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最後まで真実に触れない菅首相と『NHKニュース7』

2021年09月05日 | 社会・経済

鈴木祐司 次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト

YAHOO!ニュース〈個人〉9/5(日) 

9月3日午前11時30分、菅首相は自民党本部で行われた役員会で自民党総裁選に立候補しないと突然表明し、永田町に衝撃が走った。菅首相は記者団に対して、立候補せず事実上退陣する旨を次のように述べた。

「先ほど開かれた自民党役員会で、新型コロナ対策に専念をしたいという思いで、自民党総裁選挙には出馬をしないことを申し上げた」

「私自身、出馬を予定する中でコロナ対策と選挙活動を考えた時に莫大なエネルギーが必要だ。そういう中でやはり両立はできず、どちらかに選択すべきだ」

「国民に約束を何回もしており、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため私は専念したいと判断した。国民の命と暮らしを守る総理大臣として私の責務なので、専念してやり遂げたい。来週にも改めて記者会見をしたい」

コロナ対策と総裁選挙の選挙活動は両立できないので、立候補せずコロナ対策に専念したいということだ。

ただし9月2日夕方に、二階幹事長に菅首相は立候補の意思を伝えたと報じられており、一夜のうちに感染症対策や選挙活動の大変さが分かったとは考えにくい。違和感のある内容だ。

発言内容が真実だと思っていない国民も多いのではないのか。

しかも記者団の質問に答えずその場を立ち去っており、国民には伝わらない発信だった。最後まで記者団とその向こうにいる国民への語りかけの姿勢が弱いと言われても仕方あるまい。

費やした時間も2分弱、総理大臣の事実上の退陣表明としては何とも物足りない。

首相動静によれば、この後の日程は午後1時59分まで特に書かれていない。つまり時間がなかったわけでもない。

菅首相の1年間の発信を象徴するような、事実上の退陣表明と言わざるを得ない。

報道に大差

この菅首相のぶら下がり会見および退陣については、この日の夜のニュースは多くの時間を費やしていた。

一国の宰相の電撃辞任の報道だ。新聞でも号外が配られるほどのビッグニュースだったことは言うまでもない。

テレビ朝日『報道ステーション』は40分超の企画とした。

NHK『ニュース7』が34分ほど、日本テレビ『news zero』も29分近くを割いて詳しく伝えた。

関東地区70万台強のスマートテレビで1秒毎の接触率を計測する東芝視聴データTimeOn Analyticsデータによれば、3番組のコーナーが始まった時点での接触率は『報ステ』と『ニュース7』が6%強、『mews zero』は4%強だった。金曜日で深夜11時30分からの放送だったために、『news zero』のスタートは低く見える。ところが時間経過とともに、『報ステ』と『ニュース7』は少しずつ数字が下がっている。明らかに途中で「もう十分」とチャンネルを替えるかテレビを消した視聴者が少なくない。

一方『news zero』は、基本的に右肩上がりを続けた。

明らかにザッピングなどで流入する視聴者の方が多く、途中で見るのをやめた人が少なかったと言える。同じネタを扱いながらも、見る人にとっての納得性に差があった可能性がある。

『news zero』の工夫と構成力

冒頭に件のぶら下がり会見を置き、視聴者の心を掴んだのは『news zero』。

ユーモアとジャーナリズム精神をとびきり感じせた点は卓越していた。

記者団の質問に一切答えようとせず立ち去っていく菅首相。

その背中に、ちょっと聞き取りにくい記者の音声に合わせて、「総理!」「きょうは最後まで答えてください!」という吹き出し風の文字をスーパーした。

さらに「丁寧な説明をお願いします!」「責任を放棄するんですか!」の言葉も重ねられる。

菅首相はそのまま去り、「説明は2分にも満たない時間で終わりました」というアナウンサーコメントが付け加えられた。

他のニュースでも、キャスターやゲストから「最後までこの人から、本当の言葉は聞かれませんでした」など、菅首相の説明不足を斬るコメントはあった。

ただし『news zero』は、映像で菅首相の姿勢を浮き彫りにした点で他と異なった。

しかも29分ほどの中で、彼の政治姿勢を描いた構成力は際立った。

「この日のドキュメント」「退陣までの背景」「記者解説」「コロナ関連」など、それぞれの項目自体は他のニュースと大差ない。ところがシーンのつなげ方が視聴者の生理に寄り添う、いわゆる“意識のしりとり”を守った編集になっていた。視聴者が見たいもの、知りたいことが過不足なく出てくるのだ。

例えばぶら下がり会見の後は、キーマン二階幹事長のインタビュー。

「けさ聞きました」発言を受けて、朝の総理官邸に時間は飛ぶ。そこで首相に近い関係者の証言として、一夜で退陣を決めたことを伝える。そもそも立候補に何度も意欲を見せていたにもかかわらずだ。

