を公表した。経産省はこれまで原発がもっとも低コストであるとの立場で原発を推進してきたが、有識者会議はこれとは相反する方向を打ち出したのだ。
前例踏襲を旨とする経産省は当然猛反発しているそうだ。反対の理由は2030年時点の発電コストの試算の根拠がいい加減であるとのことだ。例えば、30年時点での原発新設を想定するなど非現実的な内容で、原発を新設すれば当然コストは高くなるとの言い分だ。
原発は、いまだ福島原発事故の回復の目処が立たず、更に核の廃棄物の最終処分地が決まっていない。経産省はいまだ原発の安全神話から抜け出しておらず、原発コストの試算は、これらが解決された後でなくては、誰も信用しないことが、分かっていない。
有識者会議と経産省の見解は大きく異なり、どのように調整されるか見ものであったが、今回の素案では避けて通られた。この素案が更に検討され最終案になるのであろうが、徹底した議論を期待したい。
また、今回のエネルギー基本計画は2050年度の温室効果ガスの排出を実質ゼロ目標に向かっての着実な第1歩であることを分かり易く説明してもらいたい。2021.07.24(犬賀 大好ー721)