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映画『夜明けまでバス停で』

2022年11月12日 | 映画

「助けて」と言えない人もいる。渋谷ホームレス殴死の背景を追う。コロナ禍の「社会的孤立」と自己責任の弊害

誰しもが“彼女”と同じ状況に置かれてもおかしくはないー。現在公開中の映画『夜明けまでバス停で』はこの事件をモチーフに、コロナ禍における「社会的孤立」を描いた作品だ。 

 メガホンを取ったのは高橋伴明監督。袴田事件を題材にした『BOX 袴田事件 命とは』や在宅医療の現場を描いた『痛くない死に方』など社会派作品を多く手掛けてきた。コロナ禍のいま、「渋谷ホームレス殺人事件」をテーマに掲げた理由や、作品に込めた「怒り」について聞いた。

◇◇◇

高橋伴明監督

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

男が石入りのポリ袋で…バス停で寝泊まり中のホームレス女性を襲った悲劇

映画のモチーフとなった事件は今からおよそ2年前。2020年11月16日明け方に起きた。

 渋谷区・幡ヶ谷のバス停のベンチで大林さんが寝泊まりしていたところ、近くに住む男に石などが入ったポリ袋で殴られ、外傷性くも膜下出血により亡くなった。事件から5日後に逮捕された男は「邪魔だった。痛い思いをさせればいなくなると思った」などと供述。男は逮捕後、傷害致死の罪で起訴されたが、保釈中に死亡しているのが見つかった。自殺とみられている。

 事件について見つめ直したのはその翌年、主演を務める俳優・板谷由夏さんと旧知のプロデューサーから映画化の打診を受けたことだった。同時期に、大林さんの半生を追ったNHKのドキュメンタリー番組『事件の涙 たどりついたバス停で〜ある女性ホームレスの死〜』が放送されたこともあり、事件に対する見方が変わっていった。
「夜明けまでバス停で」

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

 「NHKの番組をきっかけに『彼女は私だ』という女性たちの共感が広がっていることを知り、誰もが彼女・被害者になり得る事件だったんだという視点で作り上げていこうと考えました。コロナ禍により突然仕事を失い、部屋を追い出され、再就職もままならず、非常に短い時間のなかでホームレス生活を余儀なくされる。被害者の女性がたどった時間軸のなかに“いま国に対して自分が怒っていること”の一部を表現することで、もうひとつの物語を作ろうと思ったんです」

 高橋監督自身、コロナ禍で“失業”に近い状況に陥った。エンタメは「不要不急」とされ、「新作映画の企画は通らず、撮影を終えた作品も公開が1年近く延期された」という。

監督自身もまた、事件の「当事者」になり得たかもしれない。この事件を単なる悲劇で終わらせずに、事件に至ったコロナ禍の社会背景を克明に描き、ひとりひとりが映画の「主役」となり得る現状を映し出した。
「夜明けまでバス停で」

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

 『夜明けまでバス停で』のシナリオは、実際の事件が起きた背景やコロナ禍の状況を下敷きにしている。

 事件の被害者である大林さんは広島県で生まれ、結婚を機に上京するも、夫の暴力が原因で離婚。路上生活を始める前はスーパーで食品販売員を務めていた。非正規雇用という不安定な立場にコロナ禍が追い打ちをかけ、店頭での仕事が激減。2020年春頃からバス停で寝泊まりする姿が見かけられていたという。
「夜明けまでバス停で」

 

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

同じ関東で暮らす兄弟に連絡を取ることもなく、誰にも頼ることなく、寒いバス停でその生涯を閉じることを余儀なくされた。

 板谷さんが演じる主人公・三知子は45歳の女性でひとり暮らし。年齢こそ違うものの、大林さんに似たバックグラウンドを持つ。アクセサリー作家として細々と作品を販売するかたわら、居酒屋で住み込みのパートとして長年働いてきた。ところが、コロナ禍で突然居酒屋の仕事を解雇され、仕事と住まいを同時に失い、ホームレスになってしまうーー。
「夜明けまでバス停で」

