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北原みのり おんなの話はありがたい 社会学者・宮台真司氏が公共の電波で語る「性教育」にまっとうな返し 「昔話はほどほどに」

2022年04月27日 | 社会・経済

AERAdot 2022/04/27

 先日、「ラジオであなたの話をしているから聴いたほうがいい」と友人にすすめられた。TBSラジオ「アシタノカレッジ」という番組で、社会学者の宮台真司氏がゲストとして「性教育」を語る回だった。正確に言えば、「私の話」ではなく、私が長年売り続けている「バイブ」が話題になっていたのである。公共の電波で女性のマスターベーションが話題になること自体が珍しいが、番組のパーソナリティーである30代のキニマンス塚本ニキさんと63歳の社会学者の対話には、時代の流れを深々と感じさせるものがあった。

 若い人は知らないと思うが、今の40歳以上であれば、宮台氏の名前を避けて通ることは不可能だっただろう。それほど、1990年代の宮台氏は時の人だった。“援助交際のフィールドワーク”で一世を風靡した社会学者であり、彼によって“援助交際”とは、“女の子が主体的にセックスを売る新しい現象”として“知的”に語られていたのだった。

 今にして思えば、それはあまりに牧歌的で男性に都合のよい言論だっただろう。“少女買春”を“エンコー”と名づけることで免罪される男性の問題が語られるようになったのは、ここ数年のことでもある。「売ったんじゃない、買われたのだ」という当事者女性たちの告発によって、90年代がすさまじい勢いで過去になりつつあるのを実感する今日この頃だ。

 そんな宮台氏がセックス(宮台氏によれば「性愛」である)について語るのを久しぶりに聴いた。興味深かったのは、それが宮台氏の一方的な語りではなく、30代の女性がパーソナリティーに入ったことで、「今の時代」がクッキリと浮かび上がる内容になっていたことだ。セックスが主な娯楽だと信じられてきた世代の男性と、セックスから解放された世代の女性の会話になっていたのだ。

「昔は公園でみんなセックスしてた。それをのぞいている人たちもたくさんいた。僕もセックスしまくって、のぞき見してる人たちと友だちになったりしたんだ」(宮台氏の発言です)

 30代女性は驚く。

「そういうの見かけたらイヤだなと思っちゃうかも」(ニキさんの発言です)

 60代男性は昔をどんどん思い出すのか、さらにこんなことも言ってしまう。

「昔は、大学のコンパで先生が学生を持ち帰るということも普通にあった。(僕)東大だったけど」(宮台氏の発言です)

 30代女性は驚く。

「高校生の頃はマンガでそういうの憧れたけど(略)今は、その関係は権力の乱用ではないのかと考えてしまう」(ニキさんの発言です)

 始終まともなニキさんだが、60代男性は昨今の日本の若者を憂えてこうも語る。

「性的な退却が進んでる。最近はピーク時の半分以下しか若者がセックスしていない」(宮台氏によれば1997年がピークだという)

 30代女性は冷静に聞く。

「それは、悪いことなんでしょうか?」

 パーソナリティーのニキさんはゲストの宮台氏を否定することなく、「宮台さんに100%は同意できない」という態度を失礼にならない軽やかさで表明し、自分の感覚を率直に語るのである。才能である。

 私にこの番組を「聴いて」とすすめた友人は、「聴いたら不愉快になるかも」と言っていたのだけど、もしこれが同世代の男性2人が「昔は公園でたくさんやった」「俺、のぞいてたほうだった」「ガハハ」という話であれば途中で聴けなくなっただろう。「持ち帰り」という言葉が垂れ流されることに胃が痛くなったかもしれない。でも、時代の空気を生きているニキさんが「権力の乱用ではないのか」とか「言葉の同意はないのですか?」などという言葉をサラリと使いながら対等に話している空気に、時代が確実に変化していると希望を感じられたのだ。

 女性のマスターベーションについてはニキさんが話を振っていた。急に振ったのではなく、宮台氏が男女の性愛にこだわるような調子で、

「『婦人公論』には過去15年20年、中イキしたことがないという悲鳴に満ちている」

 と話したことがきっかけだった。婦人公論そんな雑誌でしたっけ……と驚く。(ちなみに婦人公論はここ数年はセックス特集を組んでいません。念のため「中イキしたい」という声って届いていますか?  と、さきほど婦人公論関係者に電話をしたら「そうかも」と仰るので、「え?」と驚くと、「長生き」と聞き違えとのことでした。少なくとも「悲鳴に満ちている」現象は関係者も、そして婦人公論読者の私でも確認できなかったです)

