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憲法学者・木村草太「コロナの失政を憲法のせいにするな」

2021年05月11日 | 社会・経済

女性自身TOP 2021/05/11 

    「新型コロナへの対応を受けて、緊急事態への備えに対する関心が高まっています。〈中略〉そのことを憲法にどのように位置付けるかは極めて重く大切な課題です」

    5月3日に行われた改憲派の民間団体の集会にそんなメッセージを送ったのは、菅義偉首相(72)だ。いま、自由民主党などによる改憲への動きが加速している。6日、衆議院憲法審査会で、改憲の手続きを定める国民投票法改正案が、与野党の賛成多数で可決された。同法は今国会で成立する見込みだ。

コロナ禍で 「緊急事態条項」が改憲の旗印に

全国紙政治部記者はこう語る。

    「これまでは、“9条を改正して自衛隊の存在を明記してあげよう”というのが、安倍前首相をはじめ、改憲派の旗印でした。しかし、コロナ禍になってからは『緊急事態条項』の創設が前面に押し出されるようになりました」

    緊急事態条項とは、戦乱や大規模な災害時などの緊急事態に、政府の権限を大幅に強めたり、国会議員の任期を延長したりすることを可能にするもの。現在、東京都や大阪府に出ている「緊急事態宣言」とはまったく異なるものだ。自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」や、2018年に発表した「改憲四項目」にも盛り込まれている。

「日本はコロナで危機的な状況ですが、要は政府の権限が弱いから、コロナ対応がうまくいっていない、だから憲法に緊急事態条項を入れる必要があるというロジックです」(同前)

    いっこうにコロナ終息が見えない状況で、こうした主張は一定の説得力を持つのだろうか。改憲に賛成する声は急激に増えている。3日に発表された読売新聞の世論調査では憲法を「改正する方がよい」が56%と、1年前の調査より7ポイント上がった。だが、本当に緊急事態条項がないとコロナ対応はできないのか。憲法学者で東京都立大学教授の木村草太さんに聞いた。

■「怠慢や失策を棚に上げ、憲法に責任転嫁」

    「1990年以降だけで104カ国が新たに憲法を作られた。すべてに緊急事態条項が入っている」

5月3日の改憲派民間団体の集会に参加した自民党の下村博文政調会長(66)はこう主張した。改憲派はしばしば緊急事態条項は世界の常識と言うが……。

「『緊急』や、それに相当する言葉が入った憲法の条文を持つ国はありますが、内容は多種多様で各国に共通する『緊急事態条項』というものは存在しません。ですので『外国にはある緊急事態条項が、日本にはない』という前提が誤っています」(木村さん、以下同)

下村氏の発言をバッサリ切り捨てたうえでこう語る。

「例えば、アメリカ憲法では、大統領は原則として議会を招集する権限を持ちませんが、緊急時には議会を招集できるとしています。一方、日本国憲法は元々、内閣の国会召集権を認めていますので、緊急時に首相は国会を召集し、法案を提出して国会の議決を取ることができる。緊急事態に対応できる権限は、現行憲法でも、すでにある程度与えられているんです」

    そもそも、政府は自らに与えられた権限を適切に行使してこなかった。東京五輪の実施にこだわって感染拡大下でも入国制限をなかなか行わなかったし、検査体制の拡充やワクチン確保も後手後手になっている。防疫のための法律の整備も遅々として進まなかった。

「政府が真剣にコロナ対応と向き合っていれば、より大胆で踏み込んだ対策や立法ができたはずです。それなのに安倍政権も菅政権も、延長を求める声を無視して国会を閉会したり、臨時国会もなかなか開かなかった。特措法がようやく改正されたのは今年2月です。その怠慢や失策を棚に上げ、『憲法改正』を持ち出せば国民をごまかせると思うこと自体、極めて不真面目な態度と言わざるを得ない」

■「緊急事態条項ないとできないことは?」に絶句した菅首相

    「現行の憲法でも、科学的、法律的根拠があれば、より強い施策は可能です。現在の対策が足りないなら、その責任はそれで十分であると考えた政府と国会にある。コロナ対策の不備・不満を『憲法のせい』にするのは誤りです」

木村さんはそう断言する。

    5月7日の記者会見で、産経新聞の記者に「(憲法に)緊急事態条項がなければとれないような対策は具体的に何か」と問われた菅首相。絞り出すようにこう答えた。

「えー、政府として……たとえば……その、ワクチンの治験についても非常に……国内治験というものも求められてます。どうしても、3、4カ月くらいかかってしまいますので、なかなか接種も遅れてしまう」