その後は小泉環境相のインタビュー。

批判が多いが本当は「全く逆で、温かい方」という発言。涙もしっかりわかるように編集している。ところが視聴者には、菅首相が自民党内でどんな立場にあったのかが、小泉環境相をクローズアップした分よくわかってしまう。

以降、自民党内外の反応や街の声が続く。

ここでも特筆すべきは、秋田県民の「誰がやっても厳しい1年」と同情の声を聞かせた直後に、飲食店店主が「正直言って何の説得力もない」とコロナ対策の失政を厳しく批判する。

その後に、この1年の菅政権を振り返るVTR。

「国民のために働く内閣」というコメントがあり、畳み掛けるように「国民の命と暮らしを守る」という言葉が繰り返されてきたと紹介された。

ところがGoToトラベル問題や、緊急事態宣言が何度も発出された事実を並べることで、最優先の新型コロナ対策がうまく機能しなかったこと、ひいては「国民のために働く内閣」という言葉の虚しさがにじむ。

こうした事実を積み重ねた上で、スタジオ解説などが登場する。

ゆえに言葉による説明が、視聴者の腑に落ちるように出来上がっている。基本はVTRで見せたことを、図で俯瞰することで構造をわからせ、背景を深掘りする手法だ。

ここまで視聴者の納得性を高めた上で、最後は今後どうなるのか。

生活者の最大の関心事は、総裁の後継もさることながら、コロナ禍の今後だ。ワクチンを2回接種した後の生活を展望すると共に、忘れてはいけない現状の課題もおさえる。

こうして構成された29分間。

声高には主張していないが、菅政権の問題点は明確に浮き彫りにされた。放送は夜11時半からで、既にニュースの概要を知っている人も多かっただろうが、途中で見るのをやめる人は一部だった。

接触率が右肩上がりを続けたのは、こんな工夫と構成力にあったからである。

批判なき『ニュース7』

一方『ニュース7』も、このぶら下がり会見をドキュメント風のパートの中で扱った。

1分50秒まるまる発言を扱っているようだが、菅首相が最後に「改めて来週にも記者会見をしたい、このように思います」と述べると、間髪入れず「終わります」という女性の声が入り、「総理」と呼びかける記者の声で次の項目に移った。

質問の続行を求める記者の声を聴かせようという意志もなく、「終わります」という官邸側の合図でこのニュースも整然と終わった。

為政者の国民に向き合う姿勢がいかなるものか、この編集では伝わらないし、伝える気もないように見える。

しかも「コロナ対策に専念するための不出馬」という菅発言について、この後に記者が不出馬の理由を解説する際、冒頭で引用しさらに手厚く報道していた。

NHKの『ニュース7』は、菅首相就任以来、拙稿「NHKニュースの露出過多で増幅 コロナ・五輪で菅発言の空疎感」(6月1日)や「国民はうんざり 菅首相のニュース7占拠~NHK忖度報道で接触率半減!」(7月10日)で報じたように、菅首相の記者会見ばかりでなく、ぶら下がり会見もそのまま放送するケースが非常に多く、忖度報道ではないかという指摘がされてきた。

しかも発言内容の重要性に関わらず、ニュースの中に所かまわず入ってくるので、「うんざり感」も言われてきた。

今回の総理のぶら下がり会見は、一切の質問を受けつけない「特別版」だった。

これを無批判に放送すると、視聴者から「たれ流し」の指摘を受けても仕方ないだろう。しかも最も視聴率が上がりやすい時間帯に放送されていなかがら、単なる「たれ流し」で、伝える側のジャーナリズム精神が欠けるためか、途中で見る気をなくす視聴者が少なからず出ている。

放送行政やNHKに詳しい菅氏の首相就任以来、NHKと官邸との力関係が歪み、メガバンク出身の会長という事情もあって、報道機関としての影が薄くなったという声がある。

拙稿で指摘してきた数々の「忖度疑惑」ばかりでなく、菅首相や二階幹事長にインタビューしたニュースの問題、報道番組のキャスター交代など圧力人事も報道もされた。

菅首相の退陣を機会に、NHKにはこれまでの報道姿勢を改め、公共の報道機関としての矜持を取り戻してほしい。

そのための努力と毅然とした姿勢こそ、受信料を払っている多くの視聴者の想いであることを忘れて欲しくない。

鈴木祐司

次世代メディア研究所代表/メディアアナリスト

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。直近の制作番組では、テレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」(共に2013年)。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。津田塾大学では計算機科学研究所にて客員研究員を拝命中。


更新が遅れてしまいました。
プリンターに不具合が出ましてそれを直そうと奮闘していたところです・・が、うまくいきませんでした。罫線がブレブレに印刷されるのです。メーカーの「罫線ずれチェックシート」に基づいて訂正しようとしてもPC,プリンターの再起動、プリンターデバイスの再インストール等試みたのですがだめでした。

ヘブンリーブルーのはずがホワイトが咲きました?



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