 偉かったのはニキさんで、「中イキしなきゃいけませんか?」と、まっとうな質問をしてくれたのだった。それに対して宮台氏は「しなきゃだめってわけでもない」と言いつつAVの話を持ち出し、こう語った。

「代々木忠(AV監督)が描いたように、女性は性愛で失神したり、号泣したり、過呼吸になったり、聞こえない、見えないという状況に誰でもなれる」「女の人はそういう可能性があるのに、それを使えないでそのまま死んじゃうんじゃないかとみんな焦り始める」……で婦人公論に「中イキしないッ」と悲鳴を届ける(←本当なんですか?)というのである。AVで表現されたことがリアルだと思っているんだ……と衝撃を受けてしまう。(ちなみに私は20年以上前、代々木監督をインタビューしたことがあります。性器に頼らずにオーガズムに導く作品を撮っていた代々木監督は、取材中に私の手をとり「感じるよ」というようなことを言いながら指をこすってきました。←同意の上です。でも、なかなか終わらず……感じるフリをしたほうがいいのかな、AVに出演する人は大変だな……と困惑したことを久々に思い出しました)

 で、女性のマスターベーションである。「中イキ」の話に対しニキさんが、最近はインスタ映えするバイブが紹介されたり、セルフラブの話をしたりする女性が増えてきた、というような話をしてくれたのだった。男女の性愛にバイブ返しである。すごいな、この人! と感動していたら宮台氏がプチキレ気味な感じでこう言い切っていた。

「(マスターベーションは)自己本位なんだよね。自分に閉ざされている。自分さえよければいいってね。性愛のポイントは相手に入られ、相手に入り、融合する、フュージョンすることだから。外から何か入って、外に入る、のがない状態で性的な幸いがあるというふうに思うのは、すごい偏っていると思います」

いやー、TBSラジオ、すごいです。ここまで偏った考えや、確かかどうかわからない情報を言い切って放送する自由な空気、すごい。出演者に合わせて、公園でみんながセックスしていていろいろなんでもありだった80年代バージョンに合わせたのでしょうか。

 ちなみに宮台氏が言うには、日本の性愛がダメになったのは、セックスに不安を与え脅す保守派と、セックスを被害と加害の図式で捉える#MeTooのせいだそうです。その結果、性愛を知らずに年をとり「30代後半になって市場での賞味期限が来た」(宮台氏の言葉です)女性たちが、「女性用風俗に殺到するという現象がコロナ禍以降起きている」のだそうです。研究者が根拠も示さず言いきるレベルを超えてます。ここまでくると私はかなり笑いました。というか、宮台氏の話をまともに受ければ、日本の若者がセックスしなくなったのは私のせい……です。女性用バイブを売り、#MeToo運動に関わってきた私が……日本の性愛を後退させてしまって、ほんとにゴメンナサイね。

 それにしても改めて思うのは、今やセックスを過剰に語るのは、若者ではなく老人たちだということだ。確かに80年代くらいまで、「初体験」年齢が低ければ低いほど自慢になるような空気が確実にあった。テレビをつければ、女性がおっぱいを出してるような映像はいくらでもあって、セックスシーンも今よりもずっと濃厚に描かれていて、男が女好きで“スケベ”なのが「一般常識」で、人間の生きる最重要課題がセックスだ、というような空気があった。セクハラは「コミュニケーション」とされ、痴漢は犯罪ではなく「男性のいたずら」であった。

 で、そういう一つ一つを、「それ、違いますけど」とフェミニストたちがアップデートしていく作業がここ数十年間で行われてきたのだと思う。セックスは、言葉で同意を確認しながら、権力の乱用が起こりえない安全な状況で、安心した気持ちで、本当に自分がしたいと思えることを、お互いの意思を確認しながらするとすごく気持ちいいのではないでしょうか……というところに、行こうとしている……はずだ。それは「僕が性愛を定義する」という昔ながらのセックスよりも、ずっとマシなはずだけどね。

 教訓。昔話はほどほどに、だ。


暴風が吹き荒れている。
特大花瓶が倒れ割れた。