もちろん、ワクチンの治験と憲法はなんら関係ない。現に菅首相は10日の衆院予算委員会で「ワクチン承認制度の見直しを検討する必要がある」と、現行憲法下の“法改正”によって、緊急時に治験を簡略化できる措置をとれるようにすることを示唆した。

「憲法に緊急事態条項がないからコロナ対策はできない」

怠慢や失策をごまかすためのそんな言い訳に騙されてはいけない。

「女性自身」2021年5月25日号 掲載

 

⁂     ⁂     ⁂

 

憲法学者・木村草太「コロナ対応に緊急事態条項いらない理由」

   2021/05/11

 

「コロナのような事態には憲法に緊急事態条項がないと対応できない」

    政府や自民党関係者のそんな合言葉とともに、にわかに加速し始めた改憲の流れ。だが、これはまったくの嘘っぱちで、卑怯な責任転嫁にすぎない。憲法学者で東京都立大学教授の木村草太さんに聞いた。

■強権を発動しても、どうせやるのはアベノマスク

   「例えば、アメリカ憲法では、大統領は原則として議会を招集する権限を持ちませんが、緊急時には議会を招集できるとしています。一方、日本国憲法は元々、内閣の国会召集権を認めていますので、緊急時に首相は国会を召集し、法案を提出して国会の議決を取ることができる。緊急事態に対応できる権限は、現行憲法でも、すでにある程度与えられているんです」

    木村さんはそう語る。そもそも、政府は自らに与えられた権限を適切に行使してこなかった。東京五輪の実施にこだわって感染拡大下でも入国制限をなかなか行わなかったし、検査体制の拡充やワクチン確保も後手後手になっている。臨時国会の召集もなかなか行わず、防疫のための法律の整備も遅々として進まなかった。

アベノマスクも安倍官邸の独断措置だった

    むしろ、憲法に“緊急事態条項”があった場合の方が、“コロナ失政”はさらに増えていた可能性が高いという。

「たとえば、昨年4月の全国一律の一斉休校は、丁寧な手続きを欠いた独断措置で、いい結果は生まず、現場には混乱を呼びました。また、アベノマスクも安倍官邸の独断措置でした。こうした内閣の独断で行われた政策によいものはあったでしょうか」

    自民党の憲法草案では、緊急時に内閣は法律と同じ効力のある強力な政令を出せるようになる。

「緊急事態条項が創設されたとしたら、政府の場当たり的で、効果のない対応はますます頻発する可能性が高いというのが、昨年立証されたと思います」

■感染拡大中の“GoTo強行”“お肉券”は要りますか?

さらに、こんな懸念もある。

    「条項の内容によっては、政府は政令に基づいて合法的に情報統制できます。メディアにコロナ情報が載らなくなり、感染者数が虚偽発表、政府に不都合な情報が合法的に隠蔽されかねません。さらに、今は国民はメディアやSNSを通じて意見を言うことができますが、国民の声が封殺されるようになる恐れがあります」

    10万円の一律給付やGoToキャンペーン停止など、生活の窮地を救い、感染拡大を防いだと思われる施策には、国民からの突き上げや、国会での野党との議論を経て実現してきたものが多い。

    当初、自民党内では“お肉券やお魚券”が検討され、政府は感染拡大下でキャンペーンを続行しようとしていたが、国民の批判が封殺され、政府の独断が許されれば、これらが実現してしまった可能性もあった。

■「ピンチはチャンス」と言い放った自民党政調会長

    ドイツのナチス政権からミャンマーの軍事政権まで、緊急事態時に、権力の集中や民主主義的な手続きの停止を許す憲法規定が悪用され、独裁政権が生まれた例は歴史上に多々ある。緊急事態条項には慎重に臨まなければならない。

「コロナ対応に必要なのは、感染症を理解し、対策目標を国民に示し、医療従事者の援助を行い、休業せざるを得ない事業者への支援をするという当たり前の政策です。これはむしろ、適切に情報を開示し、困っている人の声を取り上げて、民主的な討論を経て政策や法律を決めるという、現行憲法の基本原則にのっとってこそ、実現できる性質のものでしょう」

    自民党の下村博文政調会長(66)は5月3日に行われた改憲派の民間団体の集会で、憲法改正のために「コロナをピンチはチャンスとして捉えるべきだ」と言い放った。自分たちが招いたピンチを憲法のせいにして、強権的な支配を可能にする条項を憲法に紛れ込ませようなどという卑怯を許してはならない。

「女性自身」2021年5月25日号 掲載


無能・無策を憲法のせいにするな!

かろうじて10℃まで届いた。明日からは15℃以上になる予報ではあるが、明日朝は「霜注意報」が出ている。予想最低気温は1度だ。梅の木に袋をかぶせてきた。もう、これで終わりにしてほしいものだ。

 



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