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

 映画では三知子の暮らしを通して、コロナ禍の時間軸をたどることができる。毎晩繁盛していた居酒屋は、2020年3月に発令された「緊急事態宣言」を機に休業。パート社員である三知子や外国人労働者たちは、何の説明もなく、メール一本で解雇されてしまう。非正規雇用の不安定さや生理の貧困、年齢や性別による差別…コロナ禍で浮き彫りになった様々な問題が、1時間半の作品に凝縮されている。

 僕は順番が逆だと思うんです。まずは『公助』が真っ先に来るべきだろうと。でも、三知子のようにその言葉を真っ直ぐに受け止めてしまう人がたくさんいるのではないでしょうか。それは、私たちが国からきちんと公助を受けてきた歴史がないからだと思うんです。戦時中といい『お国のために』と国に尽くすことが当たり前とされてきたわけですから。

ただ、初めに『自己責任』を押し付けられ、頑張ってもどうにもならなくて、周りに頼ることもできずに『もうどうにもならない』と亡くなった人に共助も公助もありませんよね。あのシーンには、そんなちぐはぐな社会像への怒りを投影しました」

©︎2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

「人と人との繋がりに可能性を感じたい」事件と異なる結末に込められた思い

 周囲との連絡を絶ち、路上生活者となった三知子。運行を終えた深夜のバス停で寝泊まりする彼女のもとに、素性の見えない男の不穏な影が忍び寄るーー。このまま三知子も、実際の事件と同じ結末をたどるのだろうか。しかし、高橋監督は懸命に生きようとしていた大林さんの人生に敬意を払いつつ、劇中では異なる展開を描いた。

 コロナ禍によって社会的孤立を深めていく、暗く不穏な空気が漂う前半とは対照的に、後半では路上生活者の老人・バクダン(柄本明)との出会いにより物語は思わぬ方向へと動き出す。突飛な展開に映るかもしれないが、これには高橋監督のある思いが込められている。

 「夜明けまでバス停で」「社会的孤立に追い込まれた『かわいそうな女性』で終わらせるのではなく、孤立とどう向き合い、アクションを起こしていくのかという過程を描きたかったんです。三知子は『助けて』と言えないキャラクターとして描いていますが、自分からSOSを出せなくても、誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。そんな人との繋がりに可能性を感じたい、物語の中だけでも彼女が救われてほしいという思いを込めました」

 声を上げてもらわないと周りは助けようもない。そんな意見もあるだろう。ただ、仕事や住まいを失い、尊厳を傷つけられた当事者ほど声は小さく、様々な事情で「助けて」と言えない人たちもいる。そんな当事者たちの悲しい末路を「自己責任」の一言で片付けるのではなく、その手前で手を差し伸べることができたらーー。作品の結末からは、そんな監督自身の「連帯への希望」が垣間見えるのではないだろうか。

(執筆・取材:荘司結有、編集:濵田理

高橋伴明監督


園のようす。



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2 コメント

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Unknown (nerotch9055)
2022-11-12 20:59:30
こんばんは!
この事件は、本当に悲しい出来事だと思います。
また、国民を守るはずの行政が、真に困った人達に手を差し伸べてあげないこと・・。
本当に、残念でなりませんでした。
また、昔の日本と違い、困っている人を見て見ぬふりをするようになってしまった、この国の国民。
いつから、こんなに冷たい国になってしまったんでしょう。
第8波に突入しようとしている今、同じような悲劇が繰り返されないことを祈るばかりです。
こんばんは。 (mooru)
2022-11-12 21:34:21
 本当に、おっしゃる通りです。「見て見ぬふりをする」から「見て攻撃する」というおぞましい状態になってしまいました。真っ当な「国」にしたい、わたしたちの責務でしょう